1魔王の証明

「魔王様、連れてまいりました」

「・・・・これが、魔族・・・・・」

 聞こえないようにつぶやく。

 ギルドのクエストで遭遇することはあったが、中位以上の魔族を見るのは初めてだ


 カマエルが腕半分が獣のようになっている者や、角の生えた者、翼の生えた悪魔、3メートル以上ある巨人・・・・。

 30~40名程度の魔族が、魔王の椅子の前に集まっていた。


「私たちは上位魔族。そして、後ろにいるのが、その部下になります。皆、リーダー格です」

 サリーが後ろを向く。


「は? こんなちっこいガキが魔王だ?」

「信じられるわけないだろうが」

「魔王が現れたと言われてから来たのに」

 血気盛んな魔族たちがざわついている。



「魔王様の力を見抜けぬとは」

「どうゆうしつけをしたの? カマエル」

「そうだそうだ」

 ププウルがため息をついて、カマエルを睨みつける。


「はぁ・・・私の部下は優秀ですが、馬鹿なところがありまして」

「カマエル様、魔族が弱くなったからって、俺らを騙すわけじゃありませんよね?」

 カマエルの後ろにいた魔族が体を起こした。


「ジーク、お前には仕置きが必要か?」

「!?」

 カマエルが空中で双剣を回して、巨大な魔物二体に向かって突きつけた。


「カマエル、剣を下げろ」

「でも・・・・」

「そいつらの言うことは、一理ある」

 まずは信頼関係を築かないことにはな。


 俺はこいつらよりも強いところを見せなければいけない。



「魔王様」

「力を見せずに魔王を名乗れば、困惑するのも当然だろう。カマエル、今ギルドに攻略されようとしている魔族のダンジョンはあるか?」

「え・・・・とそれはですね」


 円を描いて、鏡のようなものにダンジョンの様子を映した。


「ここから、北西にまっすぐたところにあるダンジョンです。あぁ・・・・こんなに近いのに剣士にやられて・・・」

「クソッ・・・・人間め・・・」

 魔族が血を流して倒れているのが見えた。


「俺が行こう」

 地面を蹴る。


「取り返してこよう」

 地面を蹴って、宙に浮く。


 さすが、魔王に転職しただけあって、すべての魔法がインプットされてるな。

 多少の暴発はコントロールできそうだ。


「私も行きましょうか?」

「一人でいい」

 サリーの言葉を遮って、ダンジョンのある場所へと飛んでいく。


「みんな、カマエルの魔法で見ててくれ。今からそこに行く。すぐに戻ってくる」

「かしこまりました」

 カマエルが鏡を大きくしてから、頭を下げた。




 この世界に突然現れたといわれる、不思議な魔力を持つ場所がダンジョンだ。

 異世界とこの世界を結ぶ場所だという者もいる。

 ダンジョンには精霊がいるが、基本は姿を現さない。大抵は魔族の住む場所となっていた。


 人間とは違い、国を持たない魔族にとって、家のようなものだ。



 マントを後ろにやって、目的地のダンジョンに立つ。


 塔のようになっている、珍しいダンジョンだった。

 大体のダンジョンは、地下にあるんだけどな。


「やった、これを持ち帰れば・・・・」

 ボロボロになった剣士が塔の一番上にある浮遊石を取ろうとしている。


「待て」

「!?」

 声をかけると、剣士が信じられないといった表情をした。


 見慣れないギルドの者だな。

 腕に刺繍されているのは、サンフォルン王国のギルドの紋章か?


