4.窈窕(ようちょう)たる淑女
4-1.静月・修媛妃1
――
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
香梅堂が色づく折に、
春節を終えて、宴の準備に多忙を極めていた後宮内は落ち着きを取り戻していた。ここ、最北端にある香梅堂の庭には白や赤の梅の花が咲いている。例年は手入れが行き届いていなかったせいで
白や赤ばかりの色に、一つだけの紫。
寂しそうに見えて、そうではない。花弁が大きく、堂々としていて、どの花よりも
『
「ご機嫌、麗しゅう、
声を揃えて、一斉に片
宮女は両手を腰で組んで、宦官は地面に手を突いている。自分を担当する
「みなさんも、ご機嫌、麗しゅう、でございます、どうもありがとうございます」
『ちょっと、
立ったままの
『
『え……だって』
これまで、へり下る立場しか経験していないのだから仕方がない。もはや「ご機嫌麗しゅう」を言うのも誰かのせいで習慣になっている。重力に肩を沈められるかのように体が勝手に反応するのは悲しい性だ。
「みなさん、外ではなく、どうぞ中へお入りください」
玄関を抜けたすぐの部屋が、訪問を受ける場所になっている。
玄関の両脇の台に青磁の壺が飾られて、床には西方との貿易品である
「……うわっと!」
「これより
先頭の男が顔を上げる。
「
先頭の女も、顔を上げる。
「はい……どうも、その……大変によろしくお願いします」
その後、宮女の
「……」
「……」
紹介を終えて、礼も終えて、
『
たまらず、
『
『……なんで?』
『
「み、みなさん、どうぞお立ちになってください」
「本日は香梅堂まで遠路はるばる、わざわざ、お越しくださりありがとうございました。どうぞ、みなさんの居場所にお戻りくださって大丈夫です」
「では、私は台所へ」
「私は庭掃除を」
「倉庫を整理します」
三々五々に、あくまで香梅堂の敷地内へと散っていった。彼らのこれからの仕事場は香梅堂になるのだから、当たり前だった。
「失礼ながら、内装の手入れをしてもよろしいでしょうか」
独りだけ玄関に残っている。彼女は列の先頭に立っていた年配の宮女だ。梅が付いているから彼女の名前は憶えている。
「
「恐縮ながら
「え……だって」
「今後は、慣れていただかなくてはなりません」
耳元で
「ご覧の通り、
このように助言してから彼女は一歩、引いた。両手を腰で組んだまま体を少し沈める。
「出過ぎた発言を、お許しください」
「いえ、いいんです」
慌てて
「私、未だに分からないことばかりで、
「どうぞ、
「あ……
「はい、以前はここに住まわれていた
「本当ですか、わあ、頼りになりますね」
「
「……お花を愛される人でした。聡明で、謙虚で、人柄の良いお人でした。私の名前に香梅堂の梅の字があるからと言って、とても親切に接してくださいました。今でも恩義を感じています。ですから、この香梅堂に
「私も……
「私ですか……いえ、それは」
「
「そういうことでしたら……謹んでお受けいたします。微力ながらに尽くさせていただきます」
こうして
御付きの宮女も公々も配属されて、ついに後宮内での
もう、条件は整った。
彼女は期待されている妃であると。
ひとたび、動き出せば流れは加速する。
おそらく
もちろん、良いことばかりではない。
そして
彼女の名前は
しかし、
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