12 奴隷の首輪
「ププ、ウル、まずは魔王城付近のダンジョンから取り返しておこうと思うんだが、ここから近いところとなるとどこになる?」
「そうですね。ここからだと、この二つのダンジョンのあるところはどうでしょうか?」
ププが地図に書かれたダンジョンの一つを指す。
ここから1km圏内か。
「二つのダンジョンってどうゆうことなんだ?」
「入口が一つで、最下層は2つ。ダンジョンの精霊が双子らしいです」
「もともと、吸血鬼族とドラゴン系の魔族が守ってたんですけど、人間どもに倒された後、召喚獣を封印されたんです」
「封印? じゃあ、このダンジョンのどこかにいるのか?」
「ダンジョンの最下層に封印されたという情報です」
「そうか」
拷問など、掛けられていなければいいけどな。
「・・・・・・・・・」
アイリスが離れたところで、聞いていた。
「次のダンジョンはここにしよう。ププウル、ありがとう。このままダンジョンの確認を続けてくれ」
「かしこまりました」
「下がっていいぞ。ありがとうな」
「失礼いたします」
手早く地図をたたんで、部屋を出て行った。
ププウルは優秀だな。
ダンジョンの調査だけではなく、自分の部下に対しても的確な指示をしていた。
「魔王ヴィル様にお礼を言われちゃった」
「ププだけに言ったんじゃないもん。魔王ヴィル様は私に・・・」
廊下に出ると、二人のはしゃぐような声が聞こえてきた。
「聞いてたか? 明日になったら、ダンジョンに行くぞ」
「・・・・・・・・」
アイリスがその場に座って、ぼうっとしていた。
「・・・・さっきの封印の話か。しょうがないだろ? ここは魔族の城なんだから、魔族側の声が大きく聞こえる」
「人間たちは魔族にひどいことをしてるの?」
「まぁ、どっちもどっちだと思うけどな。あまり深く考えるな、キリがないぞ」
「・・・・・・・」
立ち上がって、窓の外を眺めていた。
いつも見かける姿だな。
「そういや、また城に戻りたいとか思わないのか?」
「・・・・え?」
「だって、窓をよく見てるだろ? ホームシックにでもなったのかって」
「違うよ。窓を見る癖が付いてるだけ。城にいる間もずっと、窓を見るのが好きだったから」
解いた髪が、風に揺れていた。
「城にいたほうが色々と世話してもらえるし、楽じゃないのか?」
「私はここで、魔王ヴィル様と色々冒険したほうが楽しい。こうやって、色んなことを知っていくの」
「ふうん」
アイリスが窓を閉めながら、微笑んだ。
「あのままずっと城にいるなんて考えられなかった。どこに行くにも許可が必要だし」
「王女ってのも大変そうだな」
「そう。大変なの。人でも、人間はみんな大変」
「・・・・・・・?」
ソファーに座って、コーヒーを飲む。
「アリエル王国は隣国のサンフォルン王国と同盟を結ぼうとしてる。領土の安定のためって・・・表向きはね。本当のことは教えてもらえないけど」
「へぇ・・・アリエル王国がねぇ」
「・・・・・・・」
アークエル地方の者同士が争うことは少ない。
魔族という共通の敵がいるため、互いの戦力を把握しながら協力体制を築いていた。
城の中がどうなっているかは、末端の市民が知るわけないな。
「国民にもまだ知らせていない。後々に、妹のピュイアがサンフォルン王国に行くことになっていた。政略結婚だったんだけどね、私の場合、少し複雑で・・・」
「ん?」
アイリスが俯く。
「私は、なんだろうって。小さい頃はあったはずだけど、でも、記憶が薄くて・・・何か、重要なことが欠けてしまって・・・」
「なんで泣いてるんだ?」
「あれ・・・・」
アイリスが自分の涙を見て、驚いていた。
「涙? 私が涙・・・・?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
記憶喪失か、何かなのかもな。
「そうやって、また、泣かれると面倒だからな・・ちょっと待ってろ」
「え・・・・・?」
立ち上がって、棚のほうに歩いていく。
ガラクタの中から、ルビーと鎖とドラゴンの鱗を取り出す。
両手で握り締めて集中していた。
― 魔具錬金生成(バラス)―
ルビーの埋め込まれたネックレスを生成した。
「はい、これ、やるよ」
「これは?」
アイリスの手にネックレスを渡す。
「攻撃を受けたとき、1度だけシールドを張り、無効にするものだ。2度目は効かないから気を付けろよ」
「あ・・・ありがとう。どうして急に?」
「魔王の奴隷の首輪だ。絶対外すなよ」
「・・・・・・・・」
じっと、手のひらを見つめていた。
