第17話 三人目の記憶の開花

「な、なんで君がここに?!」


「さ、さっきの……!?」


 そう俺たちは顔を合わせると、お互いに驚きながら顔を合わせる。なぜ俺がさっき助けた子が今、俺とカウンターを通して向かい合っているんだろう?

 そんなこともあり互いにパニックで固まっていると、横から瞳さんが俺たちの声をかけて来る。


「え?もう二人とも知り合いだったの?!………ヤダ運命じゃない…お母さんテンション上がっちゃう!」


「ちょっ!ちょっとお母さん!やめてよ!恥ずかしいから…」


 そんな言葉が聞こえていないのか、瞳さんはキャーッと言いながら嬉しそうにはしゃいでいる。

 …ってまさか…!?


「も、もしかして…こちらの方って…さっき仰ってた…瞳さんのお子さんですか…?」


「へ?そうよ?私の子の茜。似てるでしょ?…もしかして知らなかった?てっきり私の子も高校では有名になって来てるみたいだし、知ってるのかと………っていうか綾人君も茜も…友達…でも今はなさそうだし…どういう関係なの?」


「そ、それがね…さっきウチが話した事で……」


 そう頭を捻る瞳さんに、茜さん?が俺との出会いを説明し始めた。



「………なるほど。綾人君、本当に私の娘を助けてくれてありがとうございました。一人の娘を持つ親として、貴方の行動に深く感謝します」


 と、そう先程まであった陽気な表情をした瞳さんはいなくなり、真剣でいてしっかりと俺に敬意を持っているのがわかる表情で、俺に頭を下げて来た。


「あ、頭を上げてください。俺としては当たり前の事をしただけですから!」


 急に変わった瞳さんの態度に焦った俺は、そう言って頭を上げてもらう。すると瞳さんは優しい表情で俺を見て、少しの間なにかを懐かしむ様にしてから口を開いた。


「………うん、君ならそう言うと思ったよ。でもね綾人君、当たり前の事が出来るが当たり前じゃ無い事だってあるんだからね。……君の場合はその考えの根底が少し危なっかしい気がするから…(だから茜が………立ってて欲しいんだけどね)」


 そう何か最後小さく呟きながら瞳さんは席を立ち、奥の部屋に向かう扉の前で俺達にこう言って来た。


「じゃあ私は旦那と香織ちゃん達とその件でお相手とがあるから、茜?綾人君の横に座って、少しお話でもしておきなさい?」


「え?!ちょ!ちょっとお母さん?!」


 そう迫力のある笑顔とオーラを纏った瞳さんは、茜さんを自分が座っていた席に誘導した後、俺と茜さんを残して行ってしまった。


「あ、あの……先程の電車の中ではありがとうございました…」


「あ…いえ…気にしないでください」


「「…………」」


 き、気まずい…俺としては、まさかこんな直ぐ会うなんて思ってなかったし…しかもちょっとカッコつけて駅から去ってった分、恥ずかしさもあるし…

 そう思っていると不意に俺のお腹が


 ぐぅ〜…


 と音を立てて鳴ったので、俺は茜さんに話しかける。


「あの〜…これ食べてもいいですか?お腹すいちゃって…」


「も、もちろんどうぞ!むしろお待たせしてすみません!!」


 そう茜さんが、ばっと頭を下げたので俺は箸を持って食事を始めた。


「あむっ……ん?この焼肉……」


「えっ!?ダメでした!?ウチが今日それ作ってて…いつもはお父さんが作るんですけど…あのその…も、もしかして何か問題が…!?」


「いや、逆だよ!めちゃくちゃ美味しいよ!!!味付け、焼き加減、お肉の柔らかさに盛り付けまで完璧だよ!」


 そう、この焼肉…めちゃくちゃ美味いんだ。俺が逆立ちしてもこんな美味しい料理なんて作れないだろうなぁ…なんて思いながら俺はそう感想を言う。


「『いや〜この焼肉、俺が今まで食べた中で一番美味しいよ!凄いね茜さん(ちゃん)!』」


「え!?……なんで…その言葉……っ!まさか…」


 そう俺が目の前の料理を絶賛しながら味わっていると、横で何やら驚いた顔をした茜さんが俺を見ていたが、俺は気がつく事無く料理を食べ終えた。


「ご馳走様でした!いやー美味しかったよ。ありがとうございました茜さん」


「う、ううん!満足して貰えて良かったよ……!草n ……コホン…えっと…あ、綾人君?」


「あ、ごめんね、瞳さんには言ったから頭から抜けてて…改めて辻凪綾人です。えっと桃月…茜さんと一緒で三恋高校の一年生なんだ。同じ高校だし、またどこかで会うかもしれないね」


 まぁ高校で関わる気は全くないんだけどね。茜さんといるとこう…美少女オーラで俺の胃に穴が空いてしまいそうだし…

 すると茜さんは不意に俺に尋ねてくる。


「ウ、ウチは桃月茜です……あ、あのね辻凪君…さっき言ってた今までで一番美味しかったって……本当かな…?」


 そう俺に恥ずかしそうな顔をして尋ねてくる茜さん。……もしかして自信がなかったのかな?ならちゃんと言わないとな。


「もちろん本当だよ!あんなに美味しい料理食べた事ないよ!」


「…っ!そ、そうなんだ…ウチの料理が一番なんだ…えへへ……」


 そう茜さんは俺の横で、ふにゃりと表情を緩ませて喜んでいる。まぁ誰だって自分の料理を食べて喜んでくれたら嬉しいもんな。


 そんな会話をしながら俺は席を立ち、茜さんが食器を下げて帰ってきたのを見て、お会計をしてもらう事にした。


「じゃあえっとね…辻凪君のお会計なんだけど……今日はタダだってさっきお母さんが言ってたの」


「い、いやそれは流石に!ちゃんと払うよ?」


「ううん、いいの。今日は助けてくれたお礼って事だから…ちなみにもうああなったお母さんは梃子でも動かないし、受け取ってくれないから…ね?」


 俺はそう言われても少し申し訳なかったが、理由としては飲み込めたのでありがたくお気持ちを頂戴する事にした。


 そして俺が店から出るときに、後ろから茜さんが笑顔で俺にこう言ってきた。


「あ、あのね…そう言っても辻凪君が納得できないと思うんだけど…じゃあ代わりに…今度もまた絶対に食べにきてね!」


 なるほど…それなら商売としてもうまいし、俺にとってもありがたい申し出だ。

 そう言う事なら心置き無く受け取れると思った俺は「絶対にまたくるよ!」と言って、満ち足りた心で店を後にした。

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