夢の終わりは突然に…④
「「すみませんでした(っした)!!!」」
「いやうん…ほんと大丈夫だから」
あの後茜ちゃんに説明された二人は俺に頭を下げて謝っている。まあ茜ちゃんを守るためにやった事だから俺も仕方ない事だと思っているが、茜ちゃんはご立腹の様だ。
「もう!二人とも!守ろうとしてくれたのは嬉しいけど、確認もせずに中段蹴りしちゃダメだよ!!!」
「「いやホントにその通りでございます…」」
茜ちゃんにプンプンと怒られている眼鏡をかけた黒髪の真面目そうな子が水嶋さんで、金髪の黒ギャルっぽい派手な見た目をしている子が木谷さん。二人とも茜ちゃんの幼馴染で、幼稚園から高校に入ってからもずっと仲良くしている様だ。
「まあまあ桃月さん、二人とも桃月さんを守ろうとしてくれたんだからさ、悪気があった訳じゃないんだから許して上げてよ」
「ま、まぁ草薙くんがそう言うなら…もう一回草薙くんに謝ったら許してあげる!」
そう茜ちゃんが言うともう一度二人は謝ってくれた。うん、良い幼馴染だなあ。
「でもそう…君があの時も今日も茜を助けてくれた草薙くんだったのね…改めてお礼を言わせて、ありがとう。」
「あーしも!あーちゃんを守ってくれてあんがとね!」
「いやいや…茜ちゃ…桃月さんに何かあったら大変だからね、当然だよ」
危ない危ない、いつもの感じで茜ちゃんって言いかけた…誰も聞いてないよな?と辺りを見回すが、幸い近くには誰もいなかった様だ。
そう安堵していると水嶋さんが笑顔でこう言ってきた。
「草薙君は茜のこと外ではそう呼んでくれてるんだね。大丈夫だよ、もう近くに私たち以外いないみたいだから」
「あ〜桃月さん呼びの話?」
「うん。茜があの時から男の子と二人っきりで話す事ってほとんど無くなったからね…そんな茜が一人の男子と親しげに話してると、男性恐怖症が嘘なんじゃないかって思われて男子が話しかけてくるんじゃないかって思ってるんでしょう?」
「まぁ…そう…かな」
参った、流石茜ちゃんの幼馴染…学校ではあまり親しげにしてなかった理由はそれだ。茜ちゃんには昔そう言う説明をしていたから、今日話しかけられた時に驚いた顔をしていたんだろう。
「やっぱりね、私は勘の良い方だからね。そうだとしたら茜が好k「なっ!何言ってるの?!香織ちゃん!?!?」」
そう言いながら凄まじい速さで水嶋さんの口を手で塞いで拘束する茜ちゃん。…凄いな、流石に俺もアレを不意打ちでやられたら対応出来ないかも…
今知ったが水嶋さんの名前は香織さんと言うみたいだ。
「ハイハイ!もうふざけてないで、そろそろ帰るよ!二人とも!」
「そ、そうだね…ゴメンね、美夜ちゃんに草薙君も…もう!香織が変なこというから!」
「ご、ごめ…ちょ…う、腕が…茜……いやでもおっぱいが……これはこれで……」
だんだん水嶋さんの顔が青くなって来ているのに、表情は幸せそうと言う変な所まで来ていたので、木谷さんと共に救出する。また知ったが木谷さんは美夜と言う名前らしい。
「あ…でもウチ先生に呼ばれてるんだよね?草薙くん?」
「ああ、あれは嘘だよ。だからこのまま帰れるよ」
「そ、そうなんだ…」
「「……」」
まただ…この空気…気まずい……なんだこれ…
「ちょっとあーちゃん!こっち来なさい!」
と茜ちゃんが木谷さんに連れ去られて行った。
「(なにやってんのあーちゃん!ここは帰りに誘うとこでしょ?!)」
「(で、でも美夜ちゃん…急になんて…)」
「(馬鹿!あーちゃんから聞いた話とあーしの見立てではあのタイプはモテるし、今も多分あーちゃんが知らないだけでライバルがいても全く不思議じゃないんだよ?!あーちゃんは卒業前に誰かに取られても良いの?!)」
「(だ、ダメだよ?!それは…嫌だよ……)」
「(ならここがちゃんここがチャンスでしょ!ついでに卒業式の後告白する誘いもしちゃいなさい!)」
「(ええぇ?!)」
なんだかコソコソと二人が話してるけど…どうしたんだろう?
