第8話 運命の人

「ふぅ…これで大丈夫かな…」


 俺は去っていった不良達を見届けた後、自分の左手をキツく縛って止血する。


 …アイツらが喧嘩慣れしてないイキリ不良でよかった…ガチもんだったら誰かを守りながら戦うなんて無理だっただろうしな。俺の元いた道場なんて、怪物みたいな連中ばっかりだったし…


 それにしても…ダメだな、ああいうのを見かけると頭が沸騰したみたいに熱くなって、後先考えずに突っ込んでいくのは俺の悪い癖だ。

 しかも武術は…まぁ終ぞ兄さんに勝てなかった俺の弱い技なんて、一般人と比べても誤差だし…相手はナイフ持ってたからな。…うん正当防衛でしょ。


「あ、あの……?」


「は、はい!なんです……」


 と俺がウンウン唸っていると、背後から助けた女性が声をかけて来た。俺は髪をそのままにその子の方へ振り返ってしまった。


 その女の子と俺の間を無情にも月明かりが照らす。

 対面したその子と俺は、美の化身のようなブロンド髪の幻想的な美貌を持つその子と、分けた髪の中の額から覗くと、額にを残した目付きの悪い悪魔のような俺とで、見事な対比が現れていた。


「…っ!?」


「す、すみません!隠すの忘れてました!!!」


 そういって俺は一瞬で顔を隠し、距離を少し取って改めて向き直る。…ミスったな、人に見せて気分のいいものじゃないのに…


「い、いえ…あの!アタシと妹を助けてくれて…ありがとう…それと手…大丈夫なの?」


「へっ?あ、あぁ!でしたか!気にしないでください。慣れてますから」


 その女性は俺の顔をしっかりと見てしまって、気味が悪いはずなのに先にお礼を言ってくれたし、その上俺の手の心配もしてくれている。

 今もさっきの事で怖いはずなのに随分としっかりとした人だな…今まで俺の顔を見て逃げなかったのは、勇次くらいだったのに…


「(そんな事……やっぱり…似てる…)」


 なんだか女性の方は混乱しているようだが、その間に女の子の方が俺の元に寄ってきてぺこりと頭を下げた。


「お姉ちゃんと流華を助けてくれて、ありがどう…ございまじだ……ヒック…グスン……うえーん!怖かっだよぉ〜!!!」


 そういって流華ちゃん?は、俺のお腹の辺りに顔を埋めて泣き出してしまった。

 (ど、ど、どうしよう?!?!泣いちゃったよ?!?!?)とパニックになりそうな気持ちを抑えて、俺は右手で頭を撫でながら流華ちゃんに目線を合わせて、優しく微笑む。


「大丈夫?怪我はしてないかな?ごめんね…お兄ちゃんがもうちょっと早く来てたら良かったね…でも間に合ってよかったよ」


「ぐすっ……違うよ、お兄ちゃんは……流華とお姉ちゃんののヒーローさんだよ…ひっく……」


 そう言ってくれる流華ちゃんに俺は優しく言葉を返す。


「…ありがとうそう言ってくれて。でもね?お礼なら助けを呼んでくれた、君のお姉ちゃんにいっぱい言ってあげな?」


「…うん!…うん!!お姉ちゃん!!!ありがとう!」


「流華……ごめん…ごめんね………」


 そう泣きながら抱き合う姉妹に、俺は落ち着くまで少し待って静かに声をかける。


「あ〜そのなんだ…人通りの多いところまでは付いて行こうか?流華ちゃんと…お姉さん?」


「……か」


「え?」


「鈴華………アタシの名前なんだけど……一回呼んでみてくれない?」


 そう言って少し恥ずかしそうにしながら俺にそう言ってくる鈴華さん。…でもアレ?なんかこんな感じ前にも経験あったような……無いよな?気のせいか


「お姉ちゃん……やっぱりそうなのかな?」


「分かんない……でも………呼んで貰ったら分かる気がする…」


 何か姉妹で通じ合ってるみたいだけど…まぁいいか。


「えっとじゃあ……す、鈴華……さん……?」


「っ!?………やっぱり、こー……」


 そう何かを言いかけた鈴華さん。…どうしたんだろうか?下の名前で呼んで気持ち悪いとか思われた?!

 …いや向こうがそう呼んでって言ったんだから、無いよな?そう怖くなった俺はそれとなく移動を促した。


「えっと…とりあえず行きますか…?」


「う、うん……流華も行こっか?」


 そう言って俺たちは暗い道を抜け、人通りの多い大通りまで来た。

 彼女達は高峰さんという苗字らしく、俺は妹ちゃんだけ名前で呼ぶことにした。…何故か流華ちゃんが高峰さんに勝ち誇ったような顔をしていたけど…


 その道中高峰さんに「高校は?」「名前は?」「アタシの事は?」ととにかく質問攻めだったが、俺は自分の高校と彼女の制服が一緒だったので、一年生で高校が同じ事だけを伝えた。

 …名前は名乗る必要も無いからね。今日の事はすぐにでも忘れて欲しいし。


「お兄ちゃん、この辺が流華達のお家の近くだよ」


「そうなのか?よし、この辺なら大丈夫かな。じゃあ俺はこの辺までで良いかな?」


「ま、待ってよ…まだアンタに助けて貰ったお礼が…!」


「要らないよ、そんなの。俺が勝手にやって、結果的に高峰さん達を助けた形になっただけだしね。…どうしてもっていうならこれがお礼って言えるか分かんないけど、俺の顔の事は黙っててくれると嬉しいかな。じゃあ俺急いでるから!気をつけて!」


 そう言って俺はその場から走り去りながらスマホを見る。時刻は20時半程…ギリギリだな…そう思った俺は全力疾走でスーパーに走ることにした。



【高峰side】


「……やっぱり…絶対運命だよね?こんなの……ここでもおんなじ高校で…助けてって言ったら助けてくれるなんて……」


「うん……お姉ちゃん、絶対合ってるよ…あんなに優しくてあったかい心の人…流華、お父さん以外だと一人しか知らないもん…」


「うん…うん!…あの時と助け方も、あの性格も…見た目以外何もかもが一緒だもんね……ホントに……アタシを不安にさせないでよ………ばか……」


 そう感動で潤んだ瞳をした二人の姉妹は、笑顔で彼が去って行った方に向かって声を漏らした。

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