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かつて、永遠の生を願った女がいた。もう、数百年も前の話だ。
その女はあるとき教会の噂を耳にした。女に迷いはなかった。すぐにその教会に行ってみようと思ったのだ。できることなら、不老不死の願いを叶えてはくれないだろうかという望みがあった。
教会に到着した日。台風が近づいていて、強風に大雨と散々な天気だったけれど、別の日に延期するわけでもなく激しい頭痛を我慢して、傘をさしてふらふらと教会へ向かった。
湿った服、薄暗い教会、雨の匂い。女には、その全てが幻想的だった。濡れた傘からぽたぽたと垂れた雨粒が赤い絨毯に染みていく。二つの大きなシャンデリアの先に、誰が描いたかもわからない絵画がある。女は正直その絵画の魅力はさっぱりわからなかったが、その正面に、それらしく跪いて両手を合わせる。
死に対する恐怖は、女に寝る暇も与えなかった。もし死を迎えたなら、ずっと深い闇の中にいるのではないか。死んだ後のことなんて誰にわかるはずもない。死んだ後のことは死んだ者にしかわからないはずだから。虫を一匹殺したくらいで地獄に落ちるなら人類はみんな地獄に落ちているだろうし、仏になったところで自我が保てているとも思えない。なにがともあれ、現在の自分自身は失われるのだ。女の心にはもう何ヵ月もの間、死ぬことへの不安が渦巻いて、寝つけなかった。
だがそれもこれで終いだ。不老不死の力を手に入れれば、寝るのだって怖くない。
どうか、どうか……。指に力がこもる。
刹那、ピカッと教会が照らされた。同時に重力で押しつぶされそうなほどの轟音が教会に響きわたった。
雷が、落ちた音だった。
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