第10話 自動迎撃ドローンで村を守る
俺が作った鍋で煮込めば、魔物の肉を食べられるようになる。
そう聞いた領民たちは信じられないという反応をした。
が、鍋パーティーを開いて、それが真実であると知らしめると、実に感激してくれた。涙を流す者さえいた。
今まで彼らは、魔物が跳梁跋扈する氷魔の地で、わざわざ普通の動物を探して狩るという気の遠くなることをして食料を得ていた。
しかしオリハルコン装備のおかげで魔物から逃げる必要がなくなり、そして今度は鍋の力で魔物が捕食対象になったのだ。
嬉しい、なんて言葉では語り尽くせないものがあるのだろう。
俺は鍋だけでなく、フライパンや七輪など調理器具を追加で作る。
つねに腹を空かせていた領民たちは、干肉を作って食料を備蓄する余裕を手に入れた。
食料に余裕があれば、それを得るために使っていた時間を別のことに使える。
「僕は料理人になるのが夢だったんだ。新天地なら同業者がいないから、必ず成功するって言いくるめられてここに来た。けれど料理なんてする余裕はなくて、とにかく口に入ればいいって有様だった。それが領主様のおかげで、ようやく店を始めようって気になれたよ。ありがとう」
領民の一人が頭を下げてきた。
「そうだったんだ。なら、あなたの家の一階を改装しなきゃ。えいっ」
「あっという間に飲食店っぽくなった! 本当にありがとうございます!」
俺とニーニャで、彼の料理を試食させてもらった。
王宮の味に慣れ親しんだ俺の感覚からしても、実に美味しかった。
領地に店ができるというのは嬉しい。一歩、前に進んだ気がする。
「領主様。俺は昔、鍛冶師をしていた。ここでも同じ仕事をしたい。だが、あんたが作ってくれたオリハルコンの武器は、普通の道具じゃ手入れできねぇと思う。頼ってばかりで申し訳ないが、なんとかならねぇかな?」
俺とニーニャが持っている純粋オリハルコンの剣は、魔物を千匹や二千匹斬ったところでビクともしないだろう。
けれど、領民たちに渡した槍と鎧は違う。少量のオリハルコンを混ぜて強化しているが、ベースは鉄。だから使い続ければ歪んだり、欠けたりする。
それを直そうにも、普通の砥石やハンマーでは難しそうだ。
溶かして打ち直しともなれば、超高温の炉が必須になる。
「よし。なんとかしてみよう」
俺はニーニャを引き連れ、魔法金属探知機を持って雪原をウロウロする。
「んん? 針が勢いよくグルグル回り出した……この下にあるのか」
「またオリハルコンだったらいいですね」
「そう都合よくいかないでしょ。オリハルコンは貴重なんだ。けど、
穴掘りスキルを発動。
すぐに金属が出てきた。
前に掘り当てたオリハルコンと似た色をしている。
まさかと思いつつ鑑定スキルを使うと、オリハルコンだった。
「凄いな……もしかして氷魔の地って、オリハルコンの埋蔵量が膨大なのかな?」
「信じがたいことですが、こうも連続で見つかると……期待したくなりますね」
過酷すぎて誰も手を付けられなかった氷魔の地。
実は宝の山なのかも。
だとしたら領主になれた俺は幸運だ。
WEB小説には追放ざまぁ系というジャンルがあったが、もうこの時点で「父上ざまぁ」という気分である。
「オリハルコン合金で炉とハンマーを作ったよ。それと天然砥石にオリハルコンを混ぜてみた。これでどうかな?」
「うおおおっ、ありがてぇ! これで装備が壊れても直せそうだ!」
「レストランがオープンしたから、調理器具を作る仕事もありそうだね」
「ようやく人間が暮らす場所って感じになってきたぜ」
村としての体裁がどんどん整ってきた。
領民がそれぞれやりたいことを見つけ、独自の文化を作ってくれたら嬉しい。
「おーい、また魔物の群れが出たぞぉ!」
「んだよ。めんどくせぇなぁ」
鍛冶師の男はボヤきながら鎧を着て、ほかの領民たちと合流して魔物退治に向かう。
「うーん。せっかく仕事をしようとしても、魔物が来るたびに中断してたんじゃ、やる気がどこかにいっちゃうよな。自動で迎撃できるようにするか」
「エリオット様。さらりと凄いことを言いましたね。今度はどんなものを作るんですか?」
「防衛用ドローンを作る」
これはゲームの話だけど、拠点防衛の戦力として最強なのは、レベルを上げて装備を整えた兵士である。
けれど強力な兵士を何人も用意するのはとても大変だ。
そこで数の不足を補うためのユニットが何種類か用意されていた。
防衛用ドローンはその一つ。
「全身をオリハルコンで作るのが最強なんだけど……とりあえず岩で作るか」
岩はそこら中にある。
あと魔物を倒して入手した魔石も沢山余っている。
「クラフト!」
別に叫ばなくてもクラフトスキルを使えるけど、気分を出すため声に出す。
その瞬間、岩でできた空飛ぶ円盤が出現した。直径は三十センチほど。数は五十機。
「これが防衛用ドローンですか……面妖な見た目ですね。どんな機能があるのですか?」
「見てれば分かるよ。さあ、俺らも魔物のところに行こう」
俺とニーニャが歩き出す前に、ドローンは勝手に動き出していた。
魔物を自動で感知しているのだ。
追いかけると、領民と魔物が戦っている現場に到着した。
魔物を射程に捕らえるやいなや、ドローンたちは光線を発射して攻撃を始めた。
一発一発はさほどの火力でもない。が、五十機も並んで空中から撃ちまくると、凄まじい制圧力になる。
「な、なんだ、あの円盤は!?」
「よく分かねーけど、領主様が静かに見守ってるってことは、領主様が作った新しいなにかだ!」
「じゃあ安心だな!」
あっという間に魔物の群れは全滅した。
「この円盤は防衛用ドローン。村の周りを飛び回って、魔物がいたら自動的に攻撃してくれる。だから今くらいの魔物なら、自分たちで戦う必要はないよ」
「凄すぎる! こんな凄いもの王都にだってないぜ!」
「王都どころか聖都にもないだろうさ。俺たちの村は、世界で一番進んだ技術に守られてるんだ!」
「領主様バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」
褒められると悪い気はしない。
でも万歳三唱は照れくさいなぁ。
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