15 魔王として
見覚えのある、ギルドの剣士が前にいた兵士に近づいていた。
「ヴィル? よく見れば、落ちこぼれのヴィルじゃないか」
「・・・・し・・知り合いか?」
ハハっ・・と鼻で笑っていた。
「魔王とか言ってるけど、元々うちのギルドにいたんですよ。転職を繰り返しても何もできない足手まといで有名で・・・」
白馬に乗った兵士に話しかけていた。
「ギルドのみんな! こいつ、ヴィルだぞ。オーディンの息子のくせに弱くて有名な!」
突然、後ろに向かって叫ぶ。
周囲がざわついていた。
「何?」
「どうゆうことだ?」
俺の顔を遠目で確認しようとしていた。
「はは・・本当だ、ヴィルだ。確かにヴィルだぞ」
一人が声を上げる。
「本当だ・・・見たことのある。ヴィルだ」
「嘘だろ? 急にいなくなったと思えば、魔族になったのかよ」
「・・・よく見るとガキじゃねぇか。弱々しいくせに魔王だ?」
ざわめきが大きくなっていく。
「何? あの何やってもできないって有名なヴィルだって? 変な夢だろ」
大剣を背負った人間が、腹を抱えて笑っていた。
「俺のギルドで見たことあるよ。C級クエストもろくにこなせない足手まといって、受付の子も悩んでたよ」
「私のギルドもよ。魔導士だったけど後輩の邪魔ばかりして・・・」
「俺はS級以上のクエストしかやらないから、雑魚と関わったことないけどな」
わらわらと隠れていた剣士や魔導士、武道家、賢者が出てきた。
バフを無効化された焦りは消えていき、ところどころ笑い声交じりになっていた。
「何をやってもダメ・・・で? 魔族に転職したのか?」
「うわ・・・どうしようもねぇな。ま、俺のギルドに来られるよりはマシか」
「本当だな。俺のところも、マジで勘弁だわ」
小ばかにしたような笑い声が聞こえてくる。
「ははははは、こんな奴が魔王だって。魔族も終わったな!」
「魔王ヴィルか・・・帰ったら、酒のつまみにしてやる」
「・・・・・・・・・・・・」
人間たちの恐怖は、俺を嘲る声とともに消えていくようだった。
心底、馬鹿な奴らだな。
「さっきは驚いたけど、どうせまぐれだろ?」
「お前がバフの無効化なんて使えるはずないもんな」
「あぁ、二度も奇跡は起こらないだろ」
直近のギルドにいた奴が堂々と歩いてきた。
続くようにして、どこか見覚えのある顔が草むらから出てくる。
「どうせ、その調子だと魔族としてもどうしようもないんだろ?」
「・・・・・・・・」
こいつは、そばかすの多い、酒場で自慢していたSS級の剣士だったな。
甲冑を着た剣士が周囲に向かって、叫ぶ。
「おし、こいつは元居たギルドの奴だ。俺らで討伐しようぜ」
「おうよ」
「城の兵士よ、ここは俺たちに任せてください」
荒々しく士気を高めていた。
「待て・・・まだ・・・」
兵士の制止を振り切って、剣や杖を掲げて近づいてきた。
魔導士が詠唱を始めている。
まぁ、どうでもいいけどな。
「・・・・魔王ヴィル様・・・・・」
ジャヒーが片足を付いたまま、こちらを見上げる。
左手をかざした。
― 毒薔薇の蔦(フリーズ)―
ドドドドドドド ドドドドドドド ドドドドドドドドドドドドドド
「なっ・・・・・・!?」
地面からいばらの蔦が出てきて、人間全員の体を縛り上げた。
「うわっ」
「何これ・・・」
地面から毒薔薇の蔦を出して、人間を縛り上げる。
ごちゃごちゃ詠唱していたが、誰一人として、回避できた者はいない。
うわああああああああああああ
悲鳴が上がる。
手のひらを上に向けた。
「な・・・なんだこれは・・・」
「毒の蔦だ。しばらくすると体力がなくなり、一斉に倒れるだろう。もがけばもがくほどきつく締まる」
兵士の馬を睨みつける。
何も抵抗できずに、ただ力を吸われているだけだった。
「うわっ・・わああああああ」
バタン
「くっ・・・」
逃げようとする者に、蔦を足に絡ませて転ばせる。
地面に固定して、どんどん体力を奪っていった。
手を握り締める。
「ああ・・・・力が・・・・抜けて・・・」
「な・・・何が起こっ・・・・・」
後方にいた人間たちから、蔦に絡まったままバタバタと気を失っていった。
「ジャヒーはここで待ってろ」
「・・・・・はい」
ジャヒーから離れて、人間に近づいていく。
「お、俺はまだ動けるぞ!」
「俺もだ!」
前方にいた人間は、あえて強度を緩めていた。
自分で直接手を下すためだ。
「くそっ・・・あのヴィルなんかに、俺たちが負けるわけない」
「こんなの・・・切って・・・・」
「顔を見せろ」
「!?」
蔦を使って、無理やり顔を上げさせる。
「ふうん・・・・・」
