第31話 指輪とメガネ
俺は昼頃になってようやくベッドから起き上がれた。
なんか、今までで一番酷い目にあった気がする。
ちなみにニーニャに滅茶苦茶にされたのはラドニーラも同じ。彼女はまだ布団に寝転がったままだ。寝ているというか……気絶だね。
ニーニャだって疲れたはずなのに、いつものように朝日が昇るとともに目を覚まして、テキパキと家事を済ませた。どういう体力してるんだろう。
「体がまだふわふわするけど……頑張ろう……」
今日の目標は、録画メガネと透明指輪を作ることだ。
録画メガネとは名前そのままの能力で、ゲームのプレイ動画を保存できるアイテムだ。キャプチャーソフトとか外部ツールを使えば、録画メガネがなくても動画を撮れるけど、ゲームの中でできるってのが煩わしくなくていいよね。
透明指輪は更に説明不要だろう。装着すると透明になれるのである。ゲーム内には透明なものを視る魔法とかあったし、こっちの世界にもあるだろうから無敵ではないけど、父上の目を誤魔化すにはこれで十分だ。
指輪を装着。
ちゃんと透明になれた。うっすら輪郭が見えるってこともない。
メガネも試そう。
横にあるボタンを押す。これで俺が視ている景色が録画されるはず。もう一度ボタンを押して停止。それから別のボタンを押すと……よし、録画したラドニーラの寝顔がホログラムになって空中に映し出された!
ゲームだと普通に動画ファイルが保存されるけど、この世界にはモニターとかないから動画ファイルがあっても再生できない。だから改良してホログラム映写機をつけ加えてみたのだ。
「……そうだ。いたずらしよっと」
透明だったらニーニャにいたずらし放題だ。
俺はいつも酷い目に合ってるんだから、ちょっとくらい仕返ししたほうがいい。
具体的にどんな仕返しするか決めてないけど。
さて。肝心のニーニャは……リビングにいた。ドアがちょっと開いてるから隙間から様子をうかがう。ソファーに座ってる。家事を終えて休んでるのかな?
「ん……エリオット様……ぁ」
名前を呼ばれた。まさか透明なのにバレた!?
いや、違う。
ニーニャの奴……腕をスカートの中に入れて動かしてる。俺の名前を呟きながらメッチャ激しく動かしてる!
昨日の夜あんなにしまくったのに、まだ足りないの!?
って言うか、あんな激しくして痛くないの!?
「ふぅ……エリオット様に見られていると思いながらすると、いつもより何倍も興奮しますね」
や、やっぱりバレてる?
そんな馬鹿な。俺は透明になってるんだぞ。
いくらニーニャが気配を読めるからって、殺気も闘気も出してない俺を見つけられるわけがない。
「ドアの隙間から見ていますね、エリオット様。透明になっても分かりますよ。呼吸音、筋肉と骨がうごく微かな音……なによりもエリオット様の香り! 気づく要素はてんこ盛りでございます」
ニーニャがヤバイレベルの達人で変態なのは分かっていたけど、想定よりヤバかった。
お、俺……そんなに体臭する……?
