第5話
「……☆……▽▲……?……」
なんだろう、音?声?
気が付いたら、目もあけられないくらいだるくて、良く判らないが……何だかとても暖かくて、ふわふわした何かに囲まれて?包まれて?いる……らしい。
「……△……あ、起きたな?」
謎の声が明確な、俺に理解できる言葉をしゃべった。なるほどさっきの声は俺たちと違う言葉を喋っていたのか、俺が寝ぼけていて聞けてなかったのかどっちかだな?
起きている、と意思表示したかったが、声を出すどころか瞼も開かないだるさ。なんだこれ。
「ああ、無理して動こうとしなくていいぞ、お前***にやられて、死にかけていたからな。もう少し寝ていろ、それで『落ち着く』だろうから」
おちつく?あとその途中に挟まった謎の音はなんだ?
いったいなにが、と思ったのもつかの間、結局また意識は途切れた。
妹の夢を見た。
いつも通りにこにこ笑いながら婆様の身の回りの世話をしたり、煮炊きの手伝いをしたり、子羊の世話を手伝ったりしている、俺とおなじ平凡な茶髪茶目で、正直世間様からみた器量は微妙だろうけど、明るくて元気な、かわいい俺の妹。
ああ、あれから何日経ったのだっけ、そういえば、飢えに襲われるよりちょっと前くらいから日を数えるのを忘れていたような気がする。
眠りの病に罹ったものはカミサマだかセイレイだかの庇護を同時に受けるといわれてるから、なにかしらの無体な目に合ってることだけはないはずだが。
そう思ったところで、今度はぱちりと目が覚めた。俺は寝起きは悪いほうではないが、それにしたって突然が過ぎるし……
あれ、ここどこだ。見たことがない天井が見えるんだが。
どうやら、俺はぶっ倒れたあと誰かに拾われて、どこぞの家の中に寝かされているらしい。木を組み合わせて作られた天井と、白っぽい土塗りの壁が見えた。
少し離れた場所に窓があって、光の感じがどうやら朝方、いやこれ夕方っぽいな?今の方向が微妙に判らないから断言できないけど。
……いやまてあの空腹感はどこにいった。俺、さっきまで意識がなかったんだから当然何も食べてないままだよな?
首を傾げつつも、とりあえず体を起こしてみる。すると、特に脱力感もなく、すんなりと寝ていた場所から起き上がれた。
なんか昔どこかの街で売ってるのを見たことのある夜着とやらに近い、それよりずっと清潔そうな服、というか紐止めで着つける布?を一枚着せられて、柔らかくないがこれも清潔そうな布で覆われた、寝台らしきものに寝かされていたようだ。こんな白い布ってあるんだなあ、初めて見た。
それと起きた俺からずり落ちたらしき……これは知ってる、たぶん羊の毛でつくった毛布だな。婆様でもこんな手触りのいいやつ使っちゃいなかったが。
「おや、もう起きているか。どこか具合の悪いところ、違和感のあるところはないかね?ああ、君の服と荷物は洗浄して壁側のクロゼットに入れてあるよ」
突然、そんな声をかけられたので、とりあえず声の主を見る。
扉のついた入り口から、背の高い、いやに綺麗な男が半身を隠すようにして覗き込んでいる。華やかな、実りの時期の小麦のような色の、まっすぐな長い髪が目を惹く。
この男が俺を拾って、助けてくれたということでよさそうだろうか。
でも、足音とか扉の開いた音とか、まったく聞いた覚えがないんだが、いつからいたんだろう?
不具合の有無を尋ねられたので、軽く手足や首を曲げてみたり、伸ばしてみたり……うん、動きそのものに違和感はないし、ちゃんと俺の思うように動いてるな。
「特になにもない、と言いたいところだが……」
「む、どうした?ああ、寒いようなら部屋の温度を上げるが」
部屋に入りながら男が軽く眉を寄せ、心配そうにこちらを見る。
「いや、俺、空腹で倒れた覚えがあるんだけど、今腹減ってないなって……たぶんだけど、それなりの時間寝ていたんだろう?」
なんだか不思議な――見た目と雰囲気が微妙に合わない人だなあと思いながら返事をする。
動きに微塵の隙もないよこの人。そんでもって足音どころか衣擦れの音も聞こえないよこの人。まさか俺の耳がアホになってんのかね?
いや、体にきっちり合わせられた、見たこともない意匠の服を着てるから、音がしないのはそのせいかもしれないけど。
俺の答えを聞いた男は、ほう、と感心するような顔になった。
「ああ、治療の時の措置でいろいろとね。西のほうから来たならそういう『技術』は知らないかー」
西のほうからといわれて一瞬違和感があったが、そういや俺は自分たちの居住地から東に向かってたんだから、この土地の人からすれば西から来た人でいいんだっけな。
東の森ギリギリに住んでるのは俺のいた集落くらいだったから、西の人=他所の人って認識だったからね。
ああそうだ、集落に住み始めた最初の頃以来なんじゃないか、西の人って言われたの。
ってそんなことはどうでもいい。技術?
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