7 上位魔族サリーの力
サリーがダンジョンの前に降り立つと、隠れていた人間の動きが機敏になった。
魔導士が、結界内で味方にバフの魔法を付与している。
「カマエル、ここの部分を拡大してくれ」
「かしこまりました」
カマエルが映像を大きくする。
3、4・・・・・22人だな。
「ここにいる魔導士は22人、おそらく、サリーにデバフをかけてくるな」
杖を構えてる様子が見えた。
「ククク・・・馬鹿どもが」
「血のサリーが、そんなの待てるわけないだろう?」
「え・・・・・?」
3秒後、サリーが剣を長くして、思いっきり振った。
ザザーッ
「!?」
森に赤い閃光が走り、一瞬にして、なぎ倒されていく光景が映った。
逃げ惑う人間が、露になる。
「ほら、言ったとおりだ。私だったら、もっと時間をかけて人間どもを炙り出すものを」
「カマエル様のおっしゃる通りですね」
「なんだかんだ、サリーとは長いからな。野蛮すぎて話が合わない」
「・・・・・・・」
強い。
これが上位魔族。
俺が渡した魔道具を大切そうに受け取っていたけど、不要だな。
上位魔族が来ると想定していなかったのか、100人くらい集まった人間が一瞬固まっていた。
後ろのほうには、何が起こったのか理解できない者もいるようだ。
「雑魚どもめが・・・・プライドすらないのか」
「さすがサリー様ですね」
雲の子散らすように逃げていく姿が見えた。
ぶるぶる震えて、動けない者もいる。
もう一撃、サリーが赤黒い光を纏った剣を振り回した。
シュンッ
サリーの近くにいた人間は、移動魔法を使っていなくなっていた。
負傷していた人間も、連れていかれたようだ。
「ちっ・・・・逃がしたか。人間どもを一網打尽にできたものを」
「逃げ足だけは早い奴らめ・・・・」
「そうだな」
逃げる用意だけは万全の体制を作っていたようだ。
命が無ければ、何も情報を残せないからな。
これだけの人数を集めるとは・・・。
最終的な目的は王女アイリスの奪還ってとこか。
「こんなに早く逃げるとは、人間どもは一体何をしたかったのか?」
「理解に苦しむな。魔族ではありえない行動だ」
ゴリアテが大きな足で地面を鳴らしていた。
「・・・・・・・・・」
人間は魔族をなめている。
俺がギルドに居たときは、上位魔族の存在など聞いたことがなかった。
情報交換の場になっていたギルドの酒場で、バーテンダーをしていた頃でさえ、耳にしたことがなかった。
アリエル城の人間が知っているとも思えないな。
「終わったな。戻ってくるだろう」
「まぁ、あれくらい、俺でもできたけどな」
「フン、上位魔族として当然のこと。むしろ、あそこで逃げ出した人間を焼き払えばよかったものを」
カマエルが腕を組んで文句を言っていた。
イベルゼがダンジョンから出てくる。
怪我はないようだ。
サリーと一言、二言話した後、翼を広げて飛び立っていった。
「魔王ヴィル様、そろそろ魔法を解いてよろしいでしょうか?」
「ちょっと待て・・・・」
「?」
逃げていく剣士の中に、見覚えのある顔があった。
確か、SS級クエストを何度か攻略したことのある有名な魔法剣士だ。
光属性だったはずなのに、どうして武器を振るわなかったのだろう。
「・・・・・・・・・」
上位魔族であるサリーの力が想像以上で、逃げているだけだろうか?