「ご自分では分からないでしょう。私でなければ見逃してしまう程度の微かな……しかし芳醇でコクのあるまろやかな香りがいたします。皮膚からも服からも。私は毎日、お洗濯する前にエリオット様の服をクンカクンカしてから洗っているので詳しいのです」
本当ヤベェ奴だ。
俺は観念して指輪を外した。
「まったく。姿を消して私の秘め事を覗き見するなんて、エリオット様は悪い子ですね」
「ドアを開けっぱなしでそんなことしてるニーニャのほうが悪いんじゃないの?」
「……そしてズボンを内側からこんなに大きく……大きくなっていない……? なぜですか!」
「なぜって言われても」
「大きくなってしまった股間を手で隠して『こ、これは違うんだ、ただの生理現象! 別にえっちなこと考えてたんじゃないから!』とか言い訳するのが普通でしょう。なぜ無反応なんですか。えっちなことに興味ないんですか」
「ない」
「ああ、嘆かわしい……これではお仕置きできないじゃないですか。私にお仕置きする口実を与えなかった罪でお仕置きしするしかありませんね」
「なんでもありじゃないか! ニーニャはそれで満足なの? そんな適当な罪をでっち上げたところで、俺にお仕置きしたい欲が満たせるの!?」
「……私が浅はかでした。エリオット様が本当に悪いことをするまで待つことにします」
ふぅ。なんとか思いとどまらせるのに成功した。
それにしても、透明指輪でイタズラする計画を実行できなくてよかった。
ニーニャがどんなお仕置きをしたがってるのか知らないけど、耐えられる気がしないよ。
「ところで、それが昨日言っていた、透明になれる指輪ですね」
「うん。ニーニャにはすぐ見つかっちゃったけど、普通の人には有効だと思う」
「同感です。私とて、エリオット様が相手でなければ、気づくのが遅れたでしょう。それで、透明というのは理解できるのですが、録画メガネというのは? いつもより理知的な姿になって私をキュンとさせる以外に、そのメガネには特別な機能があるのですか?」
そうか。
この世界は動画どころか、静止画を撮影するカメラさえ発明されていない。
録画って単語がなにを意味するのかイメージできないんだ。
「説明を聞くより、自分でやってみるのが一番早いよ。このメガネをかけて、このボタンを押して――」
俺はニーニャに録画メガネの使い方を説明する。
「これは……凄まじい代物ですね。画期的なアイテムです。ただ敵地に侵入して帰ってくるだけで、莫大な情報が手に入ります。逆に設置しておけば、侵入者の姿を見ることができます。娯楽にも使えそうですね。ある意味、透明よりも凄いかもしれません」
さすがニーニャ。
録画の凄さを一瞬で理解してくれた。
近頃スケベな言動がますます目立ってきたけど、本当は聡明なんだ。
「メガネかけてると、いつもより頭が良さそうに見えるよ」
「そうですか? 実際、メガネのおかげか、いいアイデアが湧いてきました」
「へえ。どんなアイデア?」
「それはあとで実際にやって見せましょう」
「楽しみだなぁ。ところでニーニャに頼みがあるんだ。その指輪とメガネを使って王宮に侵入して、父上とスカルブラッド盗賊団の繋がりを立証できるようなもの撮影して欲しい」
俺は領主だから、あまり何日もここを留守にしたくない。
魔物討伐に参加したときは、領民たちに堂々と理由を説明できたから問題なかった。けれど王宮に忍び込むなんて、説明できるわけがない。
俺が自分で王宮に行ったら、領主が行方不明になったと騒ぎになるかも。
そしてラドニーラは王宮の間取りを知らないし、そもそも潜入して情報収集するとか、向いてなさそうだ。
その点、ニーニャは王宮に詳しい。基本的には冷静だし、適任といえるだろう。
「かしこまりました。なら、さっき思いついたアイデアは丁度いいですね。このメガネの使い方のいい練習になります」
「気になるなぁ。もったいつけないで、早くやってみせてよ」
「そうですか? 本当は夜になるのを待つつもりでしたが、エリオット様がそう仰るのであれば」
ニーニャは舌なめずりする。
そして俺は寝室に連れ込まれ、ベッドに押し倒されるた。
「な、なんじゃ!? やっと昨夜の疲れが取れたと思ったら、もうおっぱじめるのか!?」
ラドニーラは、寝ていたところに俺が落ちてきたので、驚いて跳ね起きてしまった。
「ええ、はい。そんなつもりはなかったのですが、エリオット様に誘われてしまったので。エリオット様が悪いのでございます」
「エリオット、貴様ぁ!」
「ご、誤解だぁ!」
そしてニーニャは、俺とラドニーラの泣き顔を撮影しまくったのだった。
録画メガネの使い方が上手になってよかったね!
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