2 魔族の現状
「魔王様、頼まれていたものを持ってまいりました」
双子の女の子が牙を見せながら地図を渡してきた。
「え・・・と君は」
「私はププ、妹はウル、目が赤いほうが私、青いほうがウルと覚えてくださいませ」
「あぁ、ありがとう」
ププとウルは情報収集に長けた双子の魔族だった。
12歳くらいの少女のように見える。
おそらく、最年少の上位魔族だ。
「魔王様、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
ダンジョンの地図を眺める。
赤い点が魔族の支配するダンジョン・・・・。
って、ほとんどのダンジョン攻略されてる。
人間がつけ上がるのも無理はない。
弱小だった頃の俺まで情報が下りてこなかったから、ここまでとは知らなかった。
想像以上に、魔族は劣勢だ。
人間たちの娯楽のためにダンジョンクエストがあるんじゃないかと、疑うくらいだった。
「なぜ、こんなにやられてる? 例えば、ここは?」
「そちらは俺が守っていました。S級クエスト中のギルドにやられてしまい」
ププウルの後ろにいた図体のでかい魔族が声をあげる。
右目に集中して情報を見た。
ババドフ:特殊効果発動条件、角を攻撃される
職業:魔物
武力:10,500 装備:なし
魔力:20,000
闇属性:10,900
防御力:1,000
「防御力だけ極端に弱いのか・・・」
「・・・・・・・・」
ババドフが申し訳なさそうに、角を触る。
「実は・・・俺、角を攻撃されないと防御力が上がらないんです。あのときは足を切断されてしまい動けなくなりまして制圧されました・・・あ、足は1か月で生えてきましたけど」
傷のついた太い足を見せてきた。
ちょっと痛々しいな。
まぁ、ここまで防御力が低ければ、やられても仕方ないか。
攻撃力はあるから、惜しかったんだけどな。
「こっちのダンジョンは?」
「俺が守っていました。ギルドメンバーの中に光魔法のデバフを使える魔法使いがおりまして、すぐに宝を持っていかれました」
イベルゼ:特殊効果発動条件、しっぽを攻撃される
職業:悪魔
武力:15,000 装備:なし
魔力:30,000
闇属性:21,900
防御力:10,000
弱点:月が半分の日は、全てのステータス-13,000
右目を閉じる。
強いんだけど、弱点が脆すぎるな。
「・・・そうか・・・・なんとなく状況は理解した」
「なんと情けない」
カマエルが頭を抱える。
「いや、責めないでやってくれ。魔族の特性なのだから仕方ない。知力を使えば解決する話だ」
魔族ってみんなこんな感じなのか・・・。
武力、魔力のみなら負けないはずなんだが。
どこかものすごく弱い部分があって、そこを人間たちに攻められるんだろう。
ギルドのクエスト編成は全てにおいてバランスよく配置されている。
防御力が極端に低い者がいた場合、バフをかける者が同行するようになっていた。
人間の会話を思い出す限り、ダンジョンにいる魔族の弱点は大体把握されているはずだ。
魔族の入れ替えが必要だな。
「・・・・・・・」
「・・・魔王様・・・?」
「失望しましたか?」
ププが不安そうにこちらをのぞき込む。
「いや、問題ない。少し考えさせてくれ」
まずは、今あるダンジョンの守りを固めてから、取り返していくか。
ダンジョン攻略が楽勝だと思われてはいけない。
魔族の威厳を取り戻すことが先決だ。
「魔王様・・・いかがいたしましょうか?」
「カマエル、魔族のリーダーを、残っている80くらいあるダンジョンに再度振り分けてくれ。ギルドにはダンジョンにどんな魔族がいるか知られてしまっている」
「えっ!?」
「な・・・なぜそれをご存じで?」
唾をのむ。
「魔族の王だからな。それくらい見ればわかる」
「おぉ、なんと頼もしい!! さすが魔族の王。敵を知ってこその戦略ですものね」
「あぁ、そうだ」
先週までギルドにいて、転職先が魔王だったからな。
アリエル王国のギルドの動きは、なんとなく把握していた。
「・・・まずは、守りを固める。俺が魔王になった以上、絶対に攻略はさせない。必ず、今ある魔族の攻撃方法や属性と、真逆の魔族を配置するようにしろ」
