細い艶のある黒髪が、海風でさらりとなびいている。地元の高校の制服を身にまとった少女のすらりと伸びた細い足がのぞく。少女は生まれ育った小さな田舎町の真ん中で山のほうをじっと眺めていた。まだ夏の暑さが残る日だった。腰を曲げた八十代くらいの風貌の老婆が近づいて、どこか呆れたような口調で少女に尋ねた。


「あんたは毎日あの教会を見てるのかい」


 少女は顔を動かさずに視界の端で老婆を捉える。何も言わずにただじっと老婆を見ていた。朝の七時をまわり、辺りは十分明るい。山の教会はくっきりと姿を現していた。


「あれを見ていると、そのうち呪われるよ」


 老婆は大きなため息をつく。老婆はこのような牽制を何度も行ってきた。

 あの教会の噂はこの町にとどまらず、県外でも有名だ。教会の噂を聞きつけて訪れる余所者も多く、この田舎町はまるでオカルト扱いだ。

 だが、少女は口を閉ざしたまま何の反応も示さない。老婆は腰に手を当てて、そのままくるりと踵を返した。少女は今にも転びそうな老婆の後ろ姿に目を取られていたものの、しばらくしてゆっくりと教会に視線を戻した。

 八時前、少女は教会を眺めるのをやめて、学校へ向かった。

  

 教会の噂――。数世紀昔からある迷信のようなものだ。教会の中ではごく稀に、結婚式が行われる。教会の鐘は午前六時と午後六時に鳴る。この教会は、不老不死の教会として知られており、教会の鐘が鳴ったとき、礼拝堂の絵画を前に強く祈りをささげると、不老不死になるという噂だ。ただ、どうやら条件があるようで、ただ祈るだけではその力を得られないだの、また、おいそれと多くの人が不老不死になったら町が大変なことになる、という人もいれば、そもそも神に祈ったところで人間の生死に影響するわけないとさっぱりしている人もいて、様々な憶測が飛び交っている。

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