第6話 些細な劣等感、美白璃奈の心情
「ね、姉さん辞めてよ…恥ずかしいから…それに兄さん、こんな高級な物受け取れないよ」
そう言って俺に抱きついて来る瑞樹姉さんを引き剥がしつつ、兄さんに時計を返す。
「む?そうか?綾人に似合うと思ったんだが…そうだな高校生には少し高価すぎたか…」
そう兄さんは言いつつ「これは綾人の成人祝いに取っておくよ」と時計を紙袋に閉まった。そんな兄さんを他所に、瑞樹姉さんが頬を膨らませている。
「むー!綾君は恥ずかしがり屋さんなんだから〜!昔は『瑞姉ちゃん〜』って言ってて可愛かったのに〜!」
「まあまあ瑞樹、綾人もそういう歳じゃもう無いんだよ。いつまでも子供という訳にはいかないからね。…けど綾人?まだ綾人は高校生なんだ。一人暮らしも大変だろうから、いつでも連絡して来なよ?」
「ちぇっそうだよ?綾君?もっとお姉ちゃん達を頼っていいんだからね?」
そう言ってくれる兄さん達に俺は複雑な気持ちを抱きながらも、厚意自体はとても嬉しいので笑顔で言葉を返す。
「大丈夫だよ、なんとか一人でやれてるし。それに勇次にも助けて貰ってるしね」
「そうか…なら良いんだ。綾人は俺たちの弟だからな、遠慮なんてするなよ?それと勇次君、いつも綾人と一緒にいてくれてありがとう。兄としていうことでは無いと思うんだが…これからも綾人の事をよろしく頼むよ」
「お姉ちゃんからもお願いね?綾君の事」
「任せて下さい彰人さん、瑞樹さん。綾人は俺が面倒見ますんで!」
そう言った勇次を二人は見て、ご家族も一緒にご飯でも行こうかという話になったのだが、急遽電話が掛かってきて二人とも仕事が入ってしまい、二人は渋々帰っていった。
「にしてもスゲーよな、彰人さんに瑞樹さん。今やどっちも世界に通用するレベルの有名人だもんなぁ…」
「……そうだな、本当に自慢の兄貴達だよ…」
「…まあでも俺はやっぱ親しみのある綾人が一番良いと思うぜ!良いヤツなのは俺が一番知ってるからな!さてと、そろそろ行くか!もう親父達も来たみたいだしさ」
俺の状態を気にしてか、勇次はさっさと帰ろうと言ってくれる。…本当に優しいヤツだな。そんな気を遣わせてるようじゃ、俺もまだまだダメだな。
(切り替えていかないとな…いつまでもあの頃の事を引きずってる訳にもいかないし…)
そう思った俺は、勇次の家族と一緒に帰ることにした。
◇
【美白side】
「ふ〜んふんふふ〜ん♪」
「ご機嫌だね姉ちゃん、まぁそれも仕方ないか…やっと逢えたんだもんね康介さ…綾人さんに」
「そう!そうなの!やっとここで逢えたの!えへへ…辻凪綾人君かぁ〜…」
と私は溢れ出て来る笑顔が抑えきれず、蕩けるような笑顔を家族の前で出している。
いま私は家族で私の入学祝いをする為に、近くのファミレスにきていた。私たちはもう食べ終わったのだが、まだこの時間帯は人も多く様々な男の人からの視線も感じるが、私はそんな事も気にならないくらいに今は彼の事に夢中だった。
「儂だけ直接康介君…あぁいや、今は綾人君だったか。彼を見れていないんだが…本当に彼だったのか?璃奈?」
そう言って対面座席にいる私に声をかけてきたのは、私の父の
しかし昔のような怖さは私の中には無く、今はとても優しいお父さんです。……こうなれたのも全部、綾人君のおかげですね…
「えぇお父さん。彼と昔会った時と同じ雰囲気で、名前や顔は違えどあの目はそのままでした…それに私が好きな人を間違えることなんて絶対にあり得ませんから!」
「……確かに姉ちゃんこの世界に来た時は暴走寸前だったもんね…『康介君は?!康介君を探しに行きましょう!玄也!』ってね」
「も、もう!玄也ったら…それは言わない約束でしょう!?」
そう私が言うと玄也は笑い、お父さんは少し嬉しそうで寂しそうな顔をしていました。
「そうか…璃奈がそう言うなら…儂も彼には感謝しているからな。今度また彼を家に連れて来なさい。……
そう言ってお父さんは、首から下げているロケットペンダントを指で撫でて、そう呟いた。
「……うん、わかったよお父さん。私も心から好きな人に出会えたよって、お母さんに言いたいもん…」
「…真里も喜ぶだろうな、ハッハッハ!でもな璃奈?ちゃんと好きだって言わないと、綾人君が取られてしまうかもしれないぞ?」
「そ、それは嫌です!絶対嫌です!!!」
絶対!絶対に彼を今度は失いたくない私は、反射的にお父さんにそう返してしまいました…少し必死すぎて恥ずかしいですね…
「なら、彼に引かれないくらいでグイグイ行きなさい。お父さんもお母さんと結婚するまでにすごく頑張ったものだ」
「そ、そうします…」
綾人君と結婚するなんて…まだまだ遠いそんなことを考えると少し恥ずかしくなってしまった私は、玄也と一緒に先に車に向かう事にした。
◇
「……あの子がああも嬉しそうな顔をしていると、昔の儂は一体何をしていたんだと怒鳴ってやりたくなるね…なぁ?真里?」
そう会計を終えてから外に出た男は、その男の首に掛けられている銀色のロケットペンダントを優しく握りしめ、空に向かって微笑みながら小さく呟いた。
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