第5話 入植者と合流した。村を作った

 氷魔の地。二日目。

 午後。周りを探索するため、俺とニーニャは屋敷の外に出た。

 なぜ午後になってしまったかというと、昨日、明るいうちから深夜までニーニャに滅茶苦茶されたせいで、俺の腰がずっと抜けたままだったのだ。今でも体がふわふわしている。


「ニーニャ! 昨日みたいなのはもう嫌だからね!」


「申しわけありません。なんとかエリオット様を精通させたかったのですが力及ばず……」


「頑張ったからって出るものじゃないから!」


「しかし考えみると、出したらそこで終わりですが、出せないからこそ無限にできるのです。このままというのもいいですね。エリオット様、成長を止める薬を作って飲んでください」


「やだよ! 昼間っから真顔で変なこと言わないでよ! もう二度とやらないって誓って!」


「……次は優しくしますから……それでも駄目ですか?」


 ニーニャは本当に悲しそうな顔で呟いた。

 ここまで弱った様子になったのは初めてかも……これじゃ強く言えないよ。


「優しくしてくれるなら……まあ……ちょっとくらいなら」


「ありがとうございます。エリオット様は本当にお優しいですね。ドチャシコでございます。ああ、ヨダレが……」


 本当に優しくしてくれるのかな。不安だ。これについては深く考えないようにしよう。

 俺は当初の予定通り、探索のため歩き出そうとした、そのとき。

 近づいてくる複数の気配を感じる。

 当然ニーニャは俺より先に気づいていて、一見ただ立っているように見えるが、いつでも応戦できるよう剣に意識を向けていた。


「な、なんだこの立派な屋敷は……数日空けただけなのに!」


 そして二十人ほどの団体が現れた。

 彼らの防寒具は使い古されている。

 昨日今日ここに来たのではないだろう。

 剣や弓で武装していて、狩人の集団といった印象だ。


「もしかして、氷魔の地の入植者?」


「そうだ。ここを開拓しろと送り込まれ、そのまま忘れ去られた入植者だ。国王の命令だから逃げることもできない。こんな寒い上に魔物だらけの土地、どう開拓しろってんだ……ところで、あんたらは?」


「俺はエリオット・レオンハート伯爵」


「私はエリオット様のメイドのニーニャ・ニールトンです」


 ここは先日まで国王直轄領だった。だが今はレオンハート伯爵領になった。

 エリオットは領主として開拓の指揮を執る。

 そう告げると、入植者たちは同情的な目を向けてきた。


「なにをやらかしたらその若さでこんなところに送り込まれるんだ? 貴族の世界も大変なんだな」


「やらかしたというか……王族と貴族は十歳の誕生日に固有スキルを調べるのは知ってる? それで判明したスキルがクソスキルだったから、父上に追放されたんだ。もう二度とアルカンシア王家を名乗ることは許さんと。レオンハート伯爵の名と領地をやるから出ていけと。そういう感じ」


「クソスキルだから子供をこんな北の果てに追放するとか最低な親だな! ……待てよ、アルカンシア王家? するとあんたは……いや、あなた様は王子だったのか」


「元王子ね。今は伯爵。あと、そこまでかしこまらなくてもいいよ。領主として出す命令には従ってもらうけど、必要以上にへりくだらなくていい」


「そっちがそう言うならそうするけど。にしても開拓するって、どこから手を付けるつもりだ? ご覧の通り、この辺は十二月になったらもう銀世界だ。四月になるまでこの調子。雪が溶けたって、土が痩せてるから作物はろくに育たない。狩猟でなんとか食いつないでいるのが現状だ」


「うん。とりあえず、みんなの状況を確認したいんだけど……あの辺にある小屋……まさかあれが家?」


「そうだ。あれが俺たちの家だ」


「……ここは一時的に休憩する場所とかじゃなく……住んでる?」


「おうよ。俺たちの町だぜ」


 町。

 男は自虐的に笑いながら言った。


「最初はちゃんとした家を建てようと頑張ったんだ。けど、すぐ魔物に壊される。だんだん面倒になってな。雨風さえしのげりゃいいって感じになっちまった」


「……寒くないの?」


「寒さに耐えられない奴らは死んじまったよ。入植した十年前は、この三倍はいたんだぜ」


「分かった。まずはみんなの家をなんとかしたい」


「なんとかって……どうするんだよ」


「答えは目の前にあるよ。この一夜にして現れた屋敷は、俺がスキルで作ったものだ。今からみんなの家を作る。ニーニャ、木材と石材の準備を頼む」


「かしこまりました」


 ニーニャは剣を抜き、とてつもない速度で木と岩を切り刻んだ。


「は、速ぇぇぇっ! 俺も腕には自信があるけど……あんた本当にメイドなのか!?」


「メイド剣士です。魔法剣士がいるのですからメイドと剣士を合わせてもよろしいでしょう」


「そういうもんか……?」


 入植者はいまいち納得していないというか、ニーニャの剣技を目の当たりにして現実感を喪失したという様子だ。


 そして俺が新しい家を出現させてみせると、白昼夢でも見ているようなポカンとした顔になった。


「おいおい、待てよ。あっという間に俺ら全員の家が建っちまったぞ。あの掘っ立て小屋と比べるのも馬鹿らしい。立派な家だ。なんでこれがクソスキル扱いされたんだ?」


 俺は自分の家の近くに、二十軒の家を並べた。

 まだ町というには小さいが、村くらいなら自称しても笑われないだろう。

 ゲームで拠点作りしていたのを思い出す。

 いい町を作ると、人口が増えて、住民が成長して強くなり、魔物や盗賊の襲撃があっても簡単に撃退できるようになる。

 それをリアルでやっている気分だ。


「父上は俺の話を聞こうともしなかったから」


「やれやれ。この国の未来は暗いな……」


 入植者たちは肩を落とす。


「この国などどうでもよろしいでしょう。アルカンシア王国がどうなろうと、レオンハート伯爵領は不滅です」


 ニーニャは言い切った。

 すると入植者たちは頷く。


「確かに、こんなスゲェ能力を持った領主様がいるなら、氷魔の地だって開拓できるかもしれねぇ。久しぶりにやる気がみなぎってきたぜ!」


 みんな疲れた顔だったのに、今は希望に満ちている。

 ゲームでは住民に笑顔のアイコンがつくと戦闘力が上がったり、畑の収穫量が増えたりしていたが、現実でもそうなるのだろうか。

 少なくとも、やる気がないよりあったほうが、何事も能動的に動けるだろう。

 この人たちがどんな風に活躍してくれるのか、今から楽しみだ。

 と、俺がゲーマーの気分に浸っていると、ニーニャが小声で耳打ちしてきた。


「なぜ彼らの家をこんな近くに作ったのですか? これでは夜の営みの声が聞こえてしまうかもしれませんよ?」


「控えて! エロゲじゃないんだから!」

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