ヒロイン視点 世界との別れ

ヒロインの心情【今と出会い】side:美白璃奈

「卒業…かぁ……」


 そう私は自分のベッドの上で呟いた。


 私には心から好きな人がいる、その人は言葉に優しさや思いやり、それに強い芯があって自分を強く持っている人だ。

 その人は決して上辺だけで物事を語ったりしないし、お世辞も言わない。彼が真剣に物事に取り組んでいる顔は、いつまでも見ていたくなるほど素敵な表情をしている。


「草薙……康介…君」


 私は好きな人の声や顔を思い出し、顔を赤らめながら今までのことを振り返る。



 ◇



 初めて彼と会ったのは入学式の日、初めて見た彼は随分と困惑しており何もかもがわからないと言った表情を浮かべていたので、私は今までの経験上ろくな事にはならないだろうな、と思いながらも見て見ぬ振りは出来ずに彼に声をかけました。


 最初は警戒を強く出しつつも驚いた顔をしていましたが、クラスまでの行き方などを教えてあげると『ご親切にどうもありがとうございます!助かりました!』と頭を下げてお礼を言いながら、周りで私たち(主に私でしょうか)を見ていた人達をかき分けて人混みに紛れて行ってしまいました。




 こう言う言い方は好きではないのですが、私は数年前に亡くなったお母様に似て随分と整った容姿で生まれ育ちました。その為か幼い頃から男性の目を引く事が多く、一時期は二つ下の弟とずっと居ないと不安で仕方ありませんでした。


 しかし私は母様が遺してくれた『璃奈、貴女は人に優しくする事を忘れないで…貴女がそれを強く持っていれば、いつかきっと貴女のその優しい心に優しさで触れ返してくれる素敵な人と出会えるわ…』と言う言葉を胸に、人に優しくする事を自分なりにしてきました。


 勿論その優しさをそのまま受け取ってくださる方もいましたが、しかし物語のようにいい人ばかりでは無いのが現実でした。


 男性は『自分に好意があるから優しくしてくれているんだ!』と思う方ばかりで、女性は『自分優しいアピールして男に媚びている』と言う人もいました。


 そのせいでストーカーや悪質なナンパ、酷いものだと男性に襲われかけた事もあります。


 他にも親切にされたりしてお話ししてみると何かしらの見返りを求める人、私の優しさに寄生しようとする人など、人生においていいことは殆どありませんでした。


 なので私は高校に入ってからは必要最低限の優しさにしよう、赤の他人にはすぐに優しさを見せないようにしようと決めたのです。


 しかし私は入学式の日に見かけた彼に対して今までの癖で優しさを出してしまいました。『この方もまた何かの勘違いをするんだろうな』そう思っていると彼はお礼だけを言い残し、必要以上に私に興味を示さず颯爽と去って行ってしまいました。


 勿論急いでいたからとか焦っていたからと言う線も捨てきれずにいましたが、私は高校に入学して男性で初めて等身大の優しさに、同じ大きさの感謝を返してくれる人に出会ったのです。


 今回だけかもしれないとはいえ、彼の言動のそこに一切の下心や過剰な関心は無く、言葉を交わして心地良いと感じた私は、肉親以外で初めて同年代以上の異性に興味を持ったのです。



 ◇



「懐かしいな…私が康介君に興味を持ち始めたあの日…今思えば康介君が母様の言っていた運命の人だったのかな……そうだと良いなぁ…」


 それに興味を持ち始めたのはあの時がキッカケだけど、康介君に完全に惚れ込んだのはもう少し経った頃の話だからね、チョロインじゃ無いんだから!と心の中でもそう言いつつ、さっきチャットアプリで康介君が言っていた事を思い出す。


「むむぅ…私の他に康介君を狙う人が二人も…いいえ、康介君の場合なら二人だけで済んで良かったと思うべきでしょうか…」


 なにせあんなに心がカッコいい男性、私は肉親以外だと見たこと無いですもの。それにしても…


「『絶対に負けない』に『アタシが一番になる』か…」


 こういうと嫌な言い方にはなるけど、私は心でも容姿でも綺麗さは大体の人達には負けてないと思う。でも文字から伝わってくるこの名前も知らない二人からは、すごい気迫を感じる…私も心で負けてしまうと取り返しがつかないと感じるくらいには。


「やっぱり全力で行くしか無いよね…普段学校では全くしないメイクと、ヘアアレンジにも入念に気を遣って…」


 そうすると他の男子や男の人からの視線も増えるけど……私の恋を叶えるため!取られる前に勝ち取らなきゃ!それに明日は弟に近くにいてもらえればいいしね!


 ふと廊下側から『コンコン』と部屋のドアを叩く音がする。「入っていいよ〜」と声をかけるとドアを開けて大柄な男性が入ってくる。


「姉ちゃんこんな時間になんか用?」


「うん!明日のヘアメイクを手伝って欲しいのと…明日は近くにいて欲しいなぁって…」


「姉ちゃんも大変だね…わかったよ任せて」


 そう言いながら何かを察したようなそぶりを見せているのは私の弟、美白玄也みしろげんや

 高校一年生なのに身長183センチ、私と反対の日焼けによる色黒の肌に持ち前の大きな体格。お父さん譲りのワイルドな顔つき、また武道の心得もあるため男避けとしても完璧な弟!一家に一台私の弟がいれば安心!!!


「…いま一家に一台欲しいとか思った?」


「お、思ってないわよ?」


 鋭いですね…流石私の弟…


「まあいいよ、で?やっぱり相手は康介さんなんだろ?姉ちゃん」


「う、うん…だからウンとオシャレしたいな…って」


「うんうん、俺も康介さんは逃がしちゃダメだと思うし、にも康介さんなら安心だしね。だから明日は気合い入れて行こうよ。じゃあ俺はもう寝るね、お休み姉ちゃん」


「うん、おやすみ玄也」


 そういって部屋を出て行った弟を見送った後、私もすぐにベッドに入って寝ることにした。


「明日…絶対に成功させてみせるから…待っててね、康介くん」


 翌日康介君にあんな事が起きていたなんて知りもしなかった私は、静かに眠りについた。

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