第7話 オリハルコンの剣を作った
スノーワームの体内から、拳大の魔石が見つかった。
これを使って
もちろん近くに鉱脈があればの話だけど。
氷魔の地は過酷すぎて開拓されていない。手つかずの鉱脈が見つかる可能性はある。
「よし、できた」
魔法金属探知機をクラフトした。
コンパスのような形だ。針が魔石でできていて、指し示すのは南北ではなく、魔素を含んだ金属の位置である。
ニーニャに馬車を出してもらい、針が指示する方角へと向かってってみた。
「丘がありますね、エリオット様」
「あの中になにかあるみたいだ。ミスリルとか埋まってたらいいんだけど」
丘の中腹に到着。
馬をそこに待機させ、俺たちは地中に向かう。
もちろんスコップで穴を掘るのではない。
俺のスキルを使う。
前世でやり込んだゲームの拠点管理モードは、地形をいじる機能が充実していた。それを応用して洞窟を作っているのである。
「エリオット様。この魔法を使って、魔物の腹に穴を空けたら瞬殺できるのではありませんか?」
「残念ながら、地面にしか使えないんだよ」
「なるほど。制約があるのですね。それを考えても十分すぎるほど便利ですが」
俺たちは針を見ながら、穴掘りスキルで進み続ける。
「あれ? なんかキラキラした欠片が落ちてきた……金属が混じった石だ。探知機の針がグルグル回ってる……この辺に沢山あるんだな」
金属から、かすかに魔力を感じる。
鑑定スキルを使ってみよう。これもゲームスキルの一つだ。
「……って、オリハルコン!?」
「オリハルコン! まさか。え、本当ですか? オリハルコンって言ったらあれですよね。鉄に少し混ぜるだけで超頑丈な合金になる、
「別のオリハルコンってなんだよ。金属でオリハルコンって一つしかないよ。と、とにかく、この辺を掘りまくってみよう」
ニーニャが動揺するのは無理もない。
それだけ、この世界でオリハルコンは貴重なのだ。
確か、歴代のアルカンシア国王に受け継がれてきた宝剣……つまり俺の父上の剣に、ごく少量のオリハルコンが含まれていたはず。その程度でも国宝になってしまうのだ。
ちなみに俺がやっていたゲームでもオリハルコンは貴重だった。
何日も何日も穴を掘ったり魔物を倒したりして、ようやく一欠片出てくるかという感じ。剣一本分のオリハルコンを集めるには、気が遠くなる作業が必要だ。
俺は廃人プレイヤーとしてそれなりに名をはせていたが、結局、オリハルコンの剣を完成させられなかった。
おそらく全プレイヤーの中で、オリハルコン武器を持っているのは片手で数えられる程度だろう。
俺とニーニャは動揺しつつ、落ちてくる金属片をかき集めた。
鑑定の結果。どれもオリハルコンだ……心臓がバクバクする。
クラフトスキル発動。オリハルコンのインゴットを作成。
凄いぞ。混じり物のない純粋なオリハルコンのインゴットが三本もできてしまった。
こ、これで剣を三本作れる……。
「エ、エリオット様……腰が抜けてしまったので、おぶってくれると助かるのですが……」
「そんなこと言われても、インゴットを持っていかなきゃいけないし……俺はいっつもニーニャのせいでそうなってるんだから、たまには同じ思いを味わえばいいんだよ」
「イジワルです……けれどインゴットのためなら頑張れます……」
ニーニャは生まれたての子鹿みたいな足取りで俺の後ろをついてきた。
馬車の荷台に二人で転がり込み、オリハルコンを並べる。
「エリオット様、早く、早く」
メイド剣士が急かしてくる。
俺は深呼吸してから、クラフト能力を発動。
「できた……オリハルコンの剣だ!」
前世のゲームの中でさえ作れなかった。
それが現実に目の前に存在している。
「エリオット様。一本目は、エリオット様ご自身の剣にしてください」
「いいの?」
「はい。だって、こんなに目を輝かせたエリオット様から剣を取り上げるなんて鬼畜の所業、私にはできませんから」
すぐに二本目を作るから、どっちを俺のにしたって大差ない。
とはいえ、念願のオリハルコンの剣。これは俺の剣。そう思うと勝手に頬が緩む。
「えへへ」
「ニコニコしてるエリオット様が可愛すぎてしんどいです」
「えへへ。次はいよいよニーニャのを作るよ。クラフト!」
同じ形の剣が床に並ぶ。
見分けるために細部の色を少しだけ変えたけど、それ以外は全く同じだ。
その一本をニーニャが拾い上げ、そっと抱きしめた。
「そんなことしたら袖が斬れちゃうよ」
「大丈夫です。どう触れたら斬れるか斬れないか、心得ております。ああ、それにしても……」
「優れた剣士は、剣を持った瞬間に出来映えが分かるって聞くけど……その剣、感動するほどいいの?」
「はい。素晴らしい仕上がりです。私が二十年の生涯で見てきた剣で、間違いなく最上の一振りです。ですがそれ以上に、エリオット様とお揃いの剣というのが嬉しくて……これって実質、結婚指輪ですよね」
「違うよ。結婚してないし指輪でもないよ。剣は剣だよ」
「ええ、分かっています。さすがに冗談ですよ。最高の剣をありがとうございます。これなら、どんなに本気を出しても、刃こぼれも歪みも決してしないでしょう。一生、大切にします」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも……刃こぼれさせてもいいし、なんなら折ってもいい。この剣は今のニーニャの全力には耐えられるだろう。でも、ニーニャはもっと強くなると思う。いや、強くなって欲しい。ニーニャの剣技は、俺の憧れだから。俺がどんなに成長しても、それを上回っていて欲しいんだ。オリハルコンをへし折るくらい強くなって。何度折れても、俺がもっと強い剣を作るから」
「エリオット様……どうしてそう私が喜ぶようなことばかり言うのでしょうか。本当に罪作りな人です。ええ、はい。ご期待にそってみせましょう。私は強くなります。エリオット様は全力で追いかけてきてください」
「うん!」
さて。
剣が完成したら、次は試し斬りだ。
周りに丁度いいターゲットがなかった。
けれど平気。
ニーニャくらいになれば、虚空を斬ることができる。
「はっ!」
気合いの声と共に斬撃が――消えた!?
これまで幾度もニーニャの剣を見てきた。
辛うじて目で追えていた。
なのに今のは刃が消えたとしか思えなかった。
速いの
速度が上がれば当然、真空波の威力も上がる。
定規で線を引いたが如く、雪原に溝が掘られていく。
降り積もって氷のように硬くなった雪を砕きながら、真空波は威力を保ったまま突き進む。
何十メートル先まで届いたんだ……?
「自分で自分の斬撃に驚きました……」
「疑問なんだけど、俺の作った剣が凄くいいものだとして、それでなんで剣速がここまで上がるの……?」
「おそらく……今までは無意識に剣を労って、力をセーブしていたのかもしれません」
そんな馬鹿な。
俺は元王子だ。王宮を守る精鋭を何人も見てきた。
なのにニーニャ以上の達人を知らない。
剣士、という範疇で考えれば、ニーニャ以上は想像できない。
なのに力を抑えていたというのか……。
俺はついさっきニーニャを追いかけ続けると約束した。その約束、果たせるか心配になってきたぞ……。
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