ルビーの部分は、赤い木の実のような色になっていた。
「今のお前は王女じゃない。魔王の奴隷だ」
「・・・・うん。ありがとう、魔王ヴィル様」
嬉しそうにしながら、付けていた。
奴隷って言われて笑顔になるのも、変な話だけどな。
「似合う?」
「さぁ? いいんじゃない?」
ソファーに戻って、コーヒーを飲み干す。
「ふぅ・・・安心したら眠くなってきちゃった」
アイリスが少し離れた大きめのソファーに座る。
「明日は早い。俺も寝よう」
スッ・・・
指を向けて、天井付近にある明りを消していく。
窓の外の木々が風で大きく揺れていた。
「魔王ヴィル様」
「なんだ?」
「錬金もできるの、すごいね」
「まぁ、魔王だからな」
機嫌よく、鼻歌交じりに話しかけてきた。
「ありがとう。明日のクエストも頑張ろうね」
「・・・そうだな・・・・・」
動物の毛皮の毛布を被って、目を閉じる。
「魔王ヴィル様、起きて、朝だよ」
「あ・・・」
眩しくて、目を片方ずつ開ける。
カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいた。
「早くいきましょ。次のダンジョン」
アイリスがカーテンをまとめている。
髪を高く結んで、気合が入っているのが目に見えてわかった。
「ふぁーあ、っと、じゃあ、行きましょうか」
マントを羽織る。
勢いよくドアを開けると、埃で軽く咽た。
「魔王の間には寄っていかなくていいの? カマエルたちが待ってるかもしれないけど」
「魔族は夜行性だ。朝一はちょうど眠りにつく頃だろう」
アイリスを抱えて、窓から出て行く。
「ん? 重くなったか?」
「なってない、と思う。標準体重維持」
アイリスがじっとこちらを見る。
「・・・・でも、確かにここ最近、肉料理ばかり食べてたから・・・消化速度が追い付いてないかも」
「あぁ、魔族は肉が主食だもんな」
「うんうん」
料理が得意な魔族が、城でのご飯を用意していた。
野菜が出てきたことはほとんどない・・・スープに玉ねぎが入っていたくらいだ。
「今度、私が作ろうかな?」
「料理できるのか?」
「一応、人並みにはできるよ。レシピ検索なら任せて」
「よくわからない言葉を使うな。王国の教育か?」
回復魔法を使えるようになってくれたほうがありがたいんだけどな。
まぁ、今度作らせてみるか。
「ダンジョンまでどれくらいなの?」
「そこの森を抜けたあたりだな。遠くはないんだ。確か地図では、川沿いにあったから・・・・」
低空飛行をしながら、ダンジョンの場所を探していた。
「あ、そこだな」
崖のような場所に、一か所だけ模様の付いた白い岩があった。
石を避けて着地する。
近くまで、川の水がさらさらと流れていた。
「足場が悪い、気を付けろよ」
「うん」
アイリスを下ろすと、真っ先に走っていった。
「ここはどうやって開けるのかな?」
「前みたいに力づくで開くんじゃないのか? ・・・・と」
引っ張っても、押してもびくともしない。
「全く開きそうもない・・・・」
『誰だ? 許可なくこのダンジョンの扉を開けようとするものは・・・』
突然、白い岩から手のりサイズの精霊が二人出てきた。
そっくりだ。
双子か、言ってた通りだな。
「え? 精霊様?」
精霊が、舐めるようにこちらを見てくる。
『魔族と人間がどうして?』
「まぁ、いろいろあって二人で行動してる。このダンジョンに入れてほしいんだが」
『見たところ、相当魔力が高い、な』
『クエストに挑めそうだ』
「魔王だからな」
精霊がはっとして、ひそひそ何かを話していた。
『魔王がダンジョンに人間と来るなんて、どうゆうことだ?』
『それはお忍び旅行的なものだろう』
『そんなん追い返すしか・・・』
小声のつもりだろうが、丸聞こえだった。
「ここはもともと魔族のダンジョンだ。人間の物になったが取り返したくてここに来ている」
「私、ダンジョンの精霊シブヤ様の要求は叶えることができましたよ。異世界の宝を持ってきました」
『!?』
アイリスの言葉に、ダンジョンの精霊の態度が急変した。
『なんと? 今、異世界と・・・』
『異世界に行ってきたのか?』
「まぁ・・・」
精霊たちの表情が明らかに変わった。
『なるほど、なるほど。まぁ、話し次第だな』
『そうだそうだ。異世界から宝を持ってこれるのであれば・・・・』
ふんぞり返って言っていた。
頭を掻く。
ここも想定通り、シブヤのダンジョンと同じ要求みたいだ。
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