第19話 疑似ロードヒーティング
昨日は猛吹雪だった。
たった一晩で俺が想像していたよりも遙かに雪が積もり、玄関の扉を開けないほどになった。
「ラドニーラ。君の精霊の力でどうにかならないの?」
「我の力があるからこの程度なのじゃぞ。そうでなかったら、屋根まで雪で埋まっておる」
「本当に恐ろしい土地だな……」
極論を言えば、そんなところに住まなきゃいいという話になる。が、もう村を作ってしまった。
それにオリハルコンが眠っていると分かった以上、環境が厳しくても開拓する価値はある。
問題は、環境の厳しさが並大抵ではないということだ。
領民たちは慣れた様子で除雪していて「まともな家があるから今までよりずっと快適だ」なんて言っている。
しかし俺は、領民たちには健康で文化的な生活をさせたい。
除雪で半日が潰れるが如き生活では、文化を築く暇などない。
「そうだ。ラドニーラの精霊の力を分析すれば、それを魔法で再現できるんじゃないか? どういう風にやってるの?」
「どうと言われてもな。お主、どういう風に心臓を動かしているかと聞かれて答えられるか?」
つまり無意識にしているから、やり方を説明できないわけか。
なら、俺が理論を構築するしかない。
「ラドニーラ。ソファーに座ってくつろいでて。力の流れを見るから」
「うむ。ダラダラするのは得意じゃぞ。なんなら年単位で寝てやろうか?」
さすがはドラゴンにして精霊。時間のスケールが人間とは違う。年単位は求めてないけど、じっくり観察させてもらおう。
「なんか布越しだと分かりにくいな……ラドニーラ。服を脱いで」
「むふふ。昼間っからえっちな奴め。我のセクシーポーズで悩殺してやるのじゃ」
「そんなクネクネ動かれたら力の流れが分かりにくいよ! ジッとしてて!」
「……くすん」
ラドニーラは涙目になってソファーに正座した。
「エリオット様。私も全裸になってみました」
「邪魔!」
「そんなこと言って。こうして胸を押しつければその気になるのでしょう?」
「邪魔って言ってるでしょ! 気が散る!」
「……くすん……へくちゅん!」
全裸のニーニャは涙目になったうえに、くしゃみした。
そりゃそうだ。いくら暖炉に火をつけてるとはいえ、夏よりは寒い。隙間風だって多少はある。なに考えて脱いだんだ、まったく。
鑑定スキルを使っても、ラドニーラが精霊だってことしか分からない。
だからゲームスキルに頼らず、こちらの世界の魔法技術を使う。
目をこらせば、魔力の流れが見える。ラドニーラの肌から地中と大気に、魔力が休むことなく溶け出していた。
……微々たる量だけど、これを二十四時間ずっと流し続けるとか、ラドニーラの魔力ってどんだけあるんだ。精霊って凄い。
俺が勝てたのは、ラドニーラが戦い方を知らないからで、彼女が実戦経験を積んだら、前と同じ結果にはならないだろう。
俺も精進しないと。
「よし、だいたい分かったぞ。もう服を着ていいよ」
「待つのじゃ、エリオットよ。裸にされて、お主に凝視されて……我はムラムラしてしまった! この体の火照りをどうすればいいのじゃ!」
「ニーニャにどうにかしてもらいなよ。ニーニャも丁度、ムラムラしてるみたいだし」
「はい。エリオット様に放置プレイされたので、ムラムラの濡れ濡れでございます。ラドニーラ、一緒にドチャシコしましょう」
「ま、待て! ニーニャにされると下半身の感覚がなくなって怖いのじゃ……よ、夜まで我慢して、いつもみたいにエリオットと三人でするのじゃ……なっ!?」
「夜は夜でいたしますが?」
「お前の性欲どうなっとんじゃ! サキュバスの血でも混ざっとるんか! あ、や、やめろぉぉぉぉんほおおおおおおっ♥♥♥」
俺は寝室に行き、風魔法で防音し、二人のやかましい声が聞こえないようにする。念を入れて、結界魔法で扉をロックしとくか。
さて、と。
前世でプレイしていたゲームには、瘴気という概念があった。
瘴気は有毒ガスのようなもので、それがたまった土地は、まともな動植物が育たず、邪悪な生物が集まってくる。
瘴気を浄化して、真っ当な土地にする装置というのがあった。
その装置をベースに改良を加えよう。
俺が思うに、氷魔の地が異常に寒いのも、瘴気に似た
正体不明なので、完全には祓えない。
だがラドニーラの魔力で、緩和できている。
ラドニーラと同じ波形の魔力を流せば、それを再現できるはず。
ラドニーラの力と、俺が作る装置の力。重ね合わせれば、効果が強くなる。
「この理論だと、広範囲はカバーできないな。でも、この村だけでも温かくなれば暮らしが楽になる」
空中は無視して、地中にだけ魔力を流すように設定。
これでロードヒーティングのようになる……と思う。
「よし、完成だ!」
中心に魔石。
術式を刻んだ鉄のリングが、魔石の周りを回っている。
装置全体は風船のようにふわふわと浮かんでおり、指で突くと、すーっと動く。
浮かばせておいても機能を発揮するけど、風に飛ばされそうだな。
箱に入れて、屋敷の庭に埋める。
そして俺は地面に手を添えて「起動」と念じた。
瞬間、土が温かくなる。
まるで、この下を温泉が流れているみたいだ。
魔力が村全体に広がっていき、そこらで雪が溶け始めた。
「な、なんだこりゃ! 蒸気が上がってるぞ!」
領民が声を上げた。
「俺が作った装置の効果だよ。今は積雪を溶かすために地面を高温にしてるけど、雪が溶けたら、自動で調整して、程よい熱さになる。これでもう村に雪が積もることはない」
「おいおい……そんな装置、聞いたこともねぇぞ。まず発想が凄いし、実際に作っちまうのはヤバすぎる……あんた、これからも俺たちの領主でいてくれるのか? 急にどっかに消えたりしないよな?」
「消えないよ。ここは俺の領地だ。ほかにもっといい場所があったら、ここをそこより凄い土地にするだけだ」
「か、かっけぇぇ!」
みんな、俺を『最高に格好いい貴族』とか『領主のかがみ』とか『物作りの神』とか言って褒めてくれる。
照れくさい。けど、鼻が高くなる。
尊敬されるって嬉しいなぁ。
領民の暮らしをよくするため、もっと頑張るぞ。
と、俺は決意を新たにした。
その夜。
「昼間から今までニーニャに色んなことをされて足がガクガクするのじゃ……悔しいからエリオットを虐めてスッキリするのじゃ!」
「ラドニーラとするのも楽しいですが、やはりエリオット様の可愛い顔を涙でぐしゃぐしゃにしないと得られない栄養というのがあります。では、いただきます」
「やだぁぁぁっ! 食べないでぇぇぇっ!」
領民たちに聞かれたら、もう二度と格好いいと言ってもらえないような姿で泣き叫んでしまった……。
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