第15話 ドラゴンで空を飛ぶ

 俺の領地にレストランと鍛冶屋ができた。

 ところが店はあるけど金がない。

 ほかの地域と交流がなさ過ぎて、通貨が流通していないのだ。

 今のところ物々交換でやっている。

 これでは趣味の範疇を出ない。

 俺は領地を発展させたい。

 どうしたって通貨は必要だ。


「というわけで、この村の物を輸出して現金を手に入れたい」


「大商人はやはり王都にいますが、王都は遠いです。近くの町は経済規模が小さいですが、なんといっても近いというのは大きな利点です」


「俺は追放された身だ。辺境からの成り上がりをしたい。近くの町に売ろう」


 なにを輸出するか。

 当然オリハルコンである。

 問題はオリハルコンをどのような形で売るか。

 岩に混じった状態で? インゴットに精製して? なにかの商品に加工すべきか?


「岩に混ざったままのほうが、自分の領地から出土した感を出せる気がする。インゴットの状態だと盗品を売りに来たみたいだ」


「確かに、氷魔の地の領主なんて、普通に考えれば貧乏貴族です。それがオリハルコンのインゴットなど売りに来たら、犯罪を疑うのが普通でしょう。ですが不純物が混じったままなら『採掘したらオリハルコンが出てきた』というエピソードに信憑性が出ます」


「商人は、ただオリハルコンを買い取るだけにとどまらず、氷魔の地に投資しようという気になるかも。それで外から物や人が入ってきたらありがたい。俺が建物を作ったり、魔物を倒してるだけじゃ駄目だ。極端な話、俺が仕事をしなくても、みんなが生活できるようにしたい」


「……そこまでお考えでしたか。感服しました。エリオット様はクラフトスキルがなくても、スケールの大きな領主になれそうです」


「持ち上げすぎだよ。明確なビジョンがあるわけじゃなくて、そうなったらいいなぁって話をしてるだけなんだから。とはいえ、思いついたんだからやってみよう。ラドニーラも一緒に来る?」


「町には色んな服が売ってるじゃろ? 今まで気にしていなかったが、ゆっくり見て回りたいのじゃ。我の背に乗せてやろう。遠くの町でもひとっ飛びじゃぞ」


 ドラゴンに……乗る! ドラゴンに乗って空を飛ぶ!

 男の子の夢じゃないか!

 空路なら襲われる可能性が低いとか、時間を短縮できるとか、そういう理屈を抜きにしてワクワクする。


「ぬふふ。そんなに目をキラキラさせて、可愛い奴め。今変身してやるから、待っておれ」


 服を着たままドラゴンになったら破れてしまう。なのでラドニーラはゴスロリドレスを脱ぎ始める。


「人間のオスってチラリズムが好きなんじゃろ? ほれ、脱ぎかけの我を堪能するがいい」


「そういうのどうでもいいから早くドラゴンになってよ!」


「……どうでもいいって言われた……我の人間形態、結構可愛いと思うんじゃが……くすん」


 服を脱いだラドニーラはベランダに立ち、変身魔法を使う。

 屋敷の上空に、真紅のドラゴンが出現した。


「うわぁっ、ドラゴンだ!」


 領民たちの驚く声がした。

 そういえば、ラドニーラのこと、まだ紹介してなかったっけ。


「大丈夫。詳しい説明は今度にするけど、俺の仲間だから」


「りょ、領主様がそう言うならそうなんだろうけど……ドラゴンを仲間にしちまうとか、本当に底の知れない人だぜ」


 そしてラドニーラは、俺とニーニャを背中に乗せて、上空へと舞い上がった。

 凄い。

 ゲームでもドラゴンに乗ったけど、やっぱり現実は凄い。

 羽ばたいて垂直に上昇していく。意外と振動が少ない。俺たちを気遣って、そういう風に飛んでくれているのだろうか。

 もう村が小さく見える。寒い。けれどラドニーラの体温が高いから、しがみつくと温かい。さすがは火の精霊。

 そして加速。

 叩きつけられたような重圧を感じるほどの加速だ。


「凄いですね。どんなでも駿馬でも比べものになりません。胸が高まります。本当に凄い」


「ね! ずっとドラゴンに乗りたかったんだ! 想像してたより凄いや。もし飛行機をクラフトできたとしても俺はドラゴンのほうがいい!」


「くふふ。褒めすぎじゃ。どれ、サービスして宙返りじゃ!」


 俺とニーニャは大はしゃぎである。

 そして、あっという間に町が見えてきた。

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