4 さらわれる王女
魔王城を抜けて、森の上空を飛びながら考えていた。
ギルドには確実に回復魔法を使える優秀な魔法使いがいる。
対魔族の情報も多く持っているだろう。
だが、ギルドの人間を魔王城に置きたくないな。
アリエル城の人間のほうがまだマシだ。
アリエル城なら、優秀な回復魔法使いも多く抱えているだろう。
スピードを上げる。
途中、雲の中に入って、マントに水がしみ込んだ。
ギルドのある場所を一瞬で飛び去って、アリエル王国城下町を通り過ぎていく。
「久しぶりに来た気がするな」
高度を上げていく。
ギルドの活躍により、確実に領土を伸ばしている新しい国だ。
確か、俺が生まれる少し前にできた国だった、とか。
タンッ
アリエル城の屋根に降り立つ。
城下町は子供から老人まで、行き交う人々でにぎわっていた。
城の窓は各部屋にあって、1階以外の警備は手薄だ。
アークエル地方は国同士の争いが少ない。
魔族という共通の敵がいるからな。
問題はここからどうやって優秀な魔導士を探すかだが・・・。
魔王の目で一人一人、ステータスを見ていくのは面倒だしな。
「誰? あ!」
風に乗る、か細い声だった。
「!?」
ばっと、構える。ピンク色の髪・・・?
紺色のワンピースを着た美少女が裸足で立っていた。
「えっと、上ってきちゃった。屋根って初めて。いい眺め」
「・・・・・・・・?」
全く気配に気づけなかった。
強い・・・わけではなさそうに見えるが。
高貴なのに、どこか幼い。不思議な少女だ。
誰だ? こいつは・・・・・。
アイリス
職業:アリエル王国 王女
武力:200
魔力:900
聖属性:1,900
防御力:300 装備:人魚の涙のピアス +3,000
ぶわっ
「きゃ・・・」
「!」
風が吹いて、白いパンツが見えた。
慌ててスカートを押さえていた。
「見た?」
「見てないって。興味もない」
「・・・失礼だと思う。そう、失礼っていう。こうゆうこと」
「?」
変わった話し方をする奴だな。
「で、王女が、なんでこんなところにいるんだ?」
「人影が見えたから・・・って、そうじゃない。君は・・・? あれ?」
ピンクの髪をふわっとさせて、首をかしげる。
「会ったことがある気がする」
アリエル王国の王女か・・・。
まぁ、こいつは論外だ。
ステータスが低すぎるし、足手まといになるだろう。
「お前に用はない」
「待って! 逃がさない」
「そのスピードで、どうして俺に追いつけると思ってるんだよ」
「ねぇ、名前は? 私、君と初めて会った気がしない。絶対どこかで会ってる」
「悪いが、俺は完全初対面だ」
レンガにしがみつきながら、こちらににじり寄ってくる。
ギルドの末端にいた俺なんて、王女が会ったことあるわけがない。
正直、あまり関わりたくないな。
「俺は魔王ヴィルだ」
「魔王?」
「あぁ。魔族の王だ」
マントを押さえながら、身構える。
「そっか、魔王ってことは。王女をさらいに来たんでしょ? そうゆうのが、テンプレ」
「ん? 何言ってるのかわからないけど、回復魔法を使える人間を連れていくつもりだ。誰か心当たりはいるか?」
「私がいいと思うよ」
「は?」
「だって聖属性だし。魔族で聖属性はいないって情報もある」
急に明るい口調になって、バランスを取りながら立ち上がった。
「・・・・・・・・」
こうゆう好奇心旺盛な子って、一番苦手だ。
「別に、王女をさらおうとは思ってない。優秀な回復魔法使いがほしいんだよ」
「私、実は優秀な魔法使いなの」
「堂々と嘘をつくなよ。お前、どう見ても魔力が低いだろ」
「どうしてわかるの?」
「見えるんだよ。魔王の目だ」
右目を閉じる。
「ふうん・・・でも、そんなの嘘だよ。だって、私すごい魔法使いだから」
「どこから来るんだよ。その自信は・・・」
見る限り、C級クエストでも無理なレベルなんだが。
魔王の目が間違ってるってことは・・・無いと思うんだけどな・・・。
「ここでお前に構ってる余裕はない。優秀な魔導士を知らないならいい」
ため息をついて、飛び立とうとすると、マントをぐいっと引っ張られた。
「待って待って」
「なんだよ、俺は忙しいんだ」
振り払おうとするが、がっしりと掴んで離れない。
意外と力が強いな。
「ねぇ、私を連れて行って」
「は?」
「誰か回復魔法が使える人が必要なんでしょ?」
「優秀な魔法使いが必要なんだ」
「私、優秀だってば」
懇願するような目をしていた。
「俺は魔族の王だ。わかってるのか?」
「うん! 早く早く。私ずっと待ってたの・・・君みたいな魔王と出会う、王道展開」
「は?」
王女は退屈なのか?
