3-5.香梅堂3
理由は分からないが対応を間違えたらしい。
「えっと……ようこそお越しください、ました?」
「違うわよ、そういうことじゃないでしょ。ほら、三人、並びなさいよ! さっさとしなさい!」
なんだか表情まで険しい。怯えた
「あーのーね、間違えてるのよ、失礼でしょ。今の私は
「……えっと?」
「だーかーら、
「……
「ちょっと、三人もいるのに声が小さいわね。もっと出るでしょ、声量出して、腹から声を出すのよ。さあ、息を吸って……はい、止めて! さん、はいっ!」
「
三人の声が揃う。これに、おほほと満足そうに笑う。でも、すぐにまた不機嫌になる。
「あのね、名前はいいけど、挨拶の『ご機嫌、麗しゅう』はどこにいったの? 大事なのよ、そういうのは礼儀として。やり直し、もう一度! せーのっ!」
「ご機嫌、麗しゅう!
「そうなの、そうなの、なんていい響きなのかしら! もう一回、さあ!」
「ご機嫌、麗しゅう!
「ご機嫌、麗しゅう!
『お帰りください、
……
「ねえ、一人、異語で悪口を言わなかったかしら?」
「言っておりません、
「ちょっと、
「……
「うっさいわね、
「……つまり?」
「つまり、引っ越し早々に
「承知しました」
「これ、茶葉。こっちは点心と豆と米と、それから塩ね。本来は調理されてるんだけど他の誰かが食べたせいでなかったわ。この際だから食材だけで我慢しなさい。料理は得意なんでしょ。それで、こっちの羊肉は焼くか煮ればいいの。こっちの
まさか食料を持ってきてくれるとは思っていなかったから、それで困ってもいたから
「これは……どうしたんですか?」
「
「……わざわざ、ここまで持ってきてくれたんですか?」
「わざわざ持ってきたのよ! あのね、なんなの、下女の分際で料理すらも運ぶ気がないから素材のまま送りつけてやりなさいって言ってんのに、それでも誰も行こうとしないってどうなってんのよ! よっぽど嫌われているのね。ほら、まずは私に謝って」
「えっと……ごめんなさい」
「はい、次はお礼を言って」
「……ありがとうございます」
「まあでも、与えるばかりじゃないの。上から
『あわわ、勝手に上がらないでくださいよ~』
「どいて、邪魔よ! ほうら、こんなに飾って調子に乗ってるんだから――はい、これは綺麗すぎ、はい、これも値打ち物だから没収。
「承知しました」
「ちょっと、いくらなんでも、あんまり!」
「
瞬く間に、さっき飾ったばかりの品の大半が荷台に乗せられた。
「……これは、何?」
「それは……最初から置いてあったものだから勝手に……」
「関係ないわ、銀とか贅沢、これも没収ね――ま、他はいいかな、大した物はないみたい。あんまり時間をかけても仕方ないから、今日のところはこれくらいにしておいてあげる。さあ、礼はどうしたの。私の気遣いに感謝を言いなさい」
「あの……どうも……ありがとうございました」
しばらく沈黙が続く。
あまりにも急な出来事に理解が遅れて、すっかり初期配置に戻されて殺風景になったのを意識したから、
『本当、いつもながら信じられない横暴! せっかく離れたと思ったらあっちも近くに引っ越してくるなんて!』
『どうする? あんまり酷いようなら掛け合ってみる?
『そう……だね……だけど』
『ここに来てくれたの……
『はあ、本当に甘いんだから。まさか食べ物を持ってきてくれたから良い人だって思ったら駄目だよ。単に、からかいたかっただけ』
それはそうかもしれない。
けれど、呪われていると言われて本当は不安だったから、みんながあまりにも怖がるものだから、気にしない人もいるのだと分かって心強かった。
私も彼女みたいに強くなれたらいいなぁ。
なんて思う。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
九訳殿に誰か来たようだ。
表で何やら話をしている。対応しているのは
「なんか異国の物が混ざっていたから、こちらに渡したいそうです。読めない文字が書いてあるからって」
変な銀色の像を手渡される。
確かに、布を羽織った男の像の背中に妙な文字が書かれている。すぐには
なんだか興味が湧いてきたので。
とりあえず書斎に置くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます