4-6.後宮の毒3
父は北方の監察を勤める
「ねえ、
「誰から聞いたの?
「え~、
「皇后って、あれは最初に決まってるんだってば。でも、そうね、せめて四夫人くらいにはなれるかな」
幼少から愛らしかったため周囲から過度に褒められて育った。それで
自分の身体を求めようとして、下心を丸出しにする男ども。
仲間に入ろうとして、すり寄ってくる女ども。
美に恵まれて、地位にも恵まれている彼女にとっては、周りの人間は彼女を持ち上げるための存在に過ぎない。だから後宮入りを
「才人(※正五品)からになりましたね」
「まあ、いきなり
侍女の
初めての九人会も、まあ、大したことないと感じた。
一緒に演武をする才人九人は、まず、話にならない。器量が悪い女ばかりで、むしろこれと同列扱いなのに腹が立ってくる。美人九人や、
さすがに、彼女たちには華がある。
階級通りに、二十七世婦とは格が違う。
漂う気配に有象無象の妃とは大きな差がある。それは整った顔立ちだけではなくて、背筋を伸ばした美しい姿勢や茶を飲む手の仕草にまで、おそらく出自の違いがそういう所作にも表れるのだろう。彼女たちは自信に満ちているし、多くの美人の中にいる一人、ではなくて、個々の特性を理解して自分たちなりに表現している。
なるほど、
先帝は早くに崩御したため、現在の四夫人には空いている席もあるという。では、ここにいる彼女たちと四夫人の座を争うことになる。今から一人一人を品定めしておくべきか。
そういう
それは後に賢妃になる
でも、
現実を思い知らされたのは、二年後。
去った妃は三十を過ぎて子宝に恵まれなかったと聞く。出家することで引退の道を選んだとも聞く。出て行きたければ出て行けばいいと、
そもそも皇帝はどの妃に対しても子を多く成せなかった。つまりは女側の責任ではない。人は皇帝の体質によるものだと語っているが、本当は子作りとは別の性癖が強いせいで、肝心の行為には至らないことが原因だと
それでも、二十歳になって、やっと女児を授かったことで不安が解消された。
男児であれば、なお、安泰だったが、公主として血縁関係を増やす後ろ盾になる。子がいるのと、いないのとでは大違い。早速、有力な貴族が将来の婚姻を約束しようと父に言い寄っているらしい。これが父の出世にも繋がって、ついに四夫人の座も見えてきたと、順風満帆のように思えた。
だが、最初に敗北を悟らされたのは、貴妃の存在だった。
以前の貴妃が病没して、では自分が昇格すると思っていたのに、指名されたのは自分よりも二つ下の妃だった。
彼女の名前は、
「
他を圧倒する
現世を超越した、絶世の美女だった。
出自も上で、美も上で、気品も、おそらくは知力すらも上。
全てにおいて敵わない。
この時、
とはいえ、この時点ではまだ四夫人の座を諦めてはいない。貴妃の座は無理だとしても、他の席を狙うことはできる。そういう野望をいとも簡単に砕いたのは、あの九人会にいた
「失脚……されたそうです」
侍女の
それで一つ下の、
「わらわの席が欲しいか」
玄武宮に
「お前は九人会で、わらわを見ていたな。あの目は野望に満ちていた。いずれ戦うことになると思っていたが、お前の父は相手にならなかった。では、お前がわらわを殺しに来るか? いいぞ、受けて立とう」
「いつでも刺しに来い。だが失敗すれば、お前は死ぬ」
後宮は新勢力である
もう、
四夫人になれば自力で彼女たちと戦わなければならない。だけど、その自信がない。そもそも四夫人になる妃は地位に足踏みなどしない。
これは後に
だから
それを守るためなら、どんな汚いことでもやった。
そうして白髪が増えていく。
かつての
高慢で、自信家で、他人を見下す性格ではあったが、どこか憎めない可愛さがあった。「私に任せておけば、大丈夫」なんて、自信満々の笑顔を見せる女だった。
「おのれ、あの女、帝に
疑心は自分を写す鏡である。
後宮の毒が全身に回り、いつしか、
未だに彼女の夢は叶わないまま、ついに毒殺の容疑で捕まった。
「賢妃・
「馬鹿な!」
内侍からの決定に、身に覚えがない。
「賢妃に対して、そんなことをやっておらん!
「
「修援妃は
「どうして、
「侍女の
ここで、あの
あの
確率は低いが、賢妃が死ねば、それで良し。
もし
最後は
これが尽くしてきた、自分への仕打ち。
「わんれぇぇぇいい! あの売女がぁあ!」
「貴妃
かつての
「
「
「嫌です、ずっと一緒だったではないですか、どうか、私も!」
「お前は残って、
最後に抱いたのは、いつだったか。
あれから大きくなっただろうか。
もう、
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