2-8.月に酔う1
今日は不思議な夜だ、雨が降っているのに月が出ている。
月の下を歩く
この前に飲んだのは
小雨に濡れたくなった。
夜の風に振られて、
宮廷の道を軒下の吊り
ここは
どのくらい歩いているのか判然としない。いよいよ服まで湿ってきて、そのうちに、ちょうど目の前に九訳殿が見えてきた。暗がりに浮かぶ淡い霧が、まるで異界への入り口のようにも見えた。
誘われるがままに、足を踏み入れた。
「すまない。女がいるところへ、こんな夜分遅くに」
「不思議な夜だものね。あなたも雨の月に
なぜか今宵の
これは酔いのせいか、月のせいか、それとも。
(心の、迷いのせいだな)
めまいがしたので、書斎の椅子に座らせてもらった。すぐに侍女が乾いた布を持ってきて、顔を
「どうにも眠れそうになくてな。少し、居させてくれるか」
「あなたのそういうの、相応のことがあったのでしょうね」
「妹……いや、
どうやら
今回の
だったら、このまま突き進むのがいい。それで、どうして俺は気が沈む必要がある? いったい何を考えている? 愛してもいない皇帝に身を捧げる
「あなた、申し訳ないと思っているの?」
「……分からない。ただ、せめてもう少し、俺が何かしてやれることはなかったか」
「そんなに責める必要はないんじゃないかしら?」
責めている?
そうか、俺は、自分を責めているのか。
「彼女が後宮に入ったのは、あなたのせいではないでしょう。それに普通は、帝の
「さあ、それも分からない。こうなるべきだったし、こうなるしかなかった。これで良かったはずだ。それが、どうにも気分が悪い。酒を飲んでみたら余計に考えがまとまらない。もう少し頭を冷やした方がいいかもしれない……あの月を見ながら、もう一杯だけ、飲みたい」
さらに酒を求める自分に、
独り残った
小雨が顔を
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「こんな時間に……私の他にも訪問客でしょうか」
「あら、ちっとも
「すみません……無礼を承知で、濡れたままが良くって」
独りでないと、こんなことは頼めないから。
「もう一度、尋ねるけど、本当に相手が私で良かったの?」
「だって……独りでは……どうしても。かといって、
「ここには女しかいないから仕方ないもの。私としては、少なくとも
「本当……ですか? 良かった、そう言ってくれて……あの……すみません、本当に」
受け入れてくれたことに、少々、気恥ずかしくなる。
自分でも、はた迷惑なことだと思うけれど。
最初の一歩が、どうしても踏み出せないから。
「ちょっと、準備をしなくっちゃね」
こんな状況なのに
「私も正気だと上手くできないもの、お酒が必要ね。私の分を取ってくる間に先に外で月でも見ながら飲んできなさいな。月下独酌、好きなんでしょう? せっかくの機会だから」
「あ……はい……そう……ですね」
どうせ飲むなら二人がいい、と思いはするものの、こんな迷惑な頼みごとをしている立場だから断ることはできない。
変わらず、雨が降っている。
そして、なぜか月も、未だに雨を照らしている。
月下独酌の真似事をした。
雨が更に体を濡らして、月を見て、それから酒を口に添えた時に、
「影に対して三人と成る。私と月と影の他に――」
声がして、はっとした。
男の声。まさか、こんな時間に、しかも普段は鉢合わせしないように配慮されているのに、どうして。
身を隠そうとしつつ、少しの好奇心で目をやった。
それで、声の正体に驚いてしまったから、
「
思わず声が出てしまって。
なぜか同じ庭に立っている
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