2-3.贈り物(1)
牛、五十頭。
配送済にて代金は、都ノ門所にて受領ス。
――
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――九訳殿。
「これを、どう思う?」
ある昼下がりの九訳殿に、三つばかりの
差出人の署名の代わりに、朱印が押されている。
「……ただの注文にしか見えないけど」
「牛とか兎とかに意味があるの?」
「動物ではなく数え方に意味がある。頭が槍で、羽が矢で……面はおそらく斧あたり。つまりは都への武器の密入を疑っている」
「ふうん……暗号ってわけね。そのわりに書かれている言葉が商人の
朱印は書いた人物を示す証明として用いられているが、偽造されることがあるため、わざと一部の文字だけを逆さまにして作っている場合もある。そういう警戒がないことを
「そもそも身分のある人が武器の注文書に、わざわざ自分の名を使うのかしら?」
「信用を得るために敢えて上位者の名前を用いることはある。しかし……押印については見逃していた。この押印が本物かどうか、他の公文書と照らし合わせるとしよう」
「……そういうのって門下省の仕事じゃないと思っていた。いろいろと頼まれて大変なのね」
「
まだ少女ながら、一目で男を虜にする悪魔的な
この
後宮内での地位の落とし合いと並行して、宮殿の外でも計略が渦巻いている。
「それで、ここに来た本当の理由は何なの? まさか私の意見で事の真偽を判断するつもりではないんでしょ?」
この予想は当たっているらしく、
これは
困っていたり、隠し事をしていたり、気恥ずかしかったりする時にこういう仕草をする。
(……
「
「……本当か、良かった!」
「それで、もう上達しているのか? つつがなく、雅語を話せるようになったのか?」
「あのね、そんなすぐには上手くはならないでしょう。最初は定型的な会話から、今は来週の九人会に向けて詩を
「そうか……この壁の向こうにいたのか」
まるで娘に会えなくなった父親のように悲痛な顔をする。
ここは九訳殿。
宮廷で唯一、宮女と男が出入りできる場所。
それでも鉢合わせしないように
「分かっている、公私混同はしない」
「私もそれなりの立場を任されているからな」
こんなことを、言うくせに。
「でも、壁を挟んでいるのなら……別に隣の部屋にいるくらいは、いいような」
「……あのね。公私混同はしないんじゃなかったの?」
「……気にはなる。その……来週の九人会は大丈夫なんだろうか。もしかして今日は風邪を引いたのではないか」
「分かったわ、見てくるわよ、あなたの代わりに私が。だから、あなたは諦めて帰ってね」
「あ、もう帰られるんですか?」
侍女の
「じゃあ、これは私が食べてもいいですね」
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