夢の終わりは突然に…③

 あれから遅刻した俺はキッチリ担任の元部先生に怒られた後、「事情は保健室の先生から聞いてるからな、先生としては遅刻を怒るが男としては褒めてやる」と先生はガハハと笑いながら言っていた。ホント怖いのは顔だけなんだよな…この先生。


 それから授業が進み、放課後になった。美白はあの後少し経ってから教室に入って来た。何処からか情報が漏れたのか、美白を心配する人で今も席周りはごった返してはいるが、彼女の友人達が近くにいるので大丈夫だろう。


「さて、そろそろ帰るか…」


 ほぼ同じ理由の遅刻でも俺の席周りには誰一人としていない。まぁその方が動きやすくて助かるがな!……決して悲しくなんてないぞ。ホントに……

 そして教室を出て昇降口に向かって歩いていると、前には茶色い髪をフワフワとさせながら友達二人と歩いている茜ちゃんを見つけた。確か…横にいるのは水嶋みずしまさんと木谷きたにさんだったか。


「そんじゃ茜ごめんね!ちょっとだけ私らお手洗い行ってくるから、前で待ってて」


「うん、ゆっくりでいいよ」


「マジ秒で戻るから!ごめんね!あーちゃん!」


 そう言いながら友人二人はお手洗いに入っていき、そして茜ちゃんはトイレに向かい側の壁にもたれて二人を待っている。ここまでならごく普通の日常生活の一片なのだが、しかし茜ちゃんは 【三大美女】と言われる超がつく美少女である。


 あの庇護欲をそそられる身長に人形の様に整った顔、天使の輪が浮かんでいる美しい茶髪は窓から吹いた風に揺られ、人を待っているだけの風景にも関わらず髪を抑える仕草一つで絵画を連想させる程の存在感を放っている。


「「「「「っ……」」」」」


 近くにいたり通ったりした生徒は男女問わず彼女の放つオーラにあてられ、息をするのも忘れて見惚れている様だ。そりゃそうだ。こんなのどこの美術館でも見た事がないほどに完成しているのだから。


 しかしそれは心が綺麗な人間にしか響かない。茜ちゃんの向こう側から『ギャハハハハッ!』と品の無い笑い声を上げながら歩いてくる不良三人組が見えた。周りの迷惑なんぞ考えていないかの様な振舞いで、まっすぐこちらに向かってくる。……あいつらの事は知っている。あいつらはに高峰関係のいざこざで一悶着あった連中のグループにいた奴らだ。


 友人が退学になったあの事件から少しはおとなしくなった様だが、やはり類は友を呼ぶというかアイツらには女性関係でも良い噂は聞かない。


 そうこうしている間に三人のうちの一人が茜ちゃんの方を指差して仲間内でニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。明日が式だから滅多なことはしないと思いたいが…全く気分が悪い。

 このままでは茜ちゃんが絡まれるのが目に見えている。しかも茜ちゃんは俺の持っている改造防犯ブザーを使う事になった以来、軽い男性恐怖症に陥ってしまって男性と話す事が極度の恐怖に襲われる様になってしまったのだ。


 今はマシにはなってきている様だが、アイツらは無理だろう。

 ならどうするか、答えは一つだ。


「こんにちは、桃月さん。コレ…桃月さんのだよね?さっき廊下に落としてたよ。はい」


「え?く、草薙くん?!ど、どうしたの?」


「ほらこのハンカチだよ。桃月さんのでしょ?(話合わせて)」


「…!そ、そうなの!ウチのハンカチ落としてたんだ〜…あ、ありがとう草薙くん!」


「後先生が桃月さんの事を呼んでたよ、急ぎの感じだったからお友達が出てきたら職員室にすぐ行った方が良いかもね」


 と何かに気付いた茜ちゃんに今日は使っていない無地のハンカチを手渡し、少し大きな声で先生の影をチラつかせる。すると不良達は先生関連で面倒だと思ったのか、鋭い目つきで俺を睨みながら『チッ…クソが!』と吐き捨てながら去って行った。


「ふぅ…なんとかなって良かったね、桃月さん」


「う、うん…ありがとう…草薙くん」


「いやいや友達を助けただけだし、お礼なんていらないよ」


「(友達…か…いや、でもウチがここから上げていけば!)」


 そう返すと茜ちゃんが一瞬悲しそうな顔をしたが、次の瞬間決意に満ちた顔をして『ふんすっ!』と気合いを入れていた。なんだ?


「そ、それはそうと!草薙くんこのハンカチって…本当に貰ってもいいのかな…?」


「ん?欲しいならそんなのじゃなくて、ちゃんとしたやつ買って明日渡そうか?卒業祝い的な?」


「ううん、ウチはコレが良いかな。だめ…?」


 うっ!?出ました美少女限定、必殺の上目遣い…可愛すぎるんだよ…それ。


「そ、そんなので良いなら…今日は使ってないし…」


「やった……!ありがとう草薙くん!一生大事にするね!」


 そう行ってパァっと花が咲いた様に綺麗な笑顔を向けてくる茜ちゃんに、俺はノックアウトされかけてしまった…そんなやりとりを茜ちゃんとしていると


「「私らの茜(あーちゃん)に何やっとんじゃぁ!!!」」


「グハァ!!!」


 重く鋭いWキックが俺の脇腹に直撃した。めっちゃ痛い………


「大丈夫?!茜?変なことされてない?!」


「あーちゃん〜ゴメンね!一人ずつ行けば良かったね!」


「えっとね、二人とも…その人が前に言ってた草薙くんなの…」


「「えっ?!」」

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