「かしこまりました。是非、私にお任せください」
地図をカマエルに返す。
「あと、今からダンジョンに挑戦する人間がいれば、俺が直接行こう。奴らに力を見せつけるためにな」
「魔王様に私・・・いえ、上位魔族の力を見せたいのです。まず最初に、私に行かせてください。ぜひ、お願いします!」
「そうか、じゃあ頼むよ」
「ありがとうございます」
サリーが赤い唇を舐めながら、嬉しそうに微笑んだ。
カマエルがサリーをちらっと見て、舌打ちをしている。
「このような感じでいかがでしょうか?」
カマエルが東西南北に分けて、上位魔族含む34体の魔族を振り分けていた。
一つ一つ名前が書いてあったけど、さっぱりわからない。が、カマエルを信じよう。
「・・・・いいんじゃないか? カマエルが決めたのなら問題ないだろ」
「ありがたき信頼のお言葉」
「・・・・・・・」
魔族は単純だから助かるな。
「お前らよく聞け」
咳払いしてから、魔族のほうを向く。
「ギルドの奴らは、対魔族の装備品を付けている。対等に戦うためには、各々の弱点を補う防具をそろえる必要があるだろう。それまで、もつか?」
「もちろんだ」
「俺の種族がそうそうやられてたりはしない」
「魔王様が降臨されたんだ。俺たちに怖いものなんてないさ」
青い魔人が緑の魔人としっぽタッチをしていた。
「もし、ギルドに負けそうな状況になれば今から説明することを実行しろ。これは命令だ。ウル、頼んだものはできたか?」
「もちろんでございます。私の特技でございますので」
「説明してくれ」
「かしこまりました」
ウルが得意げに飛んで、真ん中に立った。
「先ほど、動作を確認しました。この魔石、オブシディアンをここにいる皆に一つ一つ渡します」
布に包んだ石を掲げる。
「もし、何かあれば、こうやって握り締めて魔力を流してください。魔力が無いものは、握るだけで微弱な波動を感知します」
ウルが握ると、石が赤く光った。
「そしたらどうなるんだ?」
「こちらの地図に反映される。それでよろしいですよね? 魔王様」
カマエルが地図を掲げた。
「あぁ、そうすれば俺か上位魔族の誰かが直接行こう」
「そ、そんな、魔王様に直々に来ていただくくらいなら・・・・・」
「死んで償いたいと思います。弱い魔族などいりませんから」
魔族が恐縮しながら顔を見合わせていた。
「俺は弱くてもお前らを殺さない。責めない。ダンジョン・・・いあ、魔族を守ることを第一に考えろ」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
静まり返ってしまった。
魔族の空気が、いまいちよくわからない。
「己のプライドより、魔族の繁栄ということだ。忘れるな」
うおおおおおおおお
「そうだ、俺らが考えるのは、一時の自分のプライドなんかじゃない!」
「魔族の繁栄だな。あいつら、人の領土に思いっきり殴り込みにきやがって!」
「一刻も早くダンジョンに行こうぜ。魔王様の期待に応えるんだ!」
一気に魔族の空気が変わった。
「ふふ、なんだかおもしろいことになってきましたね。さすが、魔王様ですわ」
サリーが剣を見つめながら笑っていた。
「あぁ、なんだか魔族の時代が来るようでワクワクします」
カマエルが両手を広げて言う。
「俺の部屋へ案内してもらえるか?」
「もちろんでございますとも」
「魔族の現状について、詳細を知りたい。魔王城にある全ての資料を用意して、自室に持ってきてくれ」
「承知いたしました」
「私たちが対応します」
ププとウルが短い髪をぴょんとさせて、大理石の上を上がってきた。
一礼すると、すっと飛んでいった。
高い天井の柱に、ガーゴイルのような獣の銅像が装飾されていた。
「では、魔王様、部屋のほうへご案内させていただきます」
「ヴィルだ。魔王ヴィルと呼べ」
「失礼しました。魔王ヴィル様、こちらへ」
椅子から降りて、歩き出すと、魔物たちの雄叫びが廊下まで聞こえていた。
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