頭部破損殺害事件の住居へ。
富岡がさっそく、データを使って絞り込んだ容疑者のリストの中から、ペットショップで動物を購入した者がいるか経歴を漁っていった。犯人の次のターゲットが出るまでのタイムリミットがあるので、富岡は不眠不休だった。
朝になる頃には、富岡は一人の容疑者に辿り着いた。
「おう、よく頑張ったな。不眠不休だろ、嫁と娘さんの処に帰ってやれ」
崎原は資料を見ながら同僚を激励する。
「……はい。生輪さんのお友達の証言は刑事課に回せませんから……。後は僕達で犯人の家に捜査令状を持っていくだけですね」
富岡はかなりぐったりした顔をしていた。
「ああ。令谷と生輪が向かっている。場所は山の付近の別荘なんだそうだ。二人に任せたら、大丈夫だろ」
崎原は重々しく、椅子に座る。
そいて顎の無精ひげをゴリゴリ、と撫でる。
「しかし、刑事課連中は、ホント、俺達側で得た情報を聞き入れないなあ。まあホシの証拠を脚で探すってのは、そうなんだろうが。それで事件の解決が遅れて、犠牲者が増えている事が多いから、どうしようもないな」
崎原は天井を見上げながら、大欠伸をする。
「どうしようもないですよ。日本の警察は、超常現象的な力の持ち主や、普通の人間では辿り着けない推理を行う者の存在を認めたくないですから」
そう言うと、富岡も大欠伸をして仮眠を取る。
†
最初の犠牲者の死体に転がっていた鴉を購入した経歴は見つからなかった。そもそも日本で鴉を売っているペットショップは少ない。だから野生のものを捕らえたのだろう。
次のネズミの方もだ。普通のドブネズミの類だ。
三人目の蝙蝠の方も同じだった。
だが、四人目の犠牲者で、自己顕示欲を満たす為に置いた蛇の死体で足が付いた。蛇を捕獲するのを面倒臭がったのか、ペットショップで入手するという軽率な行動に出た為にボロが出た。犯罪者は犯行を繰り返す度に、犯行における証拠隠滅や想定外のトラブルに対して杜撰になっていく。
季節は冬だ。
なので、朝でも暗い。
もうすぐ、朝日が昇るだろう。
朝日が充分に昇る頃には、決着を付けるつもりでいた。
犯人は成金の四十代半ばの男で、建設業の事業が赤字で零落して、以前住んでいたタワーマンションを売り払って、今は別荘にしていた屋敷に住んでいる。違法建築の疑いで、客からのクレームが多発していたらしい。
屋敷の周りには、草花が咲いていた。他にも多くの金持ちがこの辺りに土地や別荘を持っているのだろう。
犯人の家と思わしき、赤茶色い木の壁が綺麗な別荘の前に辿り着く。オランダなどの国の住居を模した山小屋のイメージのような別荘だった。
生輪は指先で印を結び、何らかの呪文のようなものを唱えた。
すると、生輪の前に海蛇のような生き物が現れて、とぐろを巻くように生輪を中心に宙に浮かんでいた。ウツボだ。コブラのように、頭の周りが肥大化している。
「さてと。俺の式神『膿疽(のうそ)』によって中を探索させてみる」
生輪は御札のようなものを持っていた。
そして、札をゆらゆらと動かす。
隣では、ハンドガンを構えた令谷が待機していた。
ウツボは屋敷内を探索する。
そして、しばらくして、一通り情報を調べたのかウツボは生輪の下に戻ってきた。
「大量にトラップが仕掛けられているな。建設業か何かを営んでいたのか? 設計技師か何かもしていたのか? 入口に侵入者を殺す装置が幾つも仕掛けられている」
「つまり。中って」
令谷は訊ねる。
「ああ。トラップ・ハウスになっている。安易に入れば、串刺しになったり、身体をバラバラにされるな。こんな技術を持っていて、こんな労力に使う無駄なモチベーションがあれば、頑張って事業を立て直す事も出来ただろうに」
生輪はそう言うと、玄関の扉を開いた。