まぁ、考えるだけ無駄だな。
人間が何を考えていようと、サリーなら、力でねじ伏せることができるだろう。
「いかがなさいましたか?」
「・・・いや、いい。ここまで逃げていけば、早々に襲ってくることはないだろう。閉じてくれ」
「かしこまりました」
カマエルが遠隔投影同期(ミラーリング)を解除する。
しばらくすると、サリーが魔王城に戻ってきた。
剣を背負って、真っ先に目の前に降りてくる。
「魔王ヴィル様・・・その・・・私の活躍、見ていただけましたでしょうか?」
ちょっと目を伏せがちに、顔を上げた。
「見ていたぞ。よくやった。サリー」
「あぁ、ありがとうございます。魔王ヴィル様のこのブレスレットのおかげです」
勢いよく頭を下げる。
ブレスレットの効果は全く関係ないと思うが・・・。
「はぁ・・・・魔王ヴィル様に褒められてしまったわ」
頬を覆って顔を赤らめていた。
「・・・気に入ってもらえてよかったよ」
「えぇ、ありがたき幸せでございます。大切にいたします」
ブレスレットを大事そうに撫でていた。
「あの、魔王ヴィル様、よろしければ・・・・」
「ん?」
「その・・・剣の稽古を・・・」
「サリー、人間を追い払ったくらいで魔王ヴィル様に何か頼むのなんて、傲慢が過ぎるんじゃないか?」
「わ・・・私としたことが、つい・・・失礼いたしました!」
カマエルにたしなめられて、すぐに膝を付いていた。
赤い髪を耳にかけて、気まずそうにしている。
「上位魔族がこれだけ強いと頼もしいよ」
「はいっ・・・・・・」
自分の錬金術の装飾品がどれほど効くのか試したかったんだが・・・。
まぁ、機会はこれからいくらでもあるか。
「しばらくは人間の行動が今のように活発になるだろう。特に、今魔族が持つダンジョンが狙われる」
「そうですね・・・・」
「1週間はこのまま様子を見よう。1週間後、人間に奪われたダンジョンを取り返す」
「はい!!!」
「あぁ。それまでは、今の状態を維持しろ」
「かしこまりました」
カマエル、サリー、ゴリアテ、他の魔族たちが頭を下げた。
立ち上がって、魔族を見下ろす。
「また今のようなことがあったら教えろ。お前ら上位魔族に任せておけば問題ないことはわかってるが、俺も人間の様子を見たい」
「承知いたしました」
「全ては魔王ヴィル様のおかげでございます。精進してまいります」
サリーが小声で口に出してすぐに俯いた。
なぜ俺が魔王として召喚されたのかわからないくらい、上位魔族は桁違いに強いな。
部屋のドアを開ける。
「・・・・おっと」
カラスが勢いよく飛び回っていた。
スッ
そうか、アイリスに課題を与えていたんだった。
「魔王ヴィル様。おかえりなさい」
アイリスが笑いかけてきた。
「やっと、回復魔法を使えたのか。正直、無理だと思っていたが・・・」
「ううん。使ったのは復活できるやつだよ」
「復活?」
「どうしても回復魔法使えなくて、一回死んじゃったの。だから、生き返らせるのを、使・・・ったの」
「は?」
アイリスの足元がおぼつかない。
くらっと、倒れそうになっていた。
「あ・・・・・」
「大丈夫か?」
抱きとめる。
「ごめん。久しぶりに魔法を使う感覚だったから・・・加減が・・・」
「なんで回復魔法使えないで・・・蘇生が・・・難易度が違いすぎるだろ」
肉体蘇生(フェニックス)をこいつが?
勇者たちとともにいるマーリンでさえ苦労して会得した魔法だ。
それにこいつの場合・・・。
「自分の魔力が少ないことをわかっているのか? なんて二度と使うな。わかったな、命令だ」
「わかった・・・・魔王ヴィル様・・・私、役に立てそう?」
「・・・お前、何者だ?」
「ただのアイリスだよ。魔王ヴィル様がさらってきてくれた、アイリス」
「?」
アイリスは一体・・・。
「とにかく、しばらく休め」
「うん、ありがとう」
ゆっくりとソファーに寝かせて、近くにあった布をかける。
魔力切れだ。しばらく起きないだろう。
もう一つの、大きなソファーに腰を下ろす。
これが、あのアリエル城にいた王女アイリス。
アリエル王国の催事にしか顔を出さない、他国から流れ着いたという王族の・・・。
「・・・アイリス、起きてるか?」
「・・・・・・・」
静かな寝息を立てていた。
・・・・・ただのアイリス・・・か。
カラスがアイリスの傍にうずくまって、眠っていた。
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