第2話∶静寂と危機

 (急に目を覚ましたが…、ホントに誰なんでしょう?)


さっきは急に話しかけたせいで反射的に名前を言ってしまった。

月明かりが差すなか、沈黙が続いた。

沈黙を最初に破ったのは白髪の男だった。


 「…少年、今何時だ?」

 「6時半です。後、僕は高校生です。」


元々身長が低くて童顔だからよく実年齢より若くみられる。

逆に男のほうは隈が目立つせいか、老けて見える。


 「あなたこそ誰ですか?そもそも、あんなところで気絶していたのも気になります。」

 「まー、探偵みたいなもんだ。疲れが溜まりすぎたせいで、気絶してしまった。」


現実の探偵はこうも怪しいものなのだろうか。

男は要約立ち上がった。

身長は174cmくらいだろうか、語と比べると大きく見える。

体型は痩せ型、暗闇で良くわからなかったが肌は青白い。

隈も相まって儚げと闇が印象的で、かなり近寄り難い。


 「気絶って、本当に大丈夫ですか?

ちょうど菓子パンをもっているので、良ければ食べます?」

 「世話焼きだな、だがもう大丈夫だ。」

 「それより、早く帰ったほうがいい。」 

 「」 

そう言って男は語とは反対方向の道を進んだ。

男の姿は夜の闇に溶け込み、完全に見えなくなった。


(本当に誰だったんでしょうか?結局何も分からなかったので、記事にするには情報不足すぎます。)


語は熱烈な新聞部員で、普段から少しでも変わったことがあれば細かく観察し、メモをとっている。

遅くなったのも、編集作業をしていたからだ。


 「さて、これ以上考えても何も分かりません、早く帰り、」

 

着信音が鳴った。

語はポケットからスマホを取り出し、誰からの着信かを確認した。


 (佐藤さんから、どうかしたのでょうか?)


佐藤さんは同じクラスの友人で仲が良い。

普段陽気な彼だが、こんな時間にかけて来ることがなかったため、何か深刻そうだ。

電話をかけてみた。


ピッ


 「もしもし佐藤さん、どうかしましたか?」

  [語ー、今家か?]

 「いえ、いま河沿いの道路にいます。」

 [よかった〜、実は俺今日、教室で提出用のノートを忘れてさ、]

 

嫌な予感がする。


 [まだ帰宅中ならさ、頼む!教室までついてってくんねぇか?]

 「ハァー、一人で行かないのですか?」

 [いやー、俺が怖いの苦手なの知ってるだろ?]


そういえば佐藤さんは怖いのが苦手だった。

夏休みにサッカー部で肝試し大会があった時、

佐藤さんの怖がりっぷりがサッカー部の間で話題になっている。


 [なっ!頼むからさ、今度昼飯奢るからよ。]  

 「取材に協力して下さるのならいいですよ。」


 そう言うと佐藤さんは今までにないくらい嬉しそうに、


 [まじでありがと!じゃあ正門で集合な!]

 「分かりました、では今から向かいます。」


そう言って電話を切った。

この後は特に予定がないから問題ないだろう。

それに佐藤さんは入学後、最初に仲良くなった友達。

元々了承するつもりだ。


「さて、向かいますか。」


       ー十数分後ー


校門には既に佐藤さんが立っていた。

角刈りの頭に、日焼けした肌、冬にも関わらず半袖短パンだ。

寒くないのだろうか?


 「佐藤さん早いですね。」

 「ヘッヘッヘ、いや〜まじでありがとな。」

 「取材お願いしますよ、早速取りに行きましょ   う。」


職員室から鍵を取りに行き、二人で教室へ向かった。

道中佐藤さんが物音でびっくりしたり、さっきからずっとくっついてきている。

そして三階の教室に付き、ノートを見つけた。


 「いや〜、無事に見つかった。」

 「良かったですね、早く帰りましょう。」


夜の学校は職員室にしか人が居ないから静寂そのもの。

静かすぎるからか、佐藤さんが話しだした。


 「なぁ語。」

 「どうしました?」

 「[レインコートの怪人]ってしってるか?」

  