鍵は掛かってなく、すんなりと開いた。
「おい。言い逃れ出来ねぇぞ。捜査令状を持ってきたっ!」
令谷は、生輪の指示に従いながら、家の中へと入ろうとする。扉をくぐろうとすると、ギロチンのように刃が落ちてくる。それを見て、令谷は失笑する。もう犯人は言い逃れをするつもりは無いらしい。
「このまま立てこもるつもりか?」
「屋根から入ります? 上からの襲撃には弱いかも」
「そうするか。お前の提案の通り、玄関からは罠が仕掛けられているが、上からの警備が手薄だ。三階の天窓がよさそうだ」
生輪はウツボの頭に乗りながら、天窓を目指す。令谷は跳躍して、家の壁のとっかかりや排水管などを利用して、屋根の上へと登った。
犯人は、三階のソファーの上で、ゆったりとした服装で、くつろいでいた。
窓を割って降りてくる二人の侵入を見て、たじろぐ。
「おい。お前らはなんだ? 不法侵入だぞっ! 警察を呼ぶぞ!」
男は叫び出す。
「玄関にギロチンを作っておいて、よく言うぜ。ほら、捜査令状と警察手帳だ。俺達が、その警察なんだよ」
令谷は呆れたように言う。
生輪の方は、別の部屋に向かっていた。
「おい。言い逃れ出来ないぜ。壁にお前が殺した四人の顔の皮膚が貼られている。やっぱ、戦利品として持ち帰ったんだな」
生輪は淡々と言う。
そして、床のくぼんでいる場所を踏む。
すると、天井から大きな斧のようなものが振り子のようになって、ぐるぐると、部屋を行き来していた。
「この部屋に近付いた奴は、身体が切断されるように罠を貼っているのか。お前の外出時に、家を調べられた時に始末する為か? 言い逃れ出来ない材料ばかりだな」
生輪は淡々と言う。
「…………。言い逃れするつもりは無い。貴様ら、殺してやる。俺は大人しく捕まらないぞ…………」
犯人の男はそう言うと、両腕を広げる。
すると、辺りにあった家具。ベッド、タンスの類が浮き上がる。
やはり、異能力を使って、連続殺人を行っている。
標的を念動力で動かし、高い場所から転落死させていたのだろう。
令谷の身体が浮き上がる、令谷は逆さまになって受かんでいく。
「このまま、空高くまで放り投げて、突き落としてやるっ!」
男は叫んでいた。
二人が入り込んだ開かれた天窓があった。
「だが。その前に、お前は徹底的になぶってやるからなっ!」
男は加虐的な笑みを浮かべていた。
家具だけでなく、何処からか現れた無数の刃物やガラス片、他、凶器の類が令谷の周りを羽虫のように舞っていた。多種多様な行為で、令谷を始末しようと考えているみたいだった。次々に、刃物やガラス片などが令谷の身体へと向かっていき、令谷の身体に命中していく。令谷は身体をひねって、重症を裂ける。
だが、令谷の身体の所々は確実に出血していた。
空中から、令谷の血痕が滴り落ちる。
令谷は逆さまになりながらも、無感情そのものといった口元に、憎しみに満ち満ちた眼で、冷静に背中に背負っていたショットガンを手にする。
「俺の使う銃器は、お前ら化け物を殺す。“銀の弾丸”になる。お前ら連続殺人犯、異能殺人犯に撃ち込む時に、普通の人間に撃ち込むよりも、各段に威力が上がるんだ。俺はそういう力を持っている」
令谷は淡々と言いながら、ショットガンの引き金を引いた。
勝負は一瞬で付いていた。
弾丸は、犯人の男の胸元と腹を爆破するようにくり貫き、男を絶命させていた。
男が念動力によって動かした家具は、すぐに地面に落ち、令谷も地面へと落下する。
「クソ野郎にふさわしい最期だったな」
令谷はそう言いながら、崎原に事が片付いた事を電話で伝える。
†
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