第18話 記憶 side:桃月 茜
「はぁ…緊張した…」
ウチは辻凪君が帰るのを見送った後、お店の清掃をバイトの子達と一緒にしてから入浴を済ませ、お店の奥にある家のリビングでお母さんと一緒にくつろいでいた。
お父さんはまだ仕込みをしてるみたいだけど、何か話し声が聞こえるから香織ちゃんのところと話してるのかもしれない。
…ちょっと申し訳ないけど…仕方ないよね。
そうウチが考えてると、ソファーの横に座っていたお母さんが不意に話しかけてきた。
「にしてもまさか茜がついさっきまで綾人君に気がついてなかったなんてね〜お母さんは一目で気付いたのに…」
「うっ………それは言わないでよ…お母さん」
「まあこっちに来るまでも色々あったものね、知らず知らずの内に思い込んでたのかしらね。まぁでもそんな顔してるってことは…ちゃんと思い出せたみたいね♪」
「…ふぇっ!?そ、そんな顔って何!?」
「あら?気がついてなかったの茜?綾人君が帰った後もずっと、今までにないくらい赤い顔した笑顔のままよ?今まで見せた事ないくらいの笑顔なもんだから、バイトの男の子達も顔真っ赤にしてたんだからね?」
……まさかウチが無意識の内にそんな事になってたなんて…気がつかなかった…
確かに自分の顔に手を当ててみると、確かに顔は熱く、胸はドキドキしたままだった。…出会えただけでこんなになってしまうなんて…
も、もし今のウチにこれ以上のことなんて起こったら………ウチはきっと爆発してしまうと思うくらいに…
「にしてもまさか同じ高校で、同じ学年で、たまたま家に今日食べにきて、それでちゃんと痴漢から助けてくれるなんて…これはまさに運命って言っても過言じゃないわよ茜!」
「え、えぇっ!?う、運命!?」
「そうよ!だから貴女もちゃんと今度こそ射止めなさいよ!見た所今はライバルがいなさそうだし…狙い目よ!大丈夫!茜はお母さんに似てめちゃくちゃ可愛いんだから!自信持って行きなさい!」
「それ自分で言うの!?」
そうカラカラと笑うお母さんにツッコミを入れて、ウチはこれからどう辻凪君と関わっていこうかと考えていると「…そう言えば」とお母さんが真剣な声で言い始める。
「勿論お母さんも今の綾人君に会ったのは今日が初めてなんだけどね…?なんだか綾人君…康介君として前に会った時よりも身体は大きいし、体系は細身でも意外とがっしりしてはいるんだけど…なんだか心の危なっかしさが増してる気がするのよね」
「確かに…ウチはちょっとしか分かんなかったけど…」
「はぁ〜茜もまだまだね〜姿形や名前とかの何もかもが違ったとしても、康介君は綾人君なの。だから今日感じたお母さんの勘は当たる気がするわ。…茜もちゃんと今度こそ綾人君の力になってあげてから勢いで堕とすのよ!!なんだったらお母さんがお父さんを堕とした時の秘訣を…」
「わー!わー!わかったから!聞きたくないから!!まだいいから!!!」
そうお母さんがお父さんの時のことを語り出そうとしたので、急遽ストップを入れる。…両親の惚気話なんて聞きたい子はいないからね…?
「うふふ冗談よ。とにかく!今ライバルらしい人がいないかもしれないんだから、今の内に胃袋をがっしりと掴んで、綾人君のことを茜がもっと知って、綾人君にも茜のことを知ってもらいなさい!…あの様子だと彼はあまり覚えてないみたいだから…もし他のライバルになる子がいたとしても、スタートラインは一緒なんだからね」
「う、うん…頑張るよ…」
そう言ってお母さんはソファーから立ち上がって部屋を出る前、にやけ顔で捨てゼリフを言って来る。
「それにしても…奥から見てたけど、綾人君の中でまだ茜の料理が一番美味しいみたいね♪」
「ちょ!なんで?!聞いてたの?!盗み聞きなんて趣味悪いよお母さん!!!」
「まぁまぁ♪いい事じゃない?アドバンテージになるものよ〜?胃袋を掴むって言うのは♡それにもう少ししたら林間学校があるんでしょ?クラスは違っても、もしかしたら何かあるかもしれないでしょ♪」
……もうこうなったお母さんに何を言っても無駄だとわかったウチは、林間学校のことを考える。…確かに林間学校は料理なんかも作るだろうし…
「…確かにそうかも」
「でしょ?班も香織ちゃんと美夜ちゃんで女子はほぼ確定なんだから、あんまり緊張せずにチャンスを狙って行きなさい♪それじゃおやすみ茜」
そうお母さんはリビングを出て行った。
その後ウチはソファーに寝転がって、夢だと思っていた昔の事を思い出しながら再び辻凪君の事を考える。
「…えへへ、本当に名前も顔も違うけど…やっぱり優しいところとか、話してて心があったかくなるところは変わらないんだね…綾人君……」
そうウチはいつからか持っていた記憶には残っていても買った覚えのない、想い人から貰った無地の青いハンカチを握りしめながらそう呟いた。
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