「今、気配が・・・・」

「な、何よ、あんた?」

 女魔導士が杖をこちらに向ける。


「ここは魔族のダンジョンだ。お前らが来るところじゃない」


「クソッ、まだいたとは」

「全員倒してきたはずなのに」

 所々見える青い染みは魔族の返り血のようだな。


『ファイア』

 魔導士が杖を振る。


 バンッ


 片手でシールドを張って弾いた。

 張るまでもないほど弱い魔力だ。


「なんだ? この・・・魔力・・・・」

 剣士と賢者が後ずさりしていく。


「やばい・・・勝てない・・・・」

「ここまで来て、やっとA級クエストをこなせるようになったのに」


「?」

 右目に彼らの情報が映った。


 ジョン:A級クエスト中、特殊効果なし

 職業:剣士

 武力:1,050 装備:銅の剣 + 100

  魔力:500

  炎属性:900

  防御力:1,000


 アイラ:A級クエスト中、特殊効果なし

 職業:魔法使い

 武力:500 

  魔力:1,200 装備:花模様の杖 +200 

  炎属性200

  防御力:850


 ハウザー:A級クエスト中、特殊効果なし

 職業:賢者

 武力:1,200

  魔力:2,000 装備:知恵の杖 +100

  水属性:500

 防御力:1,080 装備:リコの首飾り +100



 魔王の目は、相手ステータスも見えるのか。

 この力差なら今後、使う必要もなさそうだな。


「見る感じ、誰もバフがかかってないんだ。3人でよくここまでこれたな」

「な・・・お前、何を見てる?」


「俺たちをナメるなよ!」

 ジョンが剣で切りかかろうとしてきた。


 するりとかわして、両手を伸ばす。

 手慣らしだ。


 ― 漆黒の稲妻(ザク)― 


 雲が集めて、どす黒い稲妻を落とした。

 片手で位置を操作しながら、彼らの足元を狙っていく。


 ちょっと手が滑ったら、殺してしまいそうだった。


「もう駄目だ」

「このままじゃ、に、逃げるしかない。飛び降りるんだ」

 ハウザーが二人の手を引いて、雷を避けながら塔の端まで来ていた。


「でも・・・こんな高さから飛び降りたら」

「このまま、魔族の稲妻に焼かれて死ぬよりはましだ」

「行くわよ」


 タンッ


 アイラが二人の腕を引いて飛び降りていった。




 完全に気配が消えたのを確認して、魔法を解く。

 あそこまで魔力を消耗していたら、このダンジョンは諦めるだろう。


 ついギルドにいた頃の癖で、命を奪えなかったが・・・。

 俺にもまだ人間の部分があるのか。


「あ・・・あなた様は? 俺と一緒の魔族ですか?」

 赤い皮膚をした魔物が出てきた。

 攻撃を受けてかなり弱ってるが、傷口を見る限り自己回復能力があるようだ。


「俺は魔族の王、ヴィルだ」

「魔王ヴィル様・・・・・」


「もう行かなければならない。また、頼むな」

 ふっと足を浮かせて、素早く魔王城へ戻っていく。




 あんな弱いギルドの者を倒したからと言って、力を見せられたかといえば微妙だ。

 徐々に潰していくしかないか。


 まぁ、俺が王なのだから、魔族の不満など気にする必要はない。

 少し使っただけでもわかる。

 この力があれば、堂々と魔族の王としてやっていける自信があった。



 シュンッ


「魔王様!!!!!」

 勢いよく、魔王城に入り、椅子に座った。

 騒いでいた魔物たちがしんとしている。


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

 皆、固まっていた。

 ここまで、動かない魔族を見るのも初めてだ。



 咳払いをした。

 ほんの少しだけ緊張しながら、彼らの様子を伺う。


「ど・・・どうだ?」


「さすが、魔王様です!!!!」

 歓声が沸き起こった。

 さっきまで突っ掛かってきていた魔族が、ひれ伏している。


「先ほどのご無礼どうかお許しを・・・」

「いや、いいって」

「なんというご慈悲、我々焼かれる覚悟でおりました」


「えっと・・・その分、今後上手くやってくれ」

 魔族は単純だな。人間だと疑ったりするものだが。


 俺もまだ、人間の部分があることを否めない。

 気を付けなければ。


「すべて見ておりました。あの、稲妻を起こし直接当てるのではなく、精神的に追い込み、自ら飛び降りさせるところなど・・・私たちには思いつかないものでした」


「・・・・・」

 魔族にそう見えたならいいか。


「とにかく、俺が魔族の王として来たからには安心してくれ。魔族の時代にしよう」

「はい。精一杯頑張ります」

 一番向いてる転職先かもしれない。


 乾いた笑いが漏れる。

 魔王は俺にとって、天職だな。



「これから魔族は強くなる」

「ギルドを結成し、魔族の領域を侵略してきた奴らめ・・・今こそ、俺らの力を思い知らせる時だ」

「そうだ、今までに取られたすべてのダンジョンを取り返し、魔族の世界へ」


 カマエルが眼鏡をずらして、横に立った。

 翼をたたんで、背筋を伸ばす。



「うおおおおおおお」


 魔族の士気が高まっていった。

 雄たけびを上げると、魔王城の窓がびりびりと揺れていた。

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