第3話 領地に到着。とりあえず家を作ろう

 王都から馬車で五日。

 俺とニーニャは、氷魔の地に辿り着いた。


 完全に未開というイメージがあるけど、少しは入植者がいるはず。

 まずはその人たちと合流しようと思っていた。

 そして集落と思わしき場所を見つけた。

 ところが。


「建物はあるけど……誰もいないね」


「エリオット様。これはまともな建物と言えるのでしょうか? かき集めた木材で組んだ……よく言って小屋。悪く言えばただの箱でございます。これは集落ではなく、狩猟などを行う際に一時的に立ち寄るための場所なのでは?」


「確かに、ここに定住ってのは無理かも。すると入植者の集落はどこにあるんだろう」


「訪れる人がほとんどいないので、まともな地図がありませんし、ご覧の通り目印になりそうなものも皆無。探すのは至難の業かと」


 ニーニャが言うとおり、ここは非常に分かりにくい土地だ。

 街道も標識もない。

 そもそも地面が見えない。

 まだ十二月の上旬だというのに雪で覆われ、見渡す限りの白銀世界だ。

 針葉樹の林とか岩とかが雪原から顔を覗かせているけど、似たようなのがあちこちにあって、目印にするのは難しそうである。


「さすがにこんな寒いところじゃ、馬車で寝泊まりしたら凍え死ぬ。入植者の家に泊めてもらおうと思ったけど、日が暮れる前に見つけられるとは限らないし。あの小屋じゃ馬車と大差ない。こうなったら仕方ない――」


「引き返して、昨日の町にもう一泊しますか?」


「――家を作ろう」


「え!?」


 ニーニャは目を丸くして俺を見つめる。

 基本的に彼女は無表情。その表情筋が動くのは、心底驚いている証拠だ。


「エリオット様。確かにこの辺には針葉樹が生えているので木材は豊富です。そして私は体力には自信があります。しかし家を建てる技術がありません」


「やだなぁ。俺にはニーニャの剣を作ったクラフトスキルがあるじゃないか」


「剣と家では規模が違いすぎますが……本当に作れるのですか?」


「前世のゲームではできた。だから現実でも……できるのかなぁ? やってみよう」


「前世のゲーム?」


「それについては、あとで説明するよ。ところでニーニャ。あの大岩を切断して小さくできる?」


 俺は直径三メートルを超える岩を指さす。


「岩を斬るくらい造作もありません。エリオット様にもできるでしょう。毎日稽古してきたのですから」


「俺が? まあ、ニーニャが言うならそうなのかも」


 ニーニャの剣技は達人としか言いようがない。指導者としても信用できる。

 俺はゲームで魔法スキルばかり習得していた。剣士のスキルはない。

 が、彼女の指導のおかげで、ゲームスキルとは無関係に剣を扱えるようになった。

 ゲームはただの遊びで、そこから持ってきたスキルを現実で使うのは卑怯――と自虐するつもりはない。前世の俺は本気でゲームをプレイしていた。

 とはいえ、肉体を使って会得した技だって誇りに思っている。

 それを今から発揮するのだ。


 馬車から自分用の剣を取り出し、構え、大岩に振り下ろす。

 斬れた。ゲームスキルに頼らずに。感動だ。次いで横に薙ぐ。それを繰り返して岩をブロック状に細かくした。


「やった! 本当にできた! いつもニーニャが教えてくれるおかげだよ!」


「ありがとうございます。そう言っていただけるのは嬉しいです。けれどエリオット様ご自身の頑張りによるものです。十歳で岩を斬るなんて、やはり天才です。誇ってください。しかし……まだ改善の余地が沢山ありますね」


 ニーニャは俺の剣を指さす。

 刃こぼれだらけになっていた。

 岩を斬ったのだから、当然といえば当然。しかしニーニャなら、そこらの剣で同じことをしても、絶対に刃こぼれなんて起こさない。

 まして俺が作った剣なら尚更だ。


「エリオット様は、私を超える才能を持っています。すぐにこのくらいのことができるようになりますよ」


 そう言いながらニーニャは木の枝を拾い、振り抜いた。

 勢いに耐えられず、枝は砕け散る。

 破壊されたのは枝だけではない。

 目の前の針葉樹が、五本まとめて根元から切断され、音を立てて倒れた。

 なんの変哲もない枝を使って、真空波を起こしたのだ。


 落ちていた枝でさえ強力な武器になる。

 俺も本当にその域に至れるのか……いや、ニーニャが言っているんだ。努力を続ければできるはずだ。ここを開拓しながら剣の修行は続けるぞ。


「ニーニャの真空波のおかげで、木材が手に入った。これで家を作れるぞ」


 俺がプレイしていたゲームは、材料さえそろっていれば、メニュー画面から選択するだけでアイテムを作ることができた。

 強力な魔法効果を持つ剣も。家具付きの家も。

 転生後は現実世界でゲームのクラフトスキルを使えるようになった。


 ただし材料として使えるかどうかの判定は、結構厳しい。

 例えば木材は、生育している木をそのまま使うことはできない。こうして切断しないとクラフトに使えない。

 岩は大きな塊では駄目で、小さくする必要がある。

 金属は武器や防具として使われているのはNG。インゴットか、あるいは明らかに鉄クズに見える状態でなければならない。


 目の前に転がっている木と岩は、材料としての条件を満たしている。

 俺はそれらに意識を向けつつ、頭の中でメニュー画面を開き、家を選択。

 すると木材と石材が光になり、次の瞬間には二階建ての立派な家がそびえ立っていた。

 続いて厩を作る。ここまで俺たちを運んでくれた馬を、凍えさせるわけにはいかないからね。


「成功だ。ここまで大きいものを作るのが初めてで、ちょっと心配だったけど、上手くいってよかった」


「ほ、本当に家が……エリオット様、あなたは凄すぎます。これならあっという間に町を作れるではありませんか。エリオット様を追放だなんて、国王は馬鹿な選択をしたものですね。まあ、馬鹿だから仕方ないのでしょうけど」


「辛辣だね。でも結果的に、こうしてニーニャと二人で領地開発できるんだ。追放されてよかったと今は思ってるよ。父上に感謝なんてしてないけど」


「エリオット様。どうしてそう可愛らしいことを言うのです? 私がキュンキュンしすぎて死んだらどうするのです? 責任取れますか?」


「いや、そんな責任は取れないけど……」


「はあ……可愛さを振りまいて責任は取らないとか、とんでもないビッチショタですね。私がなんとかしないと」


「俺はむしろニーニャがとんでもないメイドだと思うよ」


 馬を厩に入れ、それから俺たちも家に入る。

 ゲームで見た内装とそっくりだ。


「こんな素敵な屋敷に、エリオット様と二人っきり……領地を発展させず、このまま二人だけで過ごすとうのはいかがでしょうか」


「いやぁ……ずっと二人だけというのは寂しいでしょ」


「そうですね。私たちの仲睦まじさを誰かに見せつけたほうが興奮しますからね」


「真顔でなに言ってるの。ニーニャがここまでヤベェ奴だって知らなかったよ」


「お褒めにあずかり光栄です」


「褒めてないから。むしろ貶してるから」


「それはそれで興奮します」


 マジでヤベェな。

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