2-5.九人会1
秋の色が一層に深まり、遠くの山が少しずつ冬入りの景色を見せ始める頃。
後宮の中庭で『九人会』が催される。
皇帝の前で中級位に属する妃が演目を披露する場となっており、女官長や上位の宦官たちが採点をする。
九人会は上級妃や皇族が集う催しではないが、皇帝が観覧に訪れることから普段よりも豪勢な食事が並べられる。
演目を披露するのは、二十七世婦だけ。
後宮の妃の階級は上から、
皇帝一人に対して後宮に属する妃はあまりにも多い。
必然的に、下の階級になればなるほど一度もお手付きがないどころか、皇帝の顔すらも拝見したことがない妃候補ばかり。
だから、九人会は次世代を担う期待の新人を発掘する場となっている。
ここで目立つことができれば皇帝に見染められて、上の階級を与えられて、実際に美人妃が皇帝の
とはいえ、それぞれの階級には人数の制限があるから、誰かが上昇すれば、他の誰かは下降することになる。
つまり、これはもはや戦である。
それぞれの思惑としては。
皇帝の、魅力的な若い娘を探してやろう。
二十七世婦の、絶対に私が勝ち取ってやるから、早くそこをどけ。
侍女の、お願いだから
あらゆる邪念が交差して、それだけでも腹が一杯になるのに、さらに侍女となれば担当している妃がヘマをすれば巻き添えの転落人生が待っているのだから胃が痛くて食事どころではない。それに比べれば
「どうですか、
「さあ……どうかしら」
そう言いながらも、
ここは私情を挟まないのが吉。
中立な採点に徹するべきだと、
それに、今年は少々気になる要素が他にもある。
「ねえ……
隣に座っている馴染みの宦官に聞いてみた。
相当な曲者だと評判だ。
「私も詳しくは知らないのですが、途中からそのようになったようで、ほら、例の
宦官が言及しているのは、先日、
「あれに
「……なるほど、そういう手もあるのね」
「……は?」
もしかしたら皇帝から同情を得ることで
(ちょっと考えすぎかな……でも、あの
彼女は齢十五、なのだが。
(あの青い生地を贈らせたのも、自作自演だったりして)
そして
(あの贈り物は……つまりは毒ね。何人か罠に
演目を披露する二十七人の妃のうち、三人が、
やがてヒソヒソと
「気の毒に……退席を命じられましたか」
皇帝の周辺でも微かな話し声がして、青い服の三人の妃が舞いを披露する機会すら与えられることなく離席することになった。皇帝が
声は聞こえなくても、唇の動きで分かる。
「……せっかく陛下のお好きな生地を選んだのに……全く同じのを……前々からこういうことが相次いで……おそらくは……」
皇后の心境としては職務として最低限の配慮はするものの、皇帝の決定を二度、
(自分と、その他の大勢の敵っていう感じなのね)
果たしてこれは、正解なのか。
自分の色と被せた軽率な振る舞いに腹を立てるのは自由だが、
そうして自分に敵意が向くことを理解している。
それを分かった上で「私は虐げられているのです」と、皇帝からの同情を得ることに利用している。
(男というのは、つくづく、勘違いをするものだから)
どちらかと言えば、こういう
こういうのは男の、守ってあげたい心理、であればまだ可愛い。
男というのは、そもそも、ものすごく勘違いをする。年がいけばいくほど、なぜか純愛を求めたがる。自分は若い女を求めておきながら、相手には無条件に愛されることを求める。二十も、三十も年上の男が、何の背景もなしに若い娘の気を引くことなどありえない。権力を持っているからすり寄っているのに、「あなたの人柄に、どうしようもなく
「……配慮してくださり感謝します。ですが、彼女たちも私のせいで」
「お前のせいではない。いくら新人とはいえ上級妃への配慮が足りないものは
皇帝と
退場者を気の毒に思うのであれば、「全然気にしていません」くらいの態度を取っておけばいいのに、色香に釣られている男では女の本心を見抜けない。あれも才能なのねと、
一応、
「では、披露をお願いします」
こうして九人会は、開始早々から三人減った状態で幕を開けた。
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