「いたぞー!!!アイリス様、なぜそのような」
兵士が続々と屋根の上に現れた。
穏便に事を運びたかったんだけど、変なのに掴まってしまった。
「その者は誰だ? 王女様に何をしようとしている?」
「王女様を返せ」
剣士2人が、同時に剣の刃先をこちらに向けてきた。
― サンダーグラッド ―
― ファイアーブルグ ―
ブワァァァァァ
「きゃっ・・・」
屋根の上に雷と火が入り混じる。
魔王になったら、城の魔導士の魔法まで弱く感じるな。
左手をかざす。
― 闇夜の盾(ウルフ) ―
唱えると、彼らの魔法が闇の中に吸い込まれていった。
「なっ・・・・・」
「クッ・・・・・・早く援軍を」
「アイリス様、どうしてそこにおられるのです」
剣を屋根のレンガに突き立てて、片膝を立てていた。
「この人は、魔族の王なんだって。私、これから彼にさらわれるよ」
「は、俺は何も・・・」
アイリスが腕にしがみついてきた。
「なんだと!? 魔族の王!?」
「勝手なことを言うなって・・・」
「そうゆうことにしておいて」
アイリスがこそっと言ってくる。
「・・・・・・」
すっげー面倒なことになってきた。
こいつをさらって何のメリットがあるのかわからないのに。
「おのれ・・・魔王が復活したなんて聞いていないぞ」
「復活してすぐに、アリエル王国の王女を人質に取るなんて・・・なんたる非道」
兵士がわらわら屋根を伝って来た。
面倒だな。
「どうした?」
青年が下の窓からよじ登って、こちらに向かってくる。
王族か?
「ロバート様、アイリス様が魔王に・・・」
「なんだと? 魔王が? 妹を離せ。何をしようとしている!?」
「フン、雑魚が・・・・」
目を吊り上げて、真新しい剣を掲げていた。
― ライトスター ー
サァァァァァァ
剣の先から星のような光が降り注ぐ。
全て、闇夜の盾(ウルフ)に吸収されていた。
「!?」
「無駄だ、お前らの魔法は効かない」
強く言う。
「魔族の王に剣を向けたこと、後悔しろ」
「バイバイ」
アイリスが笑顔で手を振っていた。
まぁ、こいつは・・・。
成り行きでさらうしかないな。
「皆のもの、アイリス様を取り戻せ。飛び掛かれ」
「おおおおおお」
兵士がこちらに向かって勢いよく走ってきた。
「しっかり掴まってろ」
「え? わっと」
アイリスを抱きかかえる。
― 漆黒の稲妻(ザク)―
「なんだ・・・?」
アリエル城上空に、渦巻くような黒い雲が集まってくる。
俺が何度も暴発させた魔法の一つだ。
ギルドを潰しかけたこともある。
「!?!?!?」
ガンッ
ガガガガガガガガガガガガガー
「うわぁぁぁぁぁぁ」
天に向かって手を掲げてから、飛び降りる。
アリエル城に黒い稲妻が走り、人々の悲鳴が聞こえた。
「アイリス王女様!!」
屋根からアイリスの名前を叫ぶ声がする。
城下町でも、落雷に驚いて、空を見る人が多かった。
中には、こちらを指さしてる人まで見えた。
稲妻は、俺がアリエル王国から出るまで止まることはない。
黒い稲妻が落ち続ける。
ちょうどいいな。
魔王復活の象徴になるか。
「わわっ・・・」
「暴れるなって。落ちるぞ」
足をバタバタさせていた。
「ごめん、高所恐怖症なのかも。初めての感覚・・・」
首にしがみついていて、ふうっと息を付く。
「ったく・・・」
「ごめんごめん、すぐ慣れる。へへへへ」
下の景色を見て、うわーっと楽しそうにしていた。
「高所恐怖症なら、どうして屋根の上にいたんだよ。危ないだろ」
「王国から逃げ出したかった。私の場所はあそこじゃない。窓を見ていたら、君が遠くのほうから飛んでくるのが見えたから、思わず屋根に上っちゃった」
にこにこしながら話していた。
「あ、私、アイリス。アイリスって呼んでね」
「さっき聞いたって」
ピンクの髪がさらさらと揺れる。
「兄のロバート? だかは、相当怒ってたみたいだけどいいのか?」
「彼はいい。私がいなくても王国は困らないから」
風の音で、少し声が聞き取りにくかった。
「へぇ、興味ないけど、王女にもいろいろあるんだな」
「・・・・・私、ここを出なきゃいけないような気がしてた。ずっと、何か自分にはもっと別のやることがあって・・・でも、覚えてないの。城にいたら見つからない」
遠くを見つめながら言う。
「一応、俺は魔族の王なんだからな」
「わかってるって。人間と敵対してる魔族だもんね」
「・・・・・・・・」
会話が通じないな。
王女ってみんなこうなのか?
「俺の機嫌が悪かったらどうするつもりだったんだよ。魔族は人間を殺すことなんて当たり前にある」
人間も魔族を殺してきたように・・・な。
「魔王ヴィル様は、きっと優しい魔王様って思ったの」
「・・・まぁ、どうとでも思ってくれ。ここまで来たら引き返せない」
「うん!」
花のような笑顔で言う。
「はぁ・・・」
どちらにしろ、計画は失敗だ。
弱小なアイリスをどうにかして、魔族専門の回復魔法使いにするしかない。
一応、聖属性だし、教え込めば使えるようになるだろう。
魔族にはどう説明するか考えなければ。
前途多難だ。
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