ファンタジーとは何か

 カクヨムコン9に応募した作品を、ある方に読んでいただいたところ、おもしろい、つまらない以前に、カテゴリーエラーである旨の指摘を受けた。カテゴリー的には、「日本ファンタジーノベル大賞」などの公募が当てはまるのではないかと、親切にも教えてくださった。


 Web小説の本流から外れている内容(および文章)であることは、私も承知していた。しかし、カクヨムコン9というお祭りに参加したいだけだった私には、別にそれでも構わなかった。森見登美彦先生が選考委員を務める「日本ファンタジーノベル大賞」のなまえが出てくるまでは。

 自然と「せっかく時間をかけて書いた作品なのだから、何とか、森見先生に読んでもらえないだろうか」という思いが出てきた。


 以上が前回までのおさらいである。

 私が「日本ファンタジーノベル大賞」に小説を出す気になった理由のひとつに、カテゴリーの問題があったというわけである。


 そのために、この場を借りて、確認しておきたいことは、私の作品が、「日本ファンタジーノベル大賞」の募集作品に適っているのかどうかという問題である。

 おもしろい、つまらない以前に、カテゴリーエラーを起こしていないかどうか。それが問題だ。


 「日本ファンタジーノベル大賞」の「募集作品」の項には、『日本語で書かれた、自作未発表の創作ファンタジー小説』とある

 求められているのは、「ファンタジー」であることはわかったが、そのファンタジーが何を指すのかについての説明がない。

 そこで私は、はたと立ち止まってしまった。ファンタジーとは何ぞや、と。


 困った時には辞書である。

 広辞苑には『幻想的な小説』、明鏡国語辞典には『幻想的・夢幻的なテーマを扱った文学作品』、現代カタカナ語辞典には『空想文学、幻想物語』とある。

 新漢語林によると、空想は『現実からかけはなれた考え、現実にあり得ないことを想像する事』、幻想は『実際にありもしないものをあるかのように思うこと。とりとめのない思い』とのこと。

 うーん、よくわからないというか、曖昧である。


 ブリタニカ国際大百科事典には、もう少し詳しく書いてはある。

『空想小説。現実とは別の世界・時代などの舞台設定や、超自然的存在や生命体などといった登場人物の不可思議さに、物語の魅力を求めたもの』

 やっぱり、よくわからん。具体性が足りん。


 そもそも、私は、小説のジャンル分けに無関心で生きてきた。世の中には、おもしろい小説とつまらない小説があるだけで、ジャンルの定義の論争には背中を向けてきたのだ(それで、まあ、いま、困っているわけだが)。

 私の中では、ファンタジーの定義など、人それぞれではないのかという疑念がある。


 ひとまず、ファンタジーとは何かという話は横に置き、私が公募に出そうとしている小説から問題を考えてみよう。

 私が書いた『スラザーラ内乱記注解』とその続編である『イルコア戦記注解』は、日本の16世紀ぐらいだろうか、その辺の文化レベルの異世界を舞台にした、歴史小説である。魔法やモンスターは出て来ない。

 似た作品をあれこれ考えて見たところ、田中芳樹先生の『マヴァール年代記』がいちばん近いのかもしれない。Wikipediaで『マヴァール年代記』を調べたところ、あの小説は「架空歴史小説」と呼ばれるジャンルの小説らしい。

 ということは、架空歴史小説がファンタジーに含まれるのであれば、私の送ろうとしている作品もファンタジーということになる。

 架空を英語に直せばフィクション。

 おそらく、ファンタジーはフィクションに内包されることばなのであろうが、その線引きがよくわからない。謎は深まるばかりである。


 また、別の視点で観てみよう。

 いちばん手っ取り早いのは、受賞作から、ファンタジーとは何ぞやと読み解ければよい。それで、「日本ファンタジーノベル大賞」の規定するファンタジーが読み解ける。

 と書いてみたものの、私は小説をろくすっぽ読まないので(今ごろになって、村上春樹の「羊をめぐる冒険」を読んでいる始末)、読んだことがあるのは2冊だけである。本当は、全作読んでから、挑戦するべきなんだろうけどね。


 一冊目は、先日亡くなられた酒見賢一先生の「後宮小説」。

 これは「スラザーラ内乱記注解」に似ていると、感想で言われたことがあったが、あまり似ているようには思わなかった(まだ、途中までしか読んでいないけれど)。


 二冊目は、もちろん、森見登美彦先生の「太陽の塔」。「太陽の塔」は、現代が舞台で、すこしふしぎなことが起きるくらいなので、この作品がファンタジーならば、私の作品もファンタジーに括ってしまってよいように思わぬでもない。


 話をファンタジーとは何かに戻す。

 性格的にインターネットの情報は信用していないのだけれど、Webio辞書によると、ファンタジーとは次のようなものらしい。

『空想や想像力によって生み出された物語や世界観を指す言葉である。また、現実とは異なる非現実的な要素が含まれたフィクション作品やジャンルを指すこともある。例えば、魔法や神話の生き物が登場する物語は、ファンタジーと呼ばれることが一般的である』

 なるほどと思わぬでもないが、空想や想像力から生み出されていない小説なんて、あるのかな。私小説だって、空想や想像力と無縁じゃないように思うのだが。あまり読んだことがないからよくわからないけど。この定義が正しければ、志賀直哉の『城の崎にて』だって、ファンタジーになってしまうのではないだろうか。

 うむむ、ますます、わからなくなってきたぞ。


 長くなってしまったから、強引にまとめる。

 架空の異世界を舞台にした歴史小説は、異世界を舞台としている時点で、ファンタジーのカテゴリーにひっかかっているので、「日本ファンタジーノベル大賞」において、カテゴリーエラーではなさそうである、ということにしておきたい(願望)。

 怪談・奇談や、人間離れした剣術使いが出てくるし。


 繰り返しになるけれど、本当は、受賞作をよく研究して、「日本ファンタジーノベル大賞」における「ファンタジー」とはどういうものであるのかを見定めてから、書きはじめるのがいちばんよいのだろうね。

 そんなめんどうくさいこと、する気になれないや。肌に合わない小説を読んだり、新しい作品を書く気力自体がない。

 私は時間をかけて書いた作品を、森見登美彦先生に読んでもらいたいだけなのだ。


 ファンタジーが何を指すのかよくわからないので、長くて構成があやふやな文章になってしまったが、この項はこれで終わる。

 次回は、私の作品はファンタジーなのか問題以上に、現在の私を苦しめている、字数制限との戦いについて書く。

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