第36話 戴冠。そして証拠の提出
氷魔の地はレオンハート王国となった。俺はその国王だ。
王冠を被ったまま、教会から町へと向かう。
教皇は俺の隣に並んで歩いていて、神官と聖騎士団が後ろからついてくる。
教会の外では領民たちが待ち構えていた。俺が王になったのを喜んでくれていた。
人混みの中にはニーニャとラドニーラもいて、手を振っている。
俺としては二人も儀式に参加させたかったんだけど、教皇国の決まりで無理だった。
まあ、儀式は重々しい雰囲気で、出席したからって楽しめるものではないけどね。ラドニーラとか途中で居眠りしそう。
教会での儀式とは別に、町の広場で祭りを開くから、そっちで盛り上がろう。
俺は領民たちに手を振り返す。
歓声が上がった。
「エリオット・レオンハート国王、ばんざーい!」
「ここが独立した王国になるなんて! 頑張って耐え忍んだのが報われた!」
「もっともっと発展させてやるぜ!」
周りから聞こえてくる声を聞いて、教皇は俺に微笑む。
「エリオットは本当に慕われているのだな」
「ありがたいことです」
「エリオットがえっちなことしまくってると、国民たちは知らないのだろうなぁ。ふふふ……秘密の関係というのは興奮する……」
ニヤついた顔でなに言ってんだ、こいつ。
俺は無視を決め込み、群衆に視線を送る。
「エリオットぉ、王様になった姿も素敵ですよー。王冠が重くないでしょうか、心配です。けれど王冠のせいで背が縮んだら、エリオットはずっと小さくて可愛いままでいてくれるんですね! 猊下、エリオットの王冠をもっと重くしてください!」
姉上も群衆の中にいた。
かなり変なことを言っているが、教皇に比べたらまともなので、もはや気にならない。
「姉上も随分とエリオットを好いているのだな。まだまだ子供だと思っているようだ。弟がえっちしまくりだと知ったら、そなたの姉上はどんな反応をするのかな♥」
こいつマジなんなん?
「姉上にバラしたら絶交ですからね」
「ぜ、絶交! それはつまり、もうえっちしてくれないってことか!?」
「どのみち、えっちはもうしません」
「え? じゃあバラす」
「……」
「えっちしてくれたらバラさない」
「…………たまになら」
「やった!」
教皇は心底から嬉しそうに笑った。
年相応の明るい笑顔だった。
教皇が感じている重圧を少しでも軽くしてやれるなら仕方ない。我慢しますよ。
そして町の広場で、歌ったり踊ったりの祭りが始まる。
祭りの盛り上がりに、水を差す叫び声が響き渡った。
「敵だ! 魔物じゃない! もの凄い数の軍勢が、ここに向かってくるぞ!」
そう叫びながら走ってきたのは、町の周囲の哨戒任務についていた聖騎士。
軍勢。
心当たりが一つある。
聖騎士団は優秀で、情報が次々と入ってくる。
敵は一カ所からではなく、様々な方角から責めてきている。
ボロ布を纏ってみすぼらしい姿を装ってはいるが、望遠鏡で見ればその下に金属の鎧があると分かる。
栄養状態のいい馬に乗っており、統率も取れている。
一見すると盗賊団であるが、その動きはどこかの国の正規軍としか思えない。
敵の総数はハッキリしないが、千を下回ることはなさそうだ。
「間違いない。スカルブラッド盗賊団だ。父上がついに動いたんだ。それにしても、教皇猊下が来ているタイミングで……偶然かな? それとも……まさか狙ったのか?」
俺が呟くと、姉上が口を開いた。
「狙ったという可能性もあり得ますよ。父上はあの魔物討伐作戦のあと、ずっと教皇猊下への悪口を言い続け、周りからたしなめられていましたから」
「本当に狙っていたとしたら、俺をどうこうという話じゃなくなる。アストラリス教そのものへの叛逆だぞ。父上はその辺を分かってやってるのか?」
「あの人なら分かっていないかもしれませんね。単純にムカついたから一緒に潰してしまおうくらいの気持ちで動いているのかも。これが本当の正規軍なら如何に国王といえど動かせません。しかしスカルブラッド盗賊団は私兵なので……」
俺がそうであるように、姉上も父上の知性には期待していないらしい。
「叛逆? 私兵? どういうことだ。なんの話をしている。スカルブラッド盗賊団は以前から、どこかの国が後ろ盾になっていると推察されていたが、それに関することか?」
教皇も話に加わってきた。
「ええ。ここは人が多すぎるので、俺の家に移動しましょう。姉上にも見せたいものがあります」
俺とニーニャとラドニーラといういつものメンバー。そこに教皇と姉上も加えてリビングに集まる。
ニーニャに指示して、動画を再生させる。
王宮に潜入して撮影した、父上とスカルブラッド盗賊団の繋がりを証明する動画――。
「ああ、ニーニャ、もう許してよぉぉっ!」
「エリオット様、エリオット様、エリオット様!」
パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンッ!
