夢の終わりは突然に…①

 茜ちゃんの食堂に行った日から数週間経った。生徒会長の仕事を終えてからも事あるごとに美白は雑用を押し付けてくるし、高峰はアレコレしていたずらを仕掛けてからかってくるし、茜ちゃんだけは癒し枠で安心する。いや他の二人が嫌だとかそういうのでは全く無いんだが。


 何なら夢の中とはいえ、今まで女の子との接点なんてほとんど無かったからな。アイツらとも友達という関係とはいえ、【三大美女】と仲良くなれただけで俺は運がいいだろうさ。


 …昔を思い返すと虚しくなるからやめよう。


「でも何だかんだここまで夢から覚める事なく来ちゃったなぁ」


 カレンダーと時計を見ると現在3月20日の23時。卒業式まであと二日というところまで来ていた。ここまでに色々あった。…そう本当に


「まだ俺高校に入学すらしてない筈なのに、卒業する直前まで来てるなんてな…」


 夢の中とはいえ三年も過ごしたので、最初の頃こそこのまま戻れなくなったらどうしようという不安に襲われたことはあったが、やはりいざ卒業するとなったら感傷に浸りたくもなる。

 その原因は言わずもがなアイツらのおかげだと思う。しかしこの世界ではアイツらのおかげで同性の友人は全くと言っていいほどできなかったとも言えるのだが。(主に殺意にまみれた嫉妬で)


「さて、さっさと寝るか…」


 そうして俺は感傷に浸りそうになった心を落ち着ける為に、久しぶりに『夢の中で寝るってどういう事なんだ』とかのどうでもいい事を考えながら眠りに就いた。



 ◆



「んじゃ行ってきまーす」


「いってらしゃい!ちゃんと鍵持った?忘れてない?母さんもうちょっとしたら仕事行くから、忘れたら家帰ってきた時に入れないわよ〜」


「持ってるよ、じゃあ母さんも仕事頑張ってね」


 そういって朝、家を出て一人寂しく通学路を歩いて行く。

 やはり意識すると何事も感慨深くなるもので、角の家のワンコの鳴き声を聞く事は無くなるのなるのかなとか、学校までの坂道も登らなくなるのかなとかそんな事を考えながら歩いていると、背中をバシーンッ!と誰かに叩かれて『いってぇぇぇっ!?!?』と大きな声を上げてしまった。


「なーに似合わない顔してんのよ〜こーすけ、あっもしかして…通学路にアタシがいなかったから落ち込んでたの〜?アハハッ♪かわいーとこあんじゃん〜こーすけにも♪」


「いってえな!何すんだ高m(ギロッ)……す、鈴華…さん」


「うーん…まあ人の往来があるしね、それで許してやろう!うんうん♪アタシは優しいからねっ!」


 と俺の背中を思いっきり叩いた犯人の高峰鈴華が朝からいい笑顔で絡んできた。しかも何故か許す立場にいるのは俺の筈なのに立場が逆転しているかのような錯覚を感じる…おかしく無い???

 そんな事は全く気にも留めていないかのように高峰は、決して小さくは無い胸部を反らし『ふふんっ』と胸を張っている。


「優しかったら人の背中を全力で叩いたりしないとおm(ギロッ)……何でも無いです」


 少し文句を言ってやろうとすると高峰が目で殺さんばかりの視線で遮ってくる。俺は全く悪く無い筈なのに朝っぱらから睨まれた。しかも二回も。

 経験したことがある人ならわかるだろうが、高峰みたいな超がつく美人に睨まれるとめちゃくちゃ怖いのだ。全く、俺がチビってしまったらどうするんだ…


「何よ〜一人で寂しそうにしてたこーすけにせっかく声かけてあげたのにさ〜?嬉しく無いのかにゃ〜?」


「そもそも俺は寂しいから声かけてくれって頼んだ覚えは無いんだが…?」


「またまた〜♪素直じゃ無いんだから〜こーすけちゃんは〜♪ほらほら〜う、嬉しいでしょ〜〜……」


 そう言いながら俺の腕を取って強引に腕を組んでくる高峰。その拍子に俺の肘にとてつもなく柔らかい何かが、ふよんっと当たってくる…何と役得なことか…


『クソっ!何なんだアイツ!高峰さんと引っ付きやがって!!!』

『なんでアイツだけあんなうらやまけしからん事ばっかり!!!許さねえぞ草薙ゴラァ!!!』

『アイツの頭の上に鳥のフン落ちて来ねえかな…』


 ……嫌、そんな事をするから周りからの殺意が強くなった気がするんだけど…しかも最後の奴、実際に起こりそうな呪詛やめない?


「ど…どう?こーすけ。このア、アタシと腕を組んでる気分は……」


「ど、どうもこうもねーよ!ここここ、こんなので俺がど、動揺なんてする訳…」


 嘘ですめちゃくちゃ顔熱いです。だって仕方ないだろ?!友達とはいえこんな神様が作ったような超美人に腕組まれたらそうなるだろ!!!


「へ、へぇ〜…めちゃくちゃ顔赤いけど…ねぇ〜〜……ま、まぁ?アタシは慣れてるから?平気だけど…」


 そう言って顔を少し伏せ、枝毛の一つも無い綺麗なブロンドヘアで顔を隠している高峰。しかしその綺麗な形をした真っ赤な耳は隠せていない。


「いやそんなこと言ってるお前も耳真っ赤じゃん……」


「そ、そんなことないわよ!!!」


 ばっと伏せていた顔を一瞬あげた高峰の顔も真っ赤だった。…慣れてないなら何でしたんだよ…


「「………」」


 気まずい…何なんだこの空気は……いつもみたいになんか喋ってくれよ高峰…


「お、俺先行くわ!じゃあな!鈴華!」


「あっ……」


 気まずさに耐えられなくなった俺は優しく腕を振りほどき、通学路を走り出す。


「あと!俺以外にこんなことすんなよ!好きなんじゃ無いかって勘違いされるからな!」


 と、そう高峰に言い残して俺は足を動かし、先に学校へ向かった。










「………不意打ちなんてずるいし……そもそもアンタの事好きじゃなかったらこんなことしないわよ…ば〜か……」


 顔をさらに真っ赤にした少女はそう小さく呟いた。

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