とても長い夢のお話 二人目 高峰鈴華

 あの後プリントの束と数学の課題を提出し、美白ともそこで別れた。…あいつ最後まで真っ赤だったけど一体なんだったんだ?


「まぁいっか。さてさっさと帰るかぁ…ふぁぁぁぁ…」


 カシャッ


 腕を上にあげ、誰もいないので咬み殺す事無く大きな欠伸をする。おっと危ない危ない…こんなおっきな欠伸をに見られたらまたからかって来やがるからな…って


「今なんかカメラの音がした様な…」


 と周りを見て見るが…誰もいない。ここにあるのは誰もいない昇降口と、部活をやっている連中の掛け声がグラウンドの方から聞こえて来るくらいだ。気のせいかと下駄箱から靴を取り出そうとした瞬間…


「わっ!!」


「うおわあぁぁぁっ!?!?」


「あははは!何!その声〜ちょっと〜お腹痛いって〜!こーすけ〜」


 俺の反応を見て両手で腹を抱え、目から涙まで流しつつ大きく口を開けながら大笑いしているコイツは…言うまでもないんだが、目の前にいる腹の立つ奴は高峰鈴華たかみねすずか

 金と茶色の中間の様な色の腰まで届いている長い髪に翡翠色ひすいいろの目、目鼻立ちはスッキリと整っており足はすらっとしていて、とても長くまさに理想のモデル体型。おまけに唇はぷっくりとしており、左目の下には色っぽく天然のホクロまで着いている。


 まるで神が作った調度品と見間違う様な完璧とも言えるその見事な容姿は、そんな大笑いをしていても決して崩れることは無い。まぁ作り上げたんだとしたら俺なんだけどな。俺の夢だし…


 因みにさっき警戒していたのは他の誰でも無い。コイツだ。


 神様はなんて残酷なんだろうと、俺の知る限り美白と後一人を含めて最初会った時はそう強く思った程だったのに…


「あはっ!あははっ!!ダメ!笑い死ぬぅ〜」


 男の前で笑わないで有名な〝氷の女″とか呼ばれてるコイツが、この通り俺の前ではゲラである。もう残念な程に。


 アハハッと俺のリアクションが底の浅い笑のツボに入ったのか、俺の目の前で大爆笑してやがる…本当にコイツが男なら容赦無く蹴りを入れている所だ、ホントに。


 高峰はいわゆるハーフってヤツで、確かお母さんが海外の方だったはずだ。なので高峰の髪色や目の色は学校側が認めてるおかげか、頭髪検査なんかも今の色のままなら免除されてるとかなんとか。


「お前やったな?!高峰!これで何回目だお前!」


「そんな怒んないでって、引っかかる方が悪いのよって……ぷっっっ!あはははは!」


 コイツ…また思い出して笑ってやがる…仮にもお前男の前で笑わないで有名な氷の女とか呼ばれてんだろ?俺の事は眼中にないってか?!まぁ意識されても困るけどよ!夢だし!


「はーっ...はーっ...めっちゃ笑ったわ、やっぱアンタ最高よ!こーすけ!ホントはあくびの写真で大笑いしてやるつもりだったのにねっ!アハハ!」


 屈託の無い美しい笑顔を向けて来る高峰。美白とアイツもそうなんだが、この顔を見るだけで今までの事も含めて許してしまいそうになるから、やっぱり美人はずるいと思う。


「お前なぁ…ってちょっと待て!さっきのあくびの写真撮ってたのかよ?!」


「当たり前でしょ?アンタの顔何回見ても笑えるわよ?」


「お前今すげー失礼なこと言ってんぞ?高峰」


「鈴華!」


「えっ?」


「鈴華って呼びなさいって前に言ったでしょ?忘れたの〜?」


 これだ…あの時を境に名前呼びを強要して来るんだよなぁ…いやまあなんだかんだ言いながら仲は良いからそれ自体は良いんだが…俺にはハードルが高いんだよなぁ。


「いやでもなぁ?ほらその…なんだ?」


「へぇ〜もしかしてこーすけ照れてんの〜?かーわい〜♪」


 そう言いながらニヤニヤとイヤ〜な笑みを浮かべている高峰


「でもまあ?仕方ないかなぁ〜こーすけみたいに?女の子慣れしてなさそーな人なら仕方ないか〜♪」


「そっそんなことないわ!問題ねーし!?」


「へぇ〜♪じゃあ呼んでみてよ。照・れ・屋・さん♪」


 にししっと無邪気に笑っている高峰を見て、やってやる!やり返してやる!と心の火がついてしまった。


「な、なんだよ鈴華、そんなんで俺がてっ照れるわけねーだろ?」


 少し噛んでしまった…情けねー!いや大丈夫だろ…現に鈴華の動きが止まって…あれ?なんか肩が震えてる様な?


「ふ、ふぅ〜ん?ま、まあ及第点てトコ…かな…」


 そう言う鈴華は顔を下に下げたまま、か細く返事をした。ご自慢の綺麗な長い髪のせいで顔が全く見えない。未だに肩は震えてるんだが…大丈夫なのか?


「おい?す、鈴華?大丈夫か?」


 恐らく耳があるであろう辺りに向かって至近距離で声をかけてみる。


「ひゃぁぁんっ!?だ、だ、だ大丈夫よっ!!!と、とりあえず今日アタシもう帰るからっ!それじゃあ!!!」


 それだけ言い残すと鈴華はバッと顔を上げて、陸上部顔負けのスピードで走り去って言った。


「すげーなアイツ、陸上とかやれば良いのに…」


 あとアイツの耳が真っ赤だったような気がするが、夕日のせいだと思うことにしようとか、そんな事を思いながら気恥ずかしさを紛らわせるために俺も走って帰ろうと思った。

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