笑いが漏れた。
「な、何がおかしい?」
「こんな状況になっても、自分の立場が分かってないとはな」
「なんだと?」
「お前の顔、よく覚えている。人を馬鹿にするのが好きだったな」
「・・・・・・・・・・・」
SS級クラスのクエストをこなせる中でも若手のエース。
生意気で、ことあるごとに、俺の名前を笑い話に盛り込んでいた。
勇者オーディンは欠陥のある息子を作った、と。
酒場での笑い声が、頭に響く。
「!!!」
「状況判断できない奴は、ギルドの足手まといじゃなかったのか?」
「っ・・・・・」
前に出てきた10人は・・・やっぱりよく見た顔だった。
S級クラスのギルドの奴らだ。
いつも、クエストで好成績を残して自慢してたっけ。
俺を馬鹿にしながら、な。
「こんなもの・・いつもSS級のクエストをこなしてきた俺らなら」
「マギル、無効化できないのか?」
― 魔王の剣(デスソード)―
指で線を描き、黒い剣を出現させる。
握り締めると、紫色の炎が剣の刃に絡み付いた。
蔦を切ろうともがいている、ギルドで見かけた連中の前に立つ。
「落ちこぼれのヴィルのくせに・・・・」
こちらを睨みつけてくる。
「お前らまだ今の状況がわかっていないのか? まぁ、どうせ全員ここで死ぬんだからどうでもいいけどな」
「・・・・お・・・お前・・・」
「俺にはSS級クラスだろうがC級クラスだろうが何も関係ない。魔王だからだ」
地面を蹴る。
砂埃が立った。
ザッ
素早く剣を伸ばして、十字に切る。
「っ・・・・・・・・・・」
バサバサッバサバサー
10人が一斉に倒れていった。
呼吸はない。心臓の根も止まってる。
「うわあああああああ」
一部始終を見ていた兵士が震えていた。
もがきながら蔦を切って逃げ出そうとする兵士の前に降り立つ。
キィンッ
剣を突きつけた。
「あああああ。死にたくな・・・」
「ギルドの奴に伝えておけ。俺は魔王ヴィルだ。魔族に危害を加える者には容赦しない」
がくがくしながら、這って逃げようとしていた。
「殺したのは、こいつら10人だけだ。死体は持っていけ。邪魔だ」
「うぅ・・・・・・」
遺体を指す。
こいつは、A級か。
「後ろの奴らは気を失ってるだけだ。焼き殺してもいいんだけど、ここは魔族のダンジョン周辺、あまり多くの死体があると迷惑なんだ」
「ああ・・・ああ・・・・・・」
「体力も魔力も吸い取っている。0.01%を残してな。今すぐ行け」
剣を地面に突き刺すと、兵士たちが声にならない悲鳴を上げながら逃げていった。
毒薔薇の蔦(フリーズ)を解除する。
ドサッ
人間たちが体を引きずるようにして逃げていった。
意識はほとんどなく、木々にぶつかって、石に躓き、転びながら掃けていく。
「フン、お前らの死体を持っていく仲間はいないようだな。哀れな奴らだ」
ギルドの奴らに向かって話しかける。
10人全員が、目を見開いたまま、土まみれになって動かなかった。
S級クラス人間だけがもらえる称号が、甲冑に付いている。
俺を嘲笑ってきた奴らの、ほんの一部だけどな。
マントを翻して、ジャヒーのほうへ近づいていく。
「大丈夫か? ジャヒー」
「ま・・・魔王ヴィル様・・・・ゔっ・・・・・」
気が抜けたのか、腹を押さえて、その場に倒れていた。
「ジャヒー様・・・・」
「お前が一番重症なようだな。回復するまで、魔王城へ連れて行くとしよう」
「ありがとうございます・・・」
擦り切れた服を押さえていた。
「ま・・・魔王ヴィル様・・・申し訳ございません」
「いや、お前はよくやった。飛べるか?」
「はっ・・・・うっ・・・・」
翼がボロボロで、うまく開かないようだった。
― 肉体回復(ヒール)―
回復魔法を皮膚に充てて、ジャヒーを抱きかかえる。
「簡易的な回復魔法だ」
「ま・・ヴィル様・・・・」
「ジャヒーはあまり話すな」
ジャヒーが瞼を細く開いて、こちらを見ていた。
「他の魔族は自己治癒力があると聞いている。問題ないな?」
「はい、問題ございません。その死体の処理も行いますので・・・・」
怪我を負った魔族たちが出てくる。
「あ・・・ありがとうございます。魔王ヴィル様」
「本当に、本当にありがとうございます」
隠れていた魔族たちが、頭を地面にくっつけていた。
「気にするな。魔族の王が、魔族を守るのは当然だ。じゃあ、魔王城に戻るぞ」
「・・・・・・・・・」
ジャヒーは腕の中で気を失っていた。
息が浅いジャヒーを抱えて飛び上がる。
魔王城のある方角へ向かった。
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