3 弱点の克服
案内された部屋は広々としていて、大きな家具が揃えられていた。
椅子に座って、足を組む。
ププウルが本を棚に戻していた。
ププ:特殊効果発動条件、しっぽを攻撃される
職業:悪魔(ウルの姉)赤い目
武力:115,000 装備:なし
魔力:320,000
闇属性:121,900
防御力:10,000
特殊効果:半径20M以内の全て者の特殊効果を無効化する
弱点:水属性の攻撃を受けた場合防御力-21,000
ウル:特殊効果発動条件、しっぽを攻撃される
職業:悪魔(ププの妹)青い目
武力:215,000 装備:なし
魔力:120,000
闇属性:121,900
防御力:10,000
特殊効果:攻撃力+102,000
弱点:水属性の攻撃を受けた場合防御力-21,000
右目を閉じる。これが上位魔族か。
この二人は桁違いに強いけど、水属性と当たれば、ほぼ無力化するってことだな。
湖の近くとか、海の近くとか、絶対行かせたらいけないってことだ。
あと、問題は特殊効果発動条件の尻尾の攻撃だ。
ププの場合、味方のバフも無効になるってことらしいな。
ウルの場合、強くなるのが、かなりややこしい。
ププには必ず、尻尾攻撃回避の魔道具を持たせないと。
「魔王ヴィル様、どうされましたか?」
「あーいや・・・資料、ありがとう」
ププがなぜか緊張していた。
「と、とんでもございません、また何かありましたら、ぜひお呼びください」
「魔王ヴィル様とのお話楽しいのです」
「ウル、魔王ヴィル様に依存しないように怒られたじゃない」
「サリーがうるさいだけ」
ウルとププは体型が大人に近かった。
見た目は子供なのに・・・魔族特有なのか。
「ここにある道具とか使っていいか?」
壁に詰まれた鎧や剣を指す。
「一応、人間どもが落としていったものなのですが、ガラクタばかりで。でも、一応魔王城に戦利品としておいてあるのです」
ウルが覗き込みながら言う。
結構いいものばかりだな。
一部改良を加えれば、魔族武器にも防具にもなりそうだ。
「こっちの箱は?」
「そっちも同じです。一応なんか人間が大切そうに持っていたから捨てないで置いてます」
「・・・・・・・」
砂時計、金属、石、木、ハーブ、かなりの数の魔道具を作れそうだ。
錬金術師としてギルドにもいたことあるんだよな。
毒ガス撒く兵器みたいな魔道具ができて、4日で辞めたけど。
「不要でしたら捨てさせますが・・・?」
「いや、使えそうなものもあるからこのままにしておいてくれ」
「かしこまりました」
「そういえば、魔族に回復魔法が使える者はいないのか?」
「?」
「回復魔法?」
ププとウルが顔を見合わせる。
「ん?」
「誇り高き魔族に回復魔法など、ほぼ必要ないのです」
「魔族は自己回復ができるようになっています。傷によりますが3か月くらいで大体の魔族はピンピンしています」
ププが自信満々に、腕を伸ばした。
「あ・・・そう・・・」
回復魔法を使えば一瞬で治るのに。
3か月も戦力に穴を空けるとは、人間じゃ考えられない話だ。
回復魔法については真剣に考えておこう。
俺は習得してるけど、魔王が回復魔法使うってのも違和感がある。
「ププウル様!」
廊下からププウルを呼ぶ声が聞こえた。
「ビクトーのところね」
「彼らは体制の変化に混乱してるからフォローしないと」
「魔王ヴィル様、私たちはこれで失礼します。何かありましたら、お声がけください」
「あぁ」
バタン
ププウルが頭を下げて、部屋を出ていった。
貰った資料を眺めてみる。
「・・・・・・・」
・・・・・・まぁ、思った通り読めないか。
字が汚いし、破れてるし・・・。
解読は魔王城にある他の本を読みながらにするか。
カタン
棚に置いてあるガラクタから、魔力の流れが整っていそうなものを手に取った。
骸骨や何かの骨っぽいような、物騒なものは一旦、取り除いて・・・と。
水晶と金属の鎖とユニコーンの角が入った小瓶を握り締める。