[レインコートの怪人]、この高校の七不思議の1つだ。

それ関連の新聞を検討するくらい語は心霊に興味を持っていた。

[レインコートの怪人]、それは暗くなると現れる、文字通りレインコートを着た大柄の男だ。

両手には錆びた草刈り用の鎌をもっており、生徒を見つけては不気味な笑い声を上げながら追いかけるという。

目撃者も当時は多く、大人には視えないそうで、警備員や先生は見たことがなく、ただの噂程度の認識だった。


 「知っていますが、僕はあまり信じていません。まだ身近な目撃情報もありませんし。」

 「え、もう取材したのか?」

 「いえ、先輩から聞いた程度です。近々七不思議新聞を検討していますが、まだ目撃者数が少なすぎます。」

 

七不思議の目撃情報はここ数年は無く、もはや知っているのはオカルト部くらいだそうだ。

七不思議の話をしだしてから、佐藤さんはなにか不安気味だ。

単に怖がっているわけではなさそうだ。


 「実はな、出たんだよ。」

 「出た、といいますと?」

 「……[レインコートの怪人]が。」

 

耳を疑う話だ。

語は疑いの目を向けている。

そんな語を気にする様子はなく、佐藤さんは話を続ける。


 「俺の同じ部活の友達が最近部活にこなくてさ。それで、その友達に電話したんだよ。でも出なくてさ、そいつの家に行ったんだが。」

 「なるほどそれで?」

 「何でもそいつ入院してたんだ。足の腱が切られたから。なにがあったか聞いても、「レインコート、レインコート」って唸ってて話せる状態じゃぁなかったんだ。」

 「なるほど、不審者の仕業でしょうか?とても気の毒です…。」

 「もしかすると、レインコートの怪人は不審者だったのでしょうか?」

 「そうなんだ…」

 ギギィ ギギィ


突然金属がぶつかり合う様な音が聞こえた。

たまたま起きたものではない、人為的に鳴らしたもののようだ。


 「ひ!、なんだ!」

 「落ち着いて下さい佐藤さん。きっと誰かのイタズラ…」

 

急な悪寒が全身を貫くように吹く。

ただ事ではないと確信させるような、本能が直接危機を知らせている。

そんな二人を嘲笑うかの如く、金属音が鳴る。


ギギィ、ギギィ、ギギィ


 「な、なぁ語…、これって…」

 「…はい、近づいてきています。」


ゆっくりと、ゆっくりと。

しかし確実に近づいてきている。

ゾッとする感覚が、今近づいて来ている者は人間ではないと告げている。

二人が同時に振り返った。

その瞬間に音が止んだ。

誰もいなかった。

月明かりが廊下を照らす光景が広がっていた。

二人は安堵して、振り返った。

それが間違いだったのかもしれない。


 「「あぁー!」」


目の前に現れた存在を見た二人が情けない叫び声を上げてしまった。

血まみれのレインコートを着た大柄の男が立っていた。

月明かりに照らされた両手には、錆びたのか血なのか、赤く汚れた草刈り鎌を握っていた。


 (あ、あれ…は…)

 (あれが[レインコートの怪人]!本当にいたとは…、)


怪人の目は赤く、鈍く光っていた。 

目の前に獲物が現れた捕食者のように、目を光らせていた。

二人は言うまでもなく狩られる側、恐怖のあまり声もでず、ただ固まるしかできない。 


 (七不思議は本当だったんですね!早速カメ…。いやいや、落ち着け僕!まずは逃げないと…)


語は佐藤の方を見た。

怖い物が苦手な彼は足が震えていて、動けるかどうか怪しい。

怪人は動く瞬間を狙っているのか、不気味に笑っている。

 

 (二人…いえ、せめて佐藤さんだけでも逃さないと。なにか方法は…。)


語はふと、レインコートの怪人の都市伝説を思い出した。


(都市伝説どうりでしたら、恐らく…)


語はいつも制服の懐にしまっている防犯ブザーを取り出し、ピンを引いた。


ピピピピピピピピ


防犯ブザーのけたましい騒音が静寂をかき消す。


(レインコートの怪人は大きな音、特に防犯ブザーが苦手!)


予想通り怪人は耳を塞いで苦しんでいる。


 (後は佐藤さんを連れて逃げないと!)

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