第23話 どこへ……どこかへ④

 ころっと寝れたのはよかったけど、その反動でなのか、早くに目が覚めてしまったようだ。 

 外はまだ真っ暗だ。部屋に時計はついていないみたいだし、腕時計はサリリが持っているので、今が何時だかよくわからない。

 カーテンをちらっと開けて外を見ると、空がうっすら明るくなっている。

 ここには高い建物がないし、山もあまりないみたいだったから、もしかすると、朝日が昇るところをじっくり見られるかもしれない、そう思ったら、とたんに、寒いとか眠いとか、そういう気持ちは全部なくなって、外に飛び出した。

 あまりに寒かったので、部屋に戻って毛布をとってきて、肩から羽織る。旅人みたいと思うと、うれしくなってくる。

 歩き始めると、寒いのはどうでもよくなってきて、もっと日が昇るのがよく見えるところに行きたくなって、どんどん歩きたくなっていく。

 後ろでドアが開く気配がする。私がばたばたしていたからか、サリリも目が覚めたようだ。

 二人して、引き寄せられるように太陽の昇る方角へと向かっていく。

 明るくなり始めてからも、なかなか朝日は姿を見せない。南の寒さをなめていた。いや、もしかすると寒さとしては山の上とあまり変わらないのかもしれないけれど、山の上では好き好んでこんな時間に外でじっとしていたりはしないから、こんな寒さを感じることはなかっただけかもしれない。

 サリリは、ただ立っていることに飽きたみたいで、その辺をうろつき出した。

「変な感じ。全然なにも動いてないのに、空の色だけがどんどん変わってってる」

「多分、本当は昼間もこうなんだよね。午前中と午後とでは、空の色も違うと思う。変わるのがゆっくりすぎて、気づかないけど」

 まだ頭が半分寝ているのか、話もあまり弾まない。

 それにしても、これから出てくるのが朝日だということはわかっているのに、どんな姿をしているのか、どんな色なのか大体予想がつくというのに、わくわくして、ついじっと見てしまう。

 多分、あと十分、二十分で出てくるのはわかっているけど、早くしてほしいなと思う。つまらない授業を聞きながら休み時間を待っているときと、似ていなくもない。

 二人ともすっかり飽きてしまって、やっぱり宿に戻ろうかとどちらかが言い出す直前に、ようやく白い光が見えてきた。私が予想していた朝日よりも、白っぽい色の朝日だった。

「せっかく一生懸命待ったのに、まぶしくてしっかり見られないよ」

 サリリは日が出るなり、くるりと後ろを向いた。

「日が出てくる前の空の色、きれいだったね」

 せっかくこんなに待ったのにと思いながら、目が悪くなりそうなので、私も後ろを向いてしまう。

 そうしたら、日が出ているのと反対側の空も、なんとも言えないきれいな色に染まっていることに気がついた。淡いピンクと水色のグラデーション、サリリに言おうと思いながらも、声に出しているうちに消えてしまいだ。サリリは気づいているだろうか。気づいていたらうれしいけど、でも「そう? そんなにきれいじゃないと思うな」と言われたら、台無しになってしまう、そんなことを一人で勝手に思いながら、なんだかサリリをちょっと遠くに感じてしまった。

 朝食の会場は、二十人くらい入れそうな食堂だったけど、そこにいたのは私たち二人だけだった。ここが満員になることはあるのだろうか。

 薄く焼いたパンケーキが、焼かれたそばから運ばれてくる。でも、よく見ると、普段あんまりパンケーキは作らないのかなという感じがする。一枚一枚厚さが違うし、一枚の中でも、厚めのところと薄めのところがあって、私が焼いたほうがまだうまくできそうだ。

 バターと砂糖が用意されていたので、パンケーキが冷めないうちに、慌ててバターを溶かして砂糖を広げた。隣を見ると、サリリも夢中になって食べていた。

 その日は、昨日案内してくれた人たちが車を出してくれて、昼過ぎまで周辺を見回った。道路のようなものはなくて、何度も車が通って締固められて通りやすくなっているところを通っているようだ。スピードは出ないけど、その分景色がじっくり見れた。

 ここら辺は、木はもちろんのこと、草もほとんど生えていない。ものすごく乾燥しているようだ。ほとんど砂漠に近いと言ってもいいくらいなのかもしれない。ぷくぷくした多肉植物のようなものや、とげとげしたあまり葉がついていない植物などを、ときおり見かけるだけだった。

 二人にしかわからない言葉で、サリリにそっと言ってみる。

「こんなところでも、人って生きていけるんだね」

「うん、すごいよね」

 たまに、家畜の群れが現れた。なぜか、みんな丸々としていた。あのとげとげした植物を食べるだけで、動物は大きくなれるのだろうか。それともどこかから餌を買って与えているのか。

 戻ってきてから遅めの昼食を食べる。昼食はパンにチーズが挟んであるサンドイッチで、なんだか少ないなと思っていたけど、パンもチーズも味が濃い。手に持った感じもなんだかずっしりしていて、食べ応えがあって、見た目よりも満足できた。お腹が満たされると、あまり寝ていなかったせいか、すっかり眠くなって、ベッドに入ったとたんに意識がなくなった。

 気がついたときには、辺りは暗くなり始めていた。窓の外を見ると、サリリは村の人たちと楽しそうになにか話している。なんだか置き去りにされたような気になる。しっかり寝られてすっきりしたけど、寝ていた半日が、ちょっともったいなかった気がした。

 夜になると、昨日みたいにとても寒かったけれど、やっぱり星が見たいから外に出る。山の上よりもここのほうが標高が低いらしいけど、霧がないせいか、星がとてもよく見える。やがてサリリもやってきた。星が見たいのか、それともほかにすることがないのか。

 なんとなく話すこともないまましばらく星を見ていたけれど、やがてサリリが一言、「寒いね」と言った。

「そろそろ戻ろうか」

「うん」

 私は一人で出てきて、サリリも一人でついてきたから、一緒に戻る必要はないのかもしれないけれども、なにも話さなかったけど一緒に行動していたんだなあと思うと、なんだかちょっとうれしくなった。

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