第21話 温泉が湧いた!
ケイシーは俺が思っていたよりも有能だった。
あっという間に村の端に製鉄工場を作ってしまい、そこで働く人員も連れてきた。
工場では、俺のゴーレムが採掘して運んできた鉄鉱石から、鉄のインゴットを作っている。
オリハルコンのように俺が自分で精製しないのには、理由があった。
時間がいくらあっても足りないのだ。
鉄の産出量が今後どのくらいになるか分からない。が、オリハルコンより少ないとは考えにくい。
正直、オリハルコン鉱石でさえ持て余し、採掘を止めたくらいだ。
それに、なんでもかんでも俺がやっていたら、領地開拓ではない。
領地に住む人々の手によって町が回るようにしないと。
「あ~~さみぃ! いくら村の中が周りに比べてマシって言っても、寒いことに変わりねぇよなぁ」
「大浴場で暖まりたいぜ。領主様が風呂付きの家を用意してくれたのは嬉しいけど、家の風呂ってなんか違うんだよなぁ」
製鉄工場で働く人たちが、そんな雑談をしていた。
実に共感できる。
かつて日本人だった俺は、大きな浴場というのに懐かしさを覚える。温泉とか銭湯を思い出すからだ。
そろそろ、この領地に公衆浴場を作るべきだろう。
お湯は周りの雪を溶かせばいくらでも手に入る。
ボイラーの燃料にする木材も沢山ある。
浴場の建設だって、俺のクラフト能力で簡単にできる。
とはいえ、ただ広いだけの浴場を作るのは芸がない。
どうせなら観光地になるような浴場にしたい。
やはり温泉か……。
なーんてね。地面を掘ればなんでも出てくると思う癖がついてきた。
オリハルコンと鉄があるだけでも幸運すぎるんだ。
温泉まで出てきたら、今までこの土地を開拓してこなかった歴代の国王が馬鹿みたいじゃないか。
「おーい! 鉄鉱山のほうからお湯が吹き上がってるぞ! もしかして温泉を掘り当てたんじゃないかっ!?」
領民の一人がそう叫んだ。
見れば確かに、もの凄い勢いで水柱が登っている。
嘘だろと思いながら現地に行くと、硫黄の匂いがしていた。
周りの雪を溶かしながら、熱々のお湯が降り注いでくる。
ゴーレムたちは突然の事態に対処できず、エラーを起こして止まっていた。
あとで再設定してやらないと。
ああ、それにしても――。
「お、温泉だ……間違いない!」
俺は感動の余り叫んでしまう。
「エリオット様がそんなに温泉に思い入れがあるとは存じ上げませんでした」
「しょせんは熱い地下水じゃろ? 普通の風呂となにが違うのじゃ?」
ニーニャとラドニーラは、わけが分からないという表情だ。
「なにが違うって? 成分によって、疲労回復に効くとか、切り傷が早く治るとか、免疫促進とか、色んな効能がある。けれど、そんな理屈はどうでもいいんだ。温泉は入った瞬間に『あ゛~~』って声が出るんだ。それが最高に気持ちいいんだよ」
「よく分かりませんね」
「入ってみれば分かるさ!」
俺は地面を適当にくり抜いて、そこに温泉を貯めた。
そして服を脱いで飛び込む。
「あ゛~~」
ぎもぢいいいいい!
「エリオット。なんかオッサン臭いぞ?」
「俺、前世の記憶があるからね。前世と合わせれば四十歳だから実際にオッサンだよ」
「なぬ?」
「それはエリオット様にとって重要な情報なのでは? ラドニーラに教えてしまってもよろしいのですか?」
「ああ、うん……もういいいんじゃないかな。ニーニャを一番信頼してるから、最初に教えた。そしてラドニーラとも、もう知らない仲じゃないし」
「前世の記憶かぁ。珍しいのじゃ。しかしエリオットが普段やってることに比べれば、さほど驚くに値せんな。前世と合わせても、我より年下なのは一緒じゃし」
「俺の秘密を聞いても動じないでくれて嬉しいよ。ところで二人とも、見てないで温泉に入りなよ!」
「そこまで熱烈に誘われては仕方ありません。まだ日が高いですが入りましょう……ふぅ」
「我、温泉は初めてじゃ。おっ、これは確かに気持ちいい! 体の芯まで温まるのじゃぁ」
ニーニャもラドニーラも満足そうな様子。
温泉のよさを分かってくれて嬉しいなぁ。このまましばらくマッタリしよう。
「って、二人とも近くない? せっかく広く作ったんだから広々と使ってよ……わっ! どこ触ってるの!?」
「は? 私たちを誘ったのはエリオット様ではありませんか。私たちと一緒に風呂に入るというのはこういう意味ですよ?」
「俺にはそんなつもりは……」
「我らが裸のエリオットを見て我慢できるわけなかろう。我らの前で服を脱いだらどうなるか教育してくれようぞ。ぬふふ、そう怖がるな。雪の粒を数えている間に終わるから……」
雪の粒を数えている間って、それ一生終わらないでしょ!
「あ゛~~! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~!」
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