第32話 巣立つ人

 ニーニャは徹夜で俺とラドニーラを滅茶苦茶にしたあと、王宮に忍び込むため旅だった。

 凄い。

 性欲も体力も底なしだ。

 今の俺は体が子供になったせいで性欲が皆無だけど、前世でオッサンだった頃だってニーニャには遠く及ばない。


 前世では勤務中に急にムラムラして「早く帰ってオナニーすんぞ!」とか気合い入れて仕事を片付けたものだ。おそらくニーニャはその百倍くらいムラムラしている。

 よく日常生活を送っていられるなぁと感心するよ。


 なにはともあれ、数日はニーニャの魔の手から解放されるわけだ。

 ニーニャに会えないのは寂しいけど、たまに体を休めないと死んじゃうからね……。


 さて。

 この犯される心配がない時間をどう使おうか。

 ラドニーラは惰眠を思いっきりむさぼるつもりみたいだけど、俺はもっと有意義なことをしたい。


「あ。そうだ。せっかくオリハルコンが余ってるんだから、領民たちに新しい装備を作ろう」


 教皇に純オリハルコンの剣を百本も献上したのに、自分の領民には鉄ベースの粗悪品を使わせるなんて不義理な話だ。

 スカルブラッド盗賊団とまた戦うことになるだろうし、みんなには少しでも強くなってもらわないと。


「よし。新しい鎧と槍ができた。おーい、みんなー」


 俺が来る前から入植していた、いわゆる初期メンバーたち。彼らは戦い慣れているので、自警団を作っている。

 ドローンが村の周りを巡回しているから、人間が見回る必要はないんだけど、たまに魔物狩りをしないと腕が鈍るとか言って武装して出かけるのだ。

 つまり娯楽としての狩り。

 魔物の肉がレストランに卸されて、新メニューの開発に役立つという側面もある。大いにやって欲しい。

 あと自分が魔物と戦う様子を歌って、吟遊詩人の真似事をする人もいた。一度聞いたけど、なかなか上手だった。

 いい感じに、この土地独自の文化が芽生えている。喜ばしいことだ。


 そんなことを考えながら、俺は公衆浴場の露天風呂に浸かって、のんびりする。

 すると、初期メンバーの一人が話しかけてきた。


「領主様がここに来るなんて珍しいですね」


「たまにはね。屋敷の風呂よりも広いし」


「ところで、前から相談したかったんですが……しばらく村を離れてもいいですか?」


「別にいいけど。どこになにしに行くの?」


「……実は昔から、冒険者に憧れてたんです。俺程度の腕じゃ、すぐ死ぬのがオチだろうって諦めてました。けれどここに入植して、並の冒険者なんかよりずっと過酷な目にあって、それでも生き延びた。腕に自信がつきました。そして領主様に最強の装備を頂きました。今なら俺、冒険者として立派にやっていけると思うんです。もちろん、ちゃんと帰ってきます。俺はレオンハート伯爵領の住人ですから」


「ありがとう。けれど君の人生なんだから、無理に帰ってこなくてもいいんだよ。広い世界に羽ばたくべきだ」


「いやぁ……ソープランドにお気に入りの子がいるので……帰ってこないと会えないじゃないですか!」


「あ、はい」


 なんかしょうもない理由だなぁ。

 けれどソープランドだって俺が作ったんだ。それを気に入ってもらえたのは、俺が評価されたのと同じ。

 素直に喜んでおこう。


 それから数日後。

 ニーニャが帰ってきた。

 彼女は王宮で得た情報よりも先に、別のことを教えてくれた。


「レオンハート伯爵領の冒険者だと名乗る男が、あちこちの町で話題になっていたのですが、エリオット様は心当たりありますか?」


「ああ、うん。確かに初期メンバーの一人が、冒険者になりたいって出かけたけど」


 出て行ったのではなく、あくまで出かけただけ。

 あの人はまだ、俺の領民だ。


「冒険者ギルドに登録したばかりなのに、破竹の勢いで実績を上げているようです。馬よりも足が速いので、午前中はあっちの町、午後はそっちの町で依頼を受けるという、嘘のような活躍をしているとのことで。なにかの間違いかと思ったのですが、この村の初期メンバーなら納得ですね。なにせ私が稽古をつけてますから」


 そう言えばニーニャは時間を見つけては、自警団に鬼軍曹的なことをしていたっけ。

 彼女のしごきを乗り越えたなら、自信がついて当然だし、馬よりも速く動けるだろう。

 そんな人が普通の冒険者に混ざったら、オリハルコン装備がなくっても無双しちゃうよ。


「そして彼は、行く先々で、レオンハート伯爵領のソープランドが如何に素晴らしいかを語っているようです。いずれ鼻の下を伸ばした男性観光客が押し寄せるかもしれませんね」


「……あんまりそっち方面で有名にはなりたくないんだけど。まあ、なにがきっかけでも、人が集まるのはいいことだ」


 それからニーニャが王宮で撮影した動画を見る。

 映っていたのは、かなり決定的な証拠だった。

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