第28話 ウォルトは息子を呪う
ウォルト・アルカンシアは国王だ。
己の国にいる間は、誰からも命令されることなく、好きなだけ権力を振りかざすことができる。
しかし、その権力は神から与えられたものという建前があった。
アストラリス教を国教と定める国は、建前を頑なに守っており、アルカンシア王国もそのコミュニティに属している。
実のところ、ウォルトは建前など無視したかった。
自分は王になるべくして生まれた存在であり、神など関係ない。
教皇国にお布施を払うのも、年端もいかない子供である教皇に頭を下げるのも、できることならやめてしまいたい。
しかしアストラリス教は世界最大のコミュニティであり、そこを離れるというのは、周りにある全ての国を敵に回すのと同義である。
だから下げたくない頭を下げてきた。
我慢は一時のこと。
教皇にさえペコペコすれば、あとは自分を脅かす者はいない。
そう思っていたのに。
よりにもよって、息子が牙を剥いてきた。
自分はまったく手柄を立てられなかったのに、エリオットはドラゴンを引き連れて救援に駆けつけて全軍を救った。
そして、オリハルコンの剣を百本献上するという、非常識なことをした。
のみならず『追放された』と教皇に告げ口しやがった。
おかげでウォルトは大勢の前で恥をかかされた。
父親に対してなんたる無礼か。
たかが追放された程度のことで根に持ちすぎだろう。器の小ささがうかがえる。
なのに教皇たちは、エリオットをもてはやすだけ。
奴の愚劣さに気づいてくれない。
「オリハルコンの剣を百本も用意できるわけがないんだ! 教皇はエリオットに騙されている! なのに、ワシがいくら指摘しても聞く耳を持たん……愚か者共め。戦いが始まれば、あの剣がナマクラだと嫌でも分かるぞ!」
ウォルトは願望に基づいた独り言を続ける。
そして魔物との戦いが再開したとき、ウォルトの願望は実現しなかった。
「うぉぉぉぉぉっ! レオンハート伯爵が持ってきてくれた剣、面白いくらいスパスパ斬れるぞ!」
「凄い! これがあれば俺たちは無敵だ!」
「レオンハート伯爵はまだ十歳なのにこんな剣を作れるなんて、神の使いに違いない!」
エリオットの剣を装備した聖騎士たちは、凄まじい勢いで魔物を斬り伏た。
その戦いっぷりを見て、ほかの兵士たちの士気も上がっている。前の戦いより、明らかに強くなっている。
誰もがエリオットを褒め称えながら進撃していく。
「こ、こんなはずはない……エリオットは本当に有能なのか? だとしたら追い出したワシが馬鹿みたいではないか……そんなはずはない!」
いくらウォルトが否定したところで、現実の光景は変わらなかった。
「息子はこんなに凄いのに、父親はさっきから逃げ惑ってばかりだな……」
「しっ、聞こえるぞ!」
そんな声さえ聞こえてきた。
発言した者を斬首してやりたかったが、この乱戦の中では、誰が言ったのか特定するのは不可能。
それにウォルトは魔物の爪や牙から逃げるので忙しかった。
「おおおお、ドラゴンだ! あっちでドラゴンが魔物を踏み潰しまくってるぞ!」
「やっぱ格好いい! あれが味方だなんて頼もしすぎる!」
「どうやったらドラゴンを仲間にできるんだろう……レオンハート伯爵はやっぱり最高だぜ!」
「レオンハート! レオンハート! レオンハート!」
レオンハート伯爵を讃える大合唱が巻き上がった。
これがせめてアルカンシア王家を讃える声なら、ウォルトの自尊心は傷つかなかっただろう。
なぜエリオットは自分の息子なのに苗字が違うのか。
ウォルトは真剣に呪った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます