6 人間の動き
― 肉体回復(ヒール) ―
金色の光が手の中を包む。
気絶させたカラスが、手の中で羽をバタバタしていた。
「こんな感じだ」
「うんうん・・・手に溜める魔力、20パーセント、聖属性の回復能力・・・」
「何言ってるんだよ」
「魔法分析。あ、分析ってあまりしないんだった」
頭を掻く。
いまいちアイリスがよくわからない。
「魔王ヴィル様は回復魔法が使えるのね?」
「まぁ、この魔法は・・・いや、魔族の王だからな、どんな魔法も使えて当然だ」
「そっか」
「今ので、覚えたか?」
「たぶん、大丈夫」
「じゃあっと」
ギャッ・・・・
カラスをもう一度失神させた。
「こいつを癒してみろ」
「はいっ!」
アイリスがぐったりしたカラスを抱きかかえる。
目を閉じて、手をかざして集中していた。
『ヒール』
「!?」
手の中の光が・・・・しゅんと消えていった。
アイリスの魔法には、何か違和感があった。
何かで力を押さえられているような・・・。
気のせいだろうけどな。
「あれ?」
アイリスがカラスを撫でながら戸惑っている。
「今のは魔力が足りなさすぎだ・・・・」
「んー」
「よく、回復魔法使えるって言いきれたな」
「なんだか、使えるような気がして。あれ? どの記憶だろう? 何か喪失してる?」
「・・・・・・・」
期待はしてなかったが、ここまでとは・・・・。
アリエル王国は王女に魔法の基礎も教えないのか。
「とりあえず、ヒールくらいはできるようになってくれ。元々の属性が聖属性なんだから、どうにかなるだろう」
ソファーに腰を下ろす。
「どうしてできないんだろう・・・」
「知らん」
『ヒール』
「あぁ・・・すぐに消えちゃう・・・」
何度か唱えていたが、すぐにしゅんと消えてしまっていた。
これは、時間がかかりそうだな。
俺もギルドにいた頃、回復役を降ろされたことがあったけど、俺よりできない奴がいたとは。
トントン
「魔王ヴィル様、すみません。よろしいでしょうか?」
ドアをノックする音が響く。
「今行く。部屋の前に居ろ」
「かしこまりました」
部屋の外からカマエルの声が聞こえた。
「アイリス、戻ってくるまでの間に、そのカラスを回復させろよ」
「了解です」
カラスをぎゅっと抱きしめていた。
「そのままにしておくと、死ぬからな」
「うん。任せて、絶対に元気にさせてみるから」
強いまなざしをこちらに向けてくる。
カラス、ぐったりしたままだ。
癒される気配もないから・・・おそらくこのまま死ぬだろう。
戻ってきたら、別の動物を用意してみるか。
王女様の根拠のない自信が羨ましいくらいだ。
マントを翻して、部屋を去る。
「俺が帰ってくるまで、部屋には誰も入れるな」
「かしこまりました。皆にそのように伝えておきます」
アイリスが何してるか見せられないからな。
「あの・・・」
カマエルが、歩きながら顔をしかめていた。
「何があった?」
「はい。北西にあるイベルゼたちのいるダンジョンに人間どもが集まっているようです。イベルゼから、オブシディアンの信号が届きました」
「どれくらいだ?」
「ざっと50名ほど、包囲しているようです。まだ、攻撃は仕掛けてきていないようですが」
「イベルゼは確か13人の魔族を従えていたな。ダンジョン丸ごと、袋叩きにする気か」
「はい、いかにも弱い人間どもの考えそうなこと」
「・・・・・・・・・」
準備してたようだな。
50人といったらギルドの3分の1の大きさだ。
すぐに集められるものではない。
おそらく、アリエル王国の兵士も混ざっているのだろう。
王女アイリスが捕まったとのことで、一気に動き出したか。
「もうすぐ日が沈みます。夜になれば、魔族の時間。今の時間にダンジョン周辺の様子を探り、恐らく明朝にかけて襲撃するつもりでしょう」
「そうだな。いったん、皆と話そう」
「はい」
魔王の間に入ると、魔族たちが集まっていた。
「あぁ・・・魔王ヴィル様」
魔王の椅子に腰を下ろす。
絨毯の近くにいた魔族たちが一斉にこちらを見上げた。
「話は聞いた。カマエル、イベルゼたちのいるダンジョンの様子を映し出してくれ」
「かしこまりました」
カマエルが竜の角のような杖を出して、ぐるっと回す。
― 遠隔投影同期(ミラーリング)―
依然出した時よりも大きなミラーが浮き上がる。
ダンジョン付近の様子を鮮明に映し出していた。
ウルが地図を広げて説明している。
「ここが、イベルゼたちのいるダンジョン。入り口は、こちらとこちら、二か所になります」
「なるほど・・・・・」
草木に囲まれた場所を二つ示していた。
確かにどちらにも草陰に人がいる。
1グループ5人前後が散らばっているといったところか。
丁寧に作戦も練られているようだ。
「先ほど私たちが見たときよりも増えていますね」
「やはり、城の者もいるな」
背もたれに寄りかかって、足を組む。
「え?」
「ほら、ここだ」
「あ・・・・」
一瞬光が灯った場所に、紋章の付いた盾を持った人が見えた。
「今まで城の連中がダンジョンに来るなんてなかったぞ」
ゴリアテが大声で言う。
「魔王が復活したとのこと。魔族をおびき出しているのかもしれませんね」
「それだけ、魔王ヴィル様が恐れられているということでしょう」
「私たちからすると、向こうから来るなど好都合よ」
「そもそもダンジョンに50人以上も押しかけるなんて、何を考えてるんだ。人間は」
緑の皮膚をした魔族が怒りながら言う。
「ダンジョンが狙いではないのだろうな」
「え・・・」
「私が見るに、ダンジョンに向かったのはたった数人。中にいるイベルゼたちを引きずり出して、他の強い魔族をおびき寄せるつもりでしょう」
「まったく、イベルゼの実力がわからないとは・・・」
「イベルゼは、今一時的に弱い期間。本日は確か、月が半分の日」
「!?」
カマエルが、ププの指摘にはっとしたような顔をした。
「人間たちが知っていたとは思えないけどな」
俺をおびき寄せようとしているのか。
ギルドは基本的に城の者と組むことはない。
アリエル王国王女アイリスか・・・・。
使えないと思っていたが、結果的にさらってきてよかったのかもしれないな。
この中には、俺を馬鹿にしてきたギルドの奴も大勢いるだろう。
ここで、俺が行ってもう一度・・・。
「では・・・」
「お待ちください!」
立ち上がろうとした時だった。
「魔王ヴィル様、ここは私に行かせてください!」
サリーが大きな剣を持って、降りてきた。
すっと翼をたたむ。
職業:悪魔
武力:325,000 装備:ユングルの刃 +12,000
魔力:410,000
闇属性:121,900
防御力:10,000
弱点:光属性のデバフにより全てのステータス-213,000
「魔王ヴィル様に、ぜひ、私の力を見ていただきたいのです!」
なるほど、光属性のデバフが弱点なのか。
魔王の部屋の物を使って錬金した装備品を試すのにはちょうどいい。
「サリー、お前にこれをやろう」
錬金したブレスレットを渡す。
「これ・・・は・・・・?」
「光属性の魔法を吸収するブレスレットだ。これを付けていれば、デバフにかかることはないだろう」
「は・・・なんて、ありがたき物を・・・こんなにも私の心配を・・・」
「?」
少し顔を赤らめながら、両手で受け取っていた。
「ありがとうございます。大切にいたします」
大切そうに腕につけていた。
カマエルが鋭い目つきで睨んでいた。
「魔王ヴィル様からプレゼントをいただいたからには、それなりの成果を上げないわけにはいきません。魔族の恐ろしさ、思い知らせてきましょう」
剣を持ち直す。
赤い髪が逆立つようにしてなびいていた。
「頼んだぞ」
「はい、魔王ヴィル様。そちらで、私の活躍をご覧いただけると嬉しいです」
尻尾をくるんと巻いていた。
「早く行け、サリー。魔王ヴィル様の時間が無駄だ」
カマエルが追い出すように言う。
「うるさいわね、変態メガネ。言われなくても行くわよ」
翼を大きく広げて飛び立っていった。
「サリー様の戦闘が見られるのは久しぶりですね」
「いつも、一人で殲滅させて帰ってくるだけだからな。魔王様から装飾品までいただいた。あいつが行くなら、100人だろうが200人だろうが問題ないだろう」
「人間からは血のサリーと呼ばれて、恐れられているくらいですから」
魔族たちがゴリアテと話していた。
両手を組んで、カマエルの出した映像を見る。
血のサリーか・・・。
ギルドの上位クラスの奴らは知ってたんだろうな。
上位の魔族がどれほどの力を持っているのか、この目で見せてもらおう。
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