― 魔具錬金生成(バラス)―
しゅうううぅぅっぅぅぅ
光の波動を吸収するブレスレットを生成した。
これを、極端に光属性に弱い魔族に付ければ簡単に負けることはない。
魔族の腕のサイズにフィットするかわからないが、仕方ないな。
まぁ、体のどこかに着けてくれれば力は維持できるだろう。
トントン
「魔王ヴィル様。今、よろしいでしょうか?」
カマエルの声が聞こえた。
「あぁ。入れ」
扉が開き、目を見開いたカマエルが入ってきた。
2本の角がピンと立っている。
「なんだ?」
「魔王ヴィル様!!!」
「な・・・なんだよ・・・」
興奮気味に近づいてきた。
「先ほど、3つのS級クエストに指定されているダンジョンから人間どもを追い出したという情報が入りました。魔王ヴィル様のおっしゃったとおり、ダンジョンに住む魔族を入れ替えた場所です」
「おぉ、よくやったな」
「はい・・・」
カマエルが感動しながら頷いていた。
魔族は実力がないわけではないのに。
自信喪失しているのも、人間に付け込まれる原因だ。
「このままでいくと、人間どものダンジョンを制圧する日も・・・」
「慌てるな。気の緩みが出れば、すぐに元に戻ってしまう。まだ、始まったばかりなのだから」
「・・・失礼いたしました。つい気持ちが高ぶってしまい・・・」
メガネを直しながら、頭を下げた。
「あと、角も仕舞え。お前の弱点だろう?」
「あぁ、すみません」
しゅんっと二本の角を仕舞う。
「そうだ。試しに、魔道具を生成してみたんだ。光の波動を吸収する装飾品だ」
「はい・・・・?」
カマエルに生成した金のブレスレットを見せる。
魔族の魔力に馴染むよう、水晶で調節していた。
「おぉ、さすが魔王ヴィル様・・・なんと器用な」
「今の魔族には弱点を回避する魔道具も必要だからな。お前らも、錬金くらいはできるようになっていてくれ」
「錬金を・・・魔族が・・・」
カマエルがメガネをずらしてから、もう一度、見つめる。
「・・・・・・・・・」
ん? 俺の今の発言は、人間っぽかったか?
魔道具に頼るって、魔族にはない考えかもな。
「カマエル、魔族の繁栄のためにな。知恵を絞れ。くだらぬプライドは捨てろと言ったはずだが?」
「私としたことが、なんという・・・。魔族が弱点を補うために、人間のような魔道具に頼るなどあってはならないと思い込んでしまい」
「・・・・・・・・・」
やっぱりな。
魔族は、考えてることが顔に出やすい。
S級クラスのギルドの奴らなら、すぐわかるだろうな。
「かしこまりました。私も魔王ヴィル様のように魔族の繁栄のために役に立てる何かを錬金しましょう」
「あ・・あぁ・・・・・・」
綱渡りだな。
いつか、ぼろを出さないように気を付けなければ。
「魔族に回復魔法に長けた者はいないということだったな?」
「もちろんでございます。魔族は自己回復が基本」
「これから、回復魔法に長けた人間を攫いに行こうと思う」
カーテンを開けて、外を見つめる。
「え?」
カマエルが後ずさりをしていた。
「ま・・・魔族が人間に頼るなどと」
「勘違いするな。奴隷にするのだ」
語気を強く言う。
「魔族が自己回復できることはもちろん承知だ。ただ、その回復時間の間に攻撃されてダンジョンを制圧されいるのも事実」
「・・・・・・もっともでございます・・・・」
「プライドの高いところが魔族の悪いところだ。俺たちの目的を忘れるな」
「そうですね。人間を攫う、魔族の奴隷にする・・・あぁ、我々にはそのような考えがなかった。さすが魔王ヴィル様です」
にやりと笑っていた。
「俺がいない間、魔王城を頼む。ダンジョンに何かあれば、上位魔族が行くように説明しておいてくれ。人間に奪われるなど二度とあってはならない」
「かしこまりました。魔王ヴィル様のご武運を」
「あぁ」
地面を蹴って、魔王城の窓から出ていった。
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