第16話 三つの驚き

「えっと…お話し…ですか?僕と?」


「そうそう♪もうお客さんも少ないし、料理が来るまででいいからさ?ねっ?」


 そう俺に話しかけて来る店員さん。…なんで俺なんかと話したいのかはわからないが、断るのも悪いと思った俺は店員さんと話すことにした。


「わかりました、僕でいいならお話ししましょう」


「ホント?ありがとね康……少年♪えっとね…まず確認なんだけど、私のこと分かる?」


「…?分かる…と言うと?」


「あっゴメンゴメン、私の名前…分かるかな?」


「えっと……すみません、僕たちどこかでお会いしましたっけ…?」


 もしかしたら何処かで会っていた人なのか!?と焦った俺は、必死に思い出そうとするが…生憎今までの人生でこんなに綺麗な女性と面識は…何故か最近同年代では多い気はするが、年上の女性では無かった…と思う。最近が異常なだけで、元々美女とは縁が無いのだが。


 …でも何故か少しこの店員さんの事を懐かしいと感じる俺もいる。なんでだろう…お母さんのような…というと流石に失礼かな。


 そんな事を思っていると、お客さんのおじさん達が『なんだい瞳さん!旦那をほったらかして若いのを口説いてんのかい!わはははは』と店員さんをからかう様に声をかけられている。


「違うわよ!この酔っ払いどもが!私は旦那一筋よ!!!失礼ね!!!…………ふむふむ…なるほど……(コレは茜のことも…かな?…そうだとしたらちょっと残酷な試練かもねぇ…)」


 そう常連さんたちに店員さんが笑顔で言い返した後、少し考え込むような仕草をした店員さんを見て、俺は少し慌てて頭から言葉を出す。


「す、すみません…やっぱり何処かで…?」


「え?あ〜!違うの、この辺だと私ちょっとした有名人でね〜…新しいお客さんの少年が、あの酔っ払い親父達みたいに私のファンのお客さんかな?って思って聞いただけだからさ。安心していいわよ、と会ったのは初めてだから♪

 じゃあ改めて自己紹介ね、私は桃月瞳。この桃月食堂を旦那と子どもと一緒に切り盛りしてるの。ヨロシクね♪」


 そう店員さん……桃月さんは俺に自己紹介をして来る。というか桃月さんってどこかで聞いたような………って?!


「えぇ?!桃月さんお子さんがいらっしゃるんですか?!…てっきりまだ大学生くらいかと…」


 …ビックリだ、まさか横にいる美人さんが結婚していてお子さんもいらっしゃるなんて…全く見えない…いやパートナーがいるのはなんら不思議では無いのだが、この若さでか…と言うその衝撃のせいで、俺の頭の中からどこで聞いた名前なのかがすっぽりと抜けてしまった。


 そう俺が一人で驚いていると、桃月さんは嬉しそうに口に手を当てて笑っている。


「あはは!やっぱりホント変わってないっていうか…中身は君のまんまなのね…このやり取りも懐かしいわ…」


 そう昔を懐かしむように遠い目をしている。俺が頭に「?」を浮かべていると、桃月さんは「うぅん、気にしないで」と言って、俺に言葉を続ける。


「それより私のことは『瞳さん』で良いわよ。ここの家族はみんな桃月だからね。それに…実は私、こう見えても高校生以上の子どもを二人持つ母なのよ〜?」


「あぁ…わかりまし…………って?!えっ!?ほ、ホントですかそれ?!?!てっきりお子さんって言っても、瞳さんの若さなら保育園児くらいかと……」


 まさかの2回目の衝撃発言で、俺はまた滅茶苦茶驚いた。だってどう見ても20代後半ほどの美しさを保っている瞳さんが、そんなに大きなお子さんがいる様には全く見えないからだ。

 ………これがリアル美魔女ってやつか…。


 そして当の本人の瞳さんは俺の反応がお気に召したのか、またさっきの様に愉快そうに笑っている。


「あっはっはっはっは!やっぱり良いね!良い反応してくれるよ君は!………因みに私の子どもは超がつくイケメン(顔だけ見れば)と美少女よ?!びっくりするでしょ?!」


「あっ、だと思いました。いや〜瞳さんもこんなにお綺麗ですし、そんな瞳さんのお子さんはさぞ美形なんだろうなって思いました」


 …いや流石にそれは予想の範囲内っていうか…瞳さんを見てたらその遺伝子を引き継いでいる子どもも美形な事は約束されている様なものだろう。…イケメンでない俺からしたらその遺伝子は羨ましい。


 そう思っていると瞳さんは少し照れた様な表情で俺を見てきた。


「ふ、ふぅ〜ん…やっぱり君はナチュラルにそんなこと言える人なんだね……君じゃなかったら口説かれてると思っちゃうところだったよ……全く天然の人たらしというか…まぁそこが良いところでもあるんだけどねぇ…」


 と、そう俺を見ながら言って来る。…たらしこんでるんじゃなくて思った事を言ってるだけなんだけどなぁ…?


「そ、そんなことより、の君の名前は?なんて言うのかな?その色と制服は今年の1年生のネクタイと三恋高校のだと思うけど…」


「…?あ!すみません名乗ってなくって。え、えっと辻凪綾人って言います。最近ここに越して来て、今年1年生で入学しました」


「…そう。辻凪綾人くんって言うのね…良い名前だと思うわ。じゃあ私の娘と一緒の学年ね〜……これも運命かしら!」


「えっ?!そうなんですね。すごい偶然で…」


 俺が瞳さんとそんな他愛もない話をしていると、俺の正面右側から「お待たせしました〜!」と言いながら焼肉定食を持った店員さんが俺の前までやって来て、できたての焼肉定食を机においてくれる。


 …どこかで聞いた様な声だと思いながら顔を正面に向けると…


「「えぇぇぇ?!?!」」


 と、二人仲良く同じ反応で驚き、声をあげてしまった。


 なぜならそこに数時間前、痴漢から助けた美少女がエプロンを身に付けて立っていたからだ。

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