「草薙君、私からの頼み聞いてくれないかしら?」
「なにかな?水嶋さん?」
「この後茜と一緒に帰ってあげてくれない?」
「え?」
「ち、ちょっと香織ちゃん?!?!そんな急に?!」
茜ちゃんが顔を真っ赤にして会話に割って入ってくる。そんな茜ちゃんに『まあ聞きなさい』と水嶋さんが一言。
「話に聞いたさっきの不良たちがまだ待ってるかもしれないでしょ?なら男手があったほうが安心でしょ?草薙君はぴったりの人材じゃないかしら」
「た、確かに…それはそうなんだけど…」
「どう?草薙君」
そう言われたら一緒に帰るしかないじゃないか。また茜ちゃんに危険な目に遭わせる訳にはいかないしな。
「わかった。俺は茜ちゃんが良いならそれで良いよ」
「なら決まりね、じゃあ茜のことは頼むわね草薙君」
「えっ?!く、草薙くんとふ、二人っきりなの?!」
「そうだよ?あーちゃん。あーしらもこの後予定あるし。ね?かおりん?」
「ええそうね、美夜の言う通りよ。じゃあ私たちは帰るからね」
「またね〜あーちゃんと草薙〜」
そう言って二人は先に帰って行ってしまった。
「…じゃあ俺たちも帰ろうか?」
「う、うん…そうしよっか…」
そうして茜ちゃんと帰ることにし、昇降口に向かった。
…二人を尾ける影には気がつかないまま。
◇
少し遅い帰宅になったので帰り道に生徒はほとんどおらず、茜ちゃんと二人で通学路を歩いて行く。三年間片手で数える程しか誰かと帰った経験がないので、俺としても何を話すか急に緊張していたのだが、ここで黙ったままとはいかない為ありきたりな話題を振ってみることにした。
「明日で卒業だね茜ちゃん、三年間色々あったなぁ…」
「そ、そうだね…ホントに…色々あったね…」
「俺もまさかこんなにリアルだと思わなかったよ、すごい貴重な経験だったな」
いやホントによく出来た夢だよな、ホントにみんな生きてるみたいだし。
「ぷっ…何悟ったようなこと言ってるの草薙くん」
「えっ?!そんな感じだったかな?!」
「そうだよ〜おかしいよ草薙くん」
コロコロと可愛らしく笑いながらそう言う茜ちゃん。…幻想の世界とはいえ、ホントにこの子の笑顔をあの時守れてよかったと心の底から思う。そんなことを思っていると「ねぇ」と茜ちゃんが声をかけてきた。
「草薙くんは高校三年間で、一番良かったって思ったことって…何かある?」
何かあっただろうかといろんな思い出を振り返りながら考えていると茜ちゃんが続ける。
「ウチはね…二年生の頃のあの時…草薙くんが助けてくれたあの時が、今考えると一番良かったなって思うんだ。」
「えっ?なんで…?」
「そう思うよね、ウチもあんなに怖い思いをしたのになんでだろって……でもね?あの時、ウチが一番のピンチになった時に迷いなく助けてくれた香織ちゃんと、美夜と……草薙くんを…本当の意味で大事だなって思ったのがあの時だったの」
茜ちゃんは思い出すような顔をしながら俺に話してくれる。
「今までお母さん譲りのこの顔のおかげで勿論、楽しいこともあったよ。けど怖い思いもいっぱいしてきたし、よってくる人もウチの外見が好きなだけで中身を見ようともしてくれなかった…でも香織ちゃんと美夜以外にウチのことをちゃんと見ようとしてくれた人……それが草薙くんなんだよ?」
「そんな大げさな事じゃないよ。友達なら当たり前の事だし……俺が心からしたいと思った事だったしな」
「ううん、草薙くんにとってはそれが当たり前の事だったとしても、それをしてくれる人にウチは出会ったことがなかった。だからね……そんな心から迷いなくウチに向かい合ってくれた草薙くんにね…ウチも真っ直ぐに向かいたいって思ったんだ。」
そう俺の前に歩き出て向き合い、何かを決意したような強い瞳を宿した茜ちゃんから俺は目を離せなかった。
「草薙康介くん、卒業式の後ウチに時間を下さい!」
そう頭を下げてお願いしてくる茜ちゃん。俺は何やら真剣な茜ちゃんに言葉を返す。
「わかった、何か言いたいことがあるのか?」
「うん!ありがとう!草薙くん!」
「でももう一人話す人がいるから、その人にも伝えても良いかな?」
「(や、やっぱり…いるんだね…ウチのライバルが…)う、うん!でもウチ絶対に負けないからってその人に言っておいてね!」
「?う、うん…わかった」
「じゃあもう家そこだから、また明日ね!草薙くん!」
そう言って去って行く茜ちゃんの何か吹っ切れたような素敵な笑顔は、夕日をバックにとても美しく…それでいて強い意志を感じられるような何かがあったのだった。
「うぅ…あーぢゃんが〜〜!あーぢゃんがあぁぁぁああ!がおりーん!!」
「ほら涙拭きなさい、美夜…あの茜がやっと踏み出したんだもの…応援してあげましょう?ねっ?」
うおぉぉぉおん!と二人の後ろにいた二つの影は親友の開花を涙ながらに見守っていた。
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