第24話 姉上が言った通りに盗賊団がノコノコ現れた
「姉上! 一人で来たの!?」
屋敷の呼び鈴が鳴るのでドアを開けてみたら、若い女性が立っていた。
俺にとってはニーニャの次くらいに見慣れた女性だ。
俺の姉のクレアだ。つまり王女である。
見たところ、護衛はいない。
固有スキルが聖女なので、回復と防御のエキスパート。それ以外の魔法もかなり使えるから一人旅をしても平気だ。
莫大な魔力にものをいわせれば、馬よりずっと速く走れるだろうし、現にやってしまう人だけど。そろそろ立場ってものを考えたほうがいいと思う。
俺が追放された以上、次の王様なのだから。
「可愛い弟に会いに行くのに、お供をゾロゾロ引き連れるのは性に合いません。久しぶりね、エリオット。大きくなりましたね」
「いや、前に会ってから一ヶ月くらいしか経ってないから、そんな変わらないと思うよ」
「私の目は誤魔化せません。二ミリは大きくなってます。削らないと、削らないと……」
などと言って姉上は俺の頭を撫でまくる。
「なんで削るのさ」
「エリオットにはいつまでも小さくて可愛いままでいて欲しくて」
「同感でございます。さすがはクレア様です」
するとニーニャも一緒になって俺を撫で始めた。
姉上は小さくて可愛いものが大好きだ。なので俺が成長するのが嫌なのだろう。
ラドニーラが散歩に出かけていてよかった。姉上がラドニーラを見たら感激して暴走しそうだ。
「ふぅ。エリオットの撫で貯めができて満足です。これでしばらく禁断症状が出ずに済みそうです。では、本題に入りましょう。どうやら父上は、スカルブラッド盗賊団を使って、あなたからこの領地を取り上げるつもりのようです」
「スカルブラッド盗賊団? アルカンシア王国近辺で最大勢力の盗賊団だよね。それを使うってどういうこと?」
「実は以前から、スカルブラッド盗賊団は父上が作ったものという噂があったんです」
姉上はニーニャが煎れた紅茶を飲みながら、とんでもない話を始めた。
俺は驚いたけど、同時に納得もした。
スカルブラッド盗賊団はこの国のみならず、周辺諸国を荒らし回っている。
当然、どこの国の軍隊もスカルブラッド盗賊団を潰そうとしているけど上手くいかない。
たかが盗人の集団如きが、なぜ国軍に対抗しうるのか?
その答えは、実質的に国軍だからというオチ。
珍しい話じゃない。地球でも大航海時代の辺りには、国の許可のもとに敵国の船から略奪しまくる国営海賊みたいなのがいたらしい。
「姉上は、父上が盗賊団を動かす兆候をつかんだ。けれど証拠がない。俺がここで盗賊団を返り討ちにすれば、なにか物証を得られるかもしれない。そういうこと?」
「さすがエリオット。理解が早くて助かります。けれどそれは、エリオットとその領民を囮にするということ。盗賊団が来ると分かっているのだから、逃げるという選択をしても文句は言いません」
「逃げないよ。俺の領民は強い。盗賊団が十倍の兵力でも、いや百倍でも無傷で勝つ。俺とニーニャが前線に出なくてもね」
「……本当に頼もしい顔をするようになりましたね。エリオットがそう言うのであれば任せましょう」
「一つ質問。姉上はこの問題の着地点をどこに考えてるの? 父上が盗賊団を操っていたのを公表して失脚させるつもり? 父上を失脚させたとしたら、玉座に次に座るのは誰?」
「……盗賊団との関係を公表すべきではないでしょうね。それは父上だけの問題ではなく、アルカンシア王国と諸外国の外交問題になるから。けれど、なんらかの方法で失職はさせる。だって、私のエリオットを追放するなんて許しがたい。そして次の玉座には……エリオットが座るべきと思います」
「やだよ。俺は氷魔の地の領主だ。ここを発展させるのに忙しい。玉座なんて御免被る」
「では、そのときが来たら、改めて玉座を押しつけ合いましょうか」
そして姉上は帰った。
数日後。
情報通り、盗賊団がやってきた。
数は百人以上。
表面上はボロ布をまとって盗賊っぽくしてるけど、その下には真新しい鎖帷子やら鉄の胸当てなどを装備していた。武器も手入れが行き届いている。
こんな大人数で、こんな装備の盗賊団なんかいるもんか。
しかも話を聞く限り、スカルブラッド盗賊団の全軍はこんなもんじゃない。
襲ってきたのは極一部。
そりゃ、国が後ろ盾にいるって噂も立つね……。
これが普通の町だったら、為す術もなく略奪されていただろう。
でも俺の領地は一味違う。
「な、なんだこいつらの鎧! 刃が通らねぇ! 斧でぶっ叩いてもビクともしねぇ!」
「しかも異常に士気が高い……こんな町初めてだぞ……逃げろぉ!」
「うわぁ! 後ろにドラゴンがいる!? まさかこいつらドラゴンを手懐けてるのかぁぁぁっ!」
盗賊たちの退路を、ラドニーラの巨体が塞ぐ。
逃げようとすれば尻尾ビンタで叩き潰され、立ち向かえば領民たちのオリハルコン槍で貫かれる。
挟み撃ちにされた盗賊団は、ほどなくして一人残らず死んでしまった。
「……って、何人か残しておいて、尋問したかったのに」
「それは無理な話でございます。いくら領民たちが戦い慣れてきたとはいえ、実践の中で敵を生かしたまま捕らえるなど、難易度が高すぎます。ラドニーラも、そこまで器用とは思えませんし」
「まあ、下っ端が国王に繋がる情報を持ってるわけないし、こんなもんか」
尋問はできない。
けれど装備品は手に入った。
そこになにか手がかりがあるかもしれない。
「おや、この剣は……こちらのも同じです。デザインこそ別物を装っていますが、これらの剣はアルカンシア正規兵が使っている剣と、同じ工房で作られたものです」
「ニーニャはそこまで分かるんだ、凄いな……」
俺は試しに鑑定スキルを使ってみた。でも鉄の剣だってことしか分からないなぁ。
「刃の仕上がりが同じなのです。間違いありません。ですが私がいくらそう訴えても、証拠にはなりません」
「いや。俺は信じる。きっと姉上も信じる。父上と盗賊団が繋がっているという確信が一段と深まった。それで俺も腹をくくれる。父上に目にもの見せてやりたい……アルカンシア王国から独立して、ここを俺の国にしちゃおう」
「……それはいい考えでございま……は?」
さすがのニーニャも目を丸くして固まった。
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