第27話 教皇への謁見
「お初にお目にかかります、教皇猊下。俺はエリオット・レオンハート。アルカンシア国王より、伯爵の位を授かった者です。そして、あちらのドラゴンは魔物にあらず。俺の友人の精霊で、名をラドニーラと申します」
「ほう、ドラゴンの精霊を友にするとは聞いたこともない。だが、現にそのドラゴンは、そなたに懐いている様子。実にあっぱれだ」
野営用の天幕の下。
仮の玉座に片肘をついて腰かけているのは、髭を生やした老人……ではない。
教皇といえばそういうイメージを持ってしまうが、現教皇は十代半ばほどの麗しい少女だった。
今回の魔物討伐に派兵した王や貴族たちも、天幕の周りに控えている。
だけど、こうして教皇の前に呼び出されたのは俺たちだけだ。
全軍が崩壊しかけたところにドラゴンと一緒に救援に駆けつける奴がいたら、そりゃ顔を見たくなるだろう。
ちなみにそのドラゴンは、天幕の外で翼を広げたりガオーと鳴いたりして、兵士たちを喜ばせている。
「それにしても、如何にしてドラゴンを友としたのだ? そなたの家と古くから交流があるのか?」
「いえ、俺の代からです。そもそもレオンハート伯爵家は長らく断絶しておりまして――」
俺はチャンスとばかりに、教皇の前で父上に追放されたことを語ってやった。
天幕のすぐ外で盗み聞きしていたらしく、父上はズカズカと入ってきて言い訳を始める。
「教皇猊下! エリオットの言うことはデタラメです! ワシは実の息子を追放するような真似はいたしません。あくまで試練を乗り越えて、立派に成長してもらおうと思ってのこと!」
「アルカンシア王よ。私はそなたに、ここへ立ち入る許可を与えた覚えはないのだが?」
「も、申しわけありません……ですが、息子が猊下の前で嘘をつくのを黙って聞いているわけには参りません。誤解を解かねば……」
「ほう。するとエリオットに向かって『二度とアルカンシアを名乗ることは許さぬ』と言ったのは嘘であると?」
「それは言いましたが……使い物にならないスキルを授かってしまったエリオットを奮い立たせるために、あえて厳しい言葉をかけたまでです!」
「それで奮い立つと思っているなら、アルカンシア王はかなり独特の感性の持ち主と言わざるを得ないな」
教皇の反応は非常に冷ややかだ。
父上はわざわざ墓穴を掘りに来たようなものである。
教皇だけなく、その護衛や、取り巻きの神官たちも非友好的な表情を浮かべた。
「なるほど。父上のお気持ちは理解しました。ですが正直、どうでもいいです。そんなことよりも教皇猊下に献上したいものがございます。俺の部下に持ってこさせてもよろしいですか?」
俺は教皇の許しを得てから、馬車の荷台を運ばせた。
なお馬を教皇の天幕に連れてくるのは不敬なので、馬の代わりにニーニャが馬車を引っ張っている。
その怪力を見て、兵士たちが静かな歓声を上げていた。
「オリハルコンで作った剣です。お納めください」
「なに!? オリハルコンの剣だと!」
ドラゴンを前にしても表面上は冷静だった教皇が、オリハルコンと聞いて前のめりになる。
「はい。俺の領地で採れたオリハルコンを、俺のスキルで剣に加工しました。スキルの詳細をここで述べるのは控えさせていただきます」
「ほう……そなたのスキルで。アルカンシア王は使い物にならないスキルと言っていたが、これほど見事な剣を作り出すスキルを外れ扱いするとは、やはり独特の価値観としか言いようがない」
「ば、馬鹿な……エリオットの固有スキル名は遊び人だ……そんなことできるわけがない……」
父上は声を震わせ唖然としている。
哀愁漂う姿だけど誰もそれに注目せず、俺の作ったオリハルコンの剣にのみ視線が集中している。
「うーむ。私は剣の素人だから詳しいことは分からない。だが目を奪われるほど美しいし、刀身から魔力を感じる。只者ではない……ありがたくいただこう。しかし私が持っていても宝の持ち腐れだから、聖騎士団の誰かに使わせよう」
「いえ。その剣は猊下が護身用にお持ちください。同じものを百本作ってきたので、一本くらい戦線に投入しなくてもよろしいでしょう」
「な、なんだと!? オリハルコンの剣を百本……ッッッ? マジありえなくね!?」
教皇は前のめりになりながらも威厳を保とうとしていた。
けれど百本と聞いて素の表情を出した。
それから鑑定スキル持ちの神官が、馬車の中身を調べ、全てオリハルコン製の剣だと声を震わせながら宣言した。
かつて領民たちに与えた鉄ベースのオリハルコン合金ではない。
純度百パーセントのオリハルコンソード。
それを百本用意してもビクともしない備蓄が、レオンハート伯爵領にはあるのだ。
「す、凄いぞ……これほどの装備があれば、今回の作戦は成功したも同然だ! エリオット・レオンハートよ。そなたへは、なにか特別な褒美を考えねばならんな」
「お待ちください猊下! オリハルコンの剣が百本もあるなんて、どう考えてもおかしい! エリオットは嘘をついている! 騙されてはいけません!」
「では私の部下もグルになって私を騙そうとしているとでも言いたいのか?」
「そ、そういうわけでは……」
「いい加減にしていただこうか、アルカンシア王。そなたの
「はわわわ……」
父上は国王なのにつまみ出されてしまった。
根に持って、教皇に復讐とか企まなきゃいいけど。
父上が破滅するのは勝手だけど、国ごと巻き込まれたら困るよ。
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