「な、なななっ! なんですかこれは!?」
「これはいけません! 失礼します! てやっ!」
ニーニャは姉上の首に手刀を振り下ろして気絶させた。
「ふぅ……危ないところでした」
「なにギリギリセーフみたいな顔してるのさ! 完全にアウトだよ! 姉上に見られたじゃん!」
「大丈夫です。まだ誤魔化せます。ええっと、これが本来再生したかった動画っと……これでよし。クレア様、お気を確かに。父親が盗賊団を操っている証拠を見てショックなのは分かります。ですが、これからのアルカンシア王国はクレア様にかかっているのです」
「え? 私は気絶していたのですか? 記憶が曖昧で……申しわけありません。もう一度、最初からお願いします……」
「分かりました。このメガネはエリオット様が作ったアイテムでして――」
録画メガネの解説をしてから、改めて動画を流す。
王宮の庭の一角で、父上と人相の悪い男が密会している動画である。
音声もハッキリと聞き取れる。
相手の男がスカルブラッド盗賊団の頭領であること。父上がスカルブラッド盗賊団に武器や資金を提供していること。盗んだ金品は、父上とスカルブラッド盗賊団で山分けしていることなどが、赤裸々に語られている。
続いて、アルカンシア王国軍御用達の武器工房の映像。
そこから真夜中に武器が持ち出され、馬車で運ばれていく。
馬車を追いかけると、森の中にある砦に辿り着いた。そこでスカルブラッド盗賊団が剣や鎧を受け取っている。
空になった馬車に、美術品やら現金やらが積み込まれ、王都の片隅にある倉庫に運ばれていく。
明るい時間。
父上がその倉庫に現れ、並べられたお宝を見て満足そうに笑い、去って行く。
「動画は以上です」
「なんとまあ……真っ黒ではないか」
教皇は呆れた声を出す。
「そう。真っ黒です。だから本来、もっと早く動いて父上を止めるべきだったんです。姉上と猊下がここに来るから、そのときに動画を見せて、それから動こうと悠長なことを考えてしまいました。それより先に盗賊団がこの町を襲ったとしても、返り討ちにすればいいだけ。盗賊たちの首を持って王宮に行き、父上を問い詰めればいいだろうと。早い話、動かぬ証拠を握っているのだから、父上のような小物相手に必死にならなくてもいいかなと思ってしまいました。その慢心が、教皇を巻き込む事態を引き起こしました。俺のせいです」
「いや。この状況は普通、予測できない。エリオットのせいではない。そして私はアルカンシア王が嫌いだ。奴が破滅するところに立ち会えるなら本望だ。エリオットがことを急がずにいてくれて、むしろ助かった……と、アルカンシア王の実子の前で言うのは、失礼にあたるだろうか?」
教皇の言葉を聞いて、俺と姉上は顔を見合わせ、笑う。
「いいえ」「ちっとも」
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