霊門寺アギトの霊媒録

バジルソース

第1話:影の片隅

       深夜2時頃:繁華街 


 ネオンの街灯も照らさない、暗く汚らしい路地裏の袋小路に青コートの青年が立っていた。   

青年の年齢は10代後半、大学1年生くらいだろうか。                    

ボサボサな白い髪に紫色の目、だるそうに開いている目の下は軽く隈ができていて暗い雰囲気を纏っていて近寄りがいものを感じる。            

青年は棒立ちしているようだが隙がなく、静かに殺気を立たせている。

その立ち振舞は臨戦態勢をとっているようだ。                

青年から2メートル離れた先に男が居た。

猫背で俯向いている男は、人の姿をしているが生気がまるでない。                 

中黒いオーラをもれだしながら、唸り声をあげている。                      

青年は不満気な顔で怨霊を睨む。     

怨霊は頭を抱えて何かブツブツと呟いているがよく聞いても何を言っているかわからないし、聞いていて気味が悪くなる。


  (よりによってなんでこんな寒い日なんだ?  

目的の怨霊はあれだな、早くに依頼が来て助かったよ。)


青年、霊門寺顎れいもんじアギトが安堵の感情を抱いたなか、怨霊は顔を上げた。

目があるはずの場所には虚空が広がっており、 表情は苦しみに歪んでいる。 殺された本人ではないのに、

その表情は心にくる。

怨霊はアギトを見つめるだけで何もしない。

顕現して間もない怨霊は、人に恐怖を植え付けることしかできないからだ。

しかし"その道"に慣れた顎には、それは通用しない。


  (やはり、直接害は与えてこないか。早めに済ますとするか。)


アギトは機械の義手を素早く懐に入れ、狐の顔と火の字が書かれた御札を取り出し、それを怨霊に向かって素早く投げた。


 「[火葬かそう]」


そう唱えると御札は炎に包まれ火の玉と化し、怨霊に当たった。

怨霊は火に包まれ、苦痛の叫びを上げている。


 「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙‼」


怨霊は悶え苦しんでいる。


 「倒しきれないか……[鼬風いたちかぜ]」


顎はさらにイタチが書かれた御札をなげた。

怨霊に激しい風の玉がぶつかり、怨霊は爆散した。

怨霊は消滅し、アギトは静かに目を瞑って黙祷した。

黙祷を終えると、腰に巻いていた小型カバンから細い紙が張り付いた試験管を取り出す。

コルクの蓋を外すと、怨霊から出たものなのか、黒い霧が試験管を満たし蓋をした。


 「依頼遂行、」


顎は暗い路地裏を後にした。


     ー数日後、某所にてー 


 人気ひとけのない静かな夜の道路、言乃葉語ことのはかたるは帰路についていた。


 「ふー、疲れました…。」


かたるは天を仰いだ、蒼色の瞳に満月が映る。


  (すっかり暗くなりました、本当に冬は日が沈むのが早いですね。)


ひんやりとした冬の風が吹き、ガードレールの奥から川の流れが聞こえ、澄んだ空気のなか語は行方不明者のポスターが貼られた掲示板を横切る。


  (最近物騒な事件が多いですね、僕も気を付 

 けないと。)

 「さて、明日も頑張り…」


前を見ると道路の真ん中で男が横たわっていた。


 「…え?」


語は初めて見る光景に少し困惑したが、まずは男の様子を観察することにした。


 (寝ている……訳ではなさそうですね。)


とりあえず声をかけた。


 「あのー?大丈夫ですかー?」


全く反応がない。近づいて男の肩を揺すった。


 「もしもーし、もしもーし」


揺すった勢いで男の顔がみえた。

目の下の隈が目立つが、かなり整った顔だ。

寝息が聞こえないことから気絶しているようだ。


 「と、とりあえず救急車!」


語が慌ててスマホを取り出そうとポケットを漁った。すると急に男が目を覚ました。


 「…!」


驚いた語は尻もちを付いた。

男が起き上がり、自分の額に手を置いた。

月明かりに照らされた髪は雪の様に白く、紫の瞳

は水晶の様に綺麗だったが、目つきは暗く活力を

まるで感じない。


 (なんだか怖いですね。)


すると男は語の存在に気付いたのか、こっちを向いた。

だるそうに開いた紫色の目が語を見る、男は口を開いた。


 「……誰?」

 「あ、え、言乃葉語です…。」


これが、普通の高校生としての人生を歩むはずだった言乃葉語ことのはかたるの運命が数奇なものへと変わる瞬間となった。

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