episode18
ぼくが此処に来る前から、彼女は複数の芸術家から才能を評価されていたらしく、様々な賞の受賞、大会への出展などを経験していた。
彼女の作品に惹かれたぼくは、彼女の創作活動に対して全面的にサポートをすることを決めた。勿論、彼女のみ特別扱いはしない。けれど、彼女が望むイベントやプロジェクトの情報の共有などは積極的に行った。
一昔前のぼくだったら、こんな事はしなかっただろう。自分の絵を追求することに必死で、他人の、ましてや小学生の絵に執心なんてしていなかったはずだ。他人の才能に目を向ける余裕がすべて失われていたのだから。
彼女の成長は、ぼくの指導と彼女自身の努力で、目覚ましいものになった。きっと、世界の芸術家の全員が、彼女をどこに出しても恥ずかしくないと思えるほどに。
出会ってから一年が経過し、中等部一年に進学した彼女と、二十八歳になったぼくは、それなりによい関係性を築けていると思う。他の生徒からは相変わらず怖がられているが、それはもう生来の物なので諦めた。
常に人に囲まれており、彼女もその中で笑っている。初めて会ったときは無表情が基本で、寧ろ冷たい印象さえ覚えたが、絵を描くときだけはああなるらしく、普段は常に笑顔を絶やさない少女だった。逆に年中無表情なのは、彼女の幼なじみである
ともかく、ぼくはその一年間、ずっと彼女の絵を見続けた。彼女の持つ温かさが、ぼくは何よりも好きだと思った。
彼女の描く季節の絵は、なぜかいつも、冬ばかりだった。
○○○○○○○○○○○○○
携帯電話の通知が鳴った。小刻みに震える電話に、一瞬だけ触るのを躊躇する。
……母親か?
意を決して、電話を掴む。液晶に見えた文字は、母ではなかった。
でも、それと同じくらい、来ないでほしいと願った名前だった。
「……
どうして、二年弱も経過した今のタイミングで?忘れてほしいと願っていたのに。彼女はぼくを、忘れているものだとばかり思っていたのに。
躊躇った末に、メールを開く。選択を迫られるような緊迫感を感じたからだった。
『お久しぶりです。元気ですか?話を聞いているかもしれないけど、
……血の気が引く、とは、このような状況を指すのだろうか。体が一気に冷たくなって、動かすと、それは他人の身体とさえ思えてくる。
なぜ、ぼくの知らない情報を、亜崎と無関係だった筈の彼女が知っているのか。なぜ、亜崎が倒れたのか。
疑問点は幾つも浮上したけれど、それに構う余裕など、ない気がした。
あのときと、あの破滅の絵を描いてしまったときと同じ季節に、ぼくはその報せを受け取った。
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