プロローグ④
私は体をベッドに放り出しぼーっとただただ天井を眺めていた。頭の中で何かを考えようとしているのだが、思考など回るわけもなく考えるふりをしてしまっていた。
この家には私一人しかいない。静かであった。少し前まではこの家には両親がいた。私は部屋で携帯などをいじったり勉強したりして過ごす。のどが渇いたとかそうしたときに下に降りて、リビングに向かう。その時にリビングでテレビを見ている父親や、洗い物などをしている母親。その二人がいた。そうして、ぽつぽつと会話をする。
記憶にも残らないただの中身のない適当な会話。だが、今となってはそれが恋しい。
私は独りぼっちだ。
「……っ」
自然と涙がこぼれてきた。声を押し殺そうとしても涙と一緒に漏れ出す。
防ぎようがなかった。決壊したダムのように。その水を止める術を私は持たなかった。
今日の出来事はたくさんあった。記憶から消してもいいようなことだった。まるで夢の中にいてまだ醒めていないのかもしれない。しかし、脳裏に錆のようにこびりつき削り取ることなどできない。そして現実であり、目はとっくに覚めている。あるのは夢などではなく、辛い現実が私を受けている。
「私は……人間では……ない」
自然とこぼれた。
あの時言われた言葉が。
ソーさんから聞かされた話が夢うつつで突拍子もないお話。
――
「に、人間じゃないって、どういうことですか?」
私は彼が言った言葉を理解することができなかった。私の中にあった常識をあっさりとつぶされた。
冗談かと思った。だってそんなわけないから。
頭の中がいくつものしこをめぐりまくっていた。やはり受け止めようとするが、最終的には、違う、という否定へたどり着いていく
「まあ、人間ではある」
「は、はあ? ……あ、すみません」
私はつい怒った口調で言ってしまった。そのあとハッとなって、謝る。
「さて。意味が分からないだろう」
「はい。本当に。どういうことですか?」
「人間ではあるんだ。ただ、普通の人間にはない特殊な力を持っている人種であるということだ」
「も、もう少し詳しくお願いします。混乱していてわけがわかりません」
「五感はわかるよな? 味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚。実はもう一つ人には備わっているものがあるなにかはわかるか?」
「えっと……よくある、第六感というやつ、ですか?」
「そうだ」
「霊感的な不思議な力とかですよね?」
「そうだ。それが普通の人よりも異様に発達しているのが、玲奈、お前だ」
「わたしが?」
いや、そんな馬鹿な。そんな非現実的なことをあざ笑って一蹴してもいいような。だが、じぶんにはそうだと納得して受け止めてしまいそうだった。
なぜなら、先ほどの不思議な体験。目の前で起こった非現実な出来事。そして、幼少期のころからあった不思議な体験や見えていたもの。それの回答が今なされようとしているのだから。
「心当たりはあるだろう?」
「……」
私は静かにうなづいた。
「一般的に超能力というものを扱えるんだ。そういうやつらを「SMP」そう呼ぶんだ」
「いきなり、そんなことをいわれても」
「受け止めようとしなくていい。ただ。頭の片隅にそういうものがあると理解しておけばいい」
――
そう。急にそんなことを言われていも困る。
聞きなれない言葉。突きつけられる現実。ライトノベルや漫画でありそうな非現実的な設定。まさかと思うがそれが今私のリアルとなり果てた。
――「SMP」
それが私のことであるらしい。
つまるところミュータント。マーベルもびっくりだ。超能力者なのだ。
しかし、そのことで、昔からの違和感、謎が解けてすっきりしてしまうところがある。普通とは違う、見えないものが見え、不思議なことが身に起きる。
伝承や言い伝えなどが科学的な論理で説明されたように納得してしまった。
ソーさんがいうには「SMP」とは、簡単にいうと超能力者。一つ何か普通ではない特殊な力を持っているそうだ。例えば、年動力、透視、千里眼、瞬間移動、等々。私の場合は通称『鍵』と呼ばれる能力を持っているそうだ。
この能力はいったい何なのかあまりわかっていない。ただ、この『鍵』の力が、今回私を襲ったやつとその仲間が狙う力のようだ。
この「SMP」のルーツであるが、遥か昔この地球に地球外生命だ。つまるところ宇宙人が飛来してきた。その宇宙人はこの地球でそのまま暮らすようになった。その宇宙人は特殊な力を持っており、その子孫の血が「SMP」という超能力を使える物を生み出した。
あくまでも突然変異体として産まれるそうだ。だから、私の両親は違う。普通の人のようだ。私だけがそのように力を持ったのだ。
そんなことを急に言われても何とも言えない。信じがたいことである。
『鍵』という能力は簡単に言えばあらゆるものを開閉できる能力のようだが、それがどのような使い道ができ、どのように脅威なのかが私にはピンとこない。ソーさんは強力であるといっていたがわからない。
ソーさんは説明してくださったのだが、これもまた非現実的なもので納得がいきづらい。この世界の成り立ちを話してくださった。
――
「はるか昔の話だ。この世界は108つに分かれていた」
「分かれていた? 国みたいな感じですか?」
「並行世界だ。お互いの世界がその並行世界を認知しており、貿易なども栄えていたそうな。だが、あることがきっかけで、全世界で戦争が勃発した。その結果、『天界』、『冥界』、『魔界』、『人間界』の4つの世界に落ちついた。俺たちがいる世界は、『人間界』と呼ばれている所だ」
「ち、ちょっといきなりついていけないんですが」
私の常識をことごとく崩していく。ソーさんはすらすらと言っているが、彼にとっての当たり前のようなことではあるのだろうが、私にとってはるかに非常識で不自然で、現状を飲み込むことができない。不可能に近かった。
「そういうもんだと思って聞いておいてもらいたいんだがな。話進めてもいいか?」
勝手だ。
「わかりました」
納得はしてないけれども、無理やり自分を納得させようとする。
「他の世界とやらは、どうなったんですか?」
「『世界のカケラ』となって、生き残った各世界へと散らばった」
「『世界のカケラ』……ですか?」
「そうだ。宝石のような形になって、な」
ソーさんは立ち上がった。そして、私の横に立つ。
「お前も見ただろう? あの世界を」
「あれって、もしかしてさっきまでいたところの事ですか?」
「そうだ」
「宝石じゃないんですか!?」
「ああ。そうだ。あれはもともと宝石のような小さい石なんだ」
「え、ど、どういうことですか?」
「『星のカケラ』はまあ104つあるわけだが、各々に特殊な力が備わっている。生き返らせたりする力や、万病から救う力もある。欲望を満たしてくれたり、不老不死とか」
私の肩をたたいた。
「別の世界を作り出すという力もな」
「じ、じゃああれがそうだっていうんですね」
「そうだ」
私はためいきをついた。
「でも、それがなんだっていうんですか?
「まあ、君を襲ったやつ。あいつを従えているやつがいるわけだが。そいつがあの力を使い、世界の転覆を狙っている、そういうわけだ」
なんだか話が大事になってきてしまった。
「私はなぜ殺されそうになったのですか?」
「さて。『SMP』それがここの「鍵」だ」
「鍵?」
「ああ。そうだ」
うなづいた。
「まあ、あいつらがお前を狙うのは、その能力が危険だからだ。つまるところ、邪魔なんだよ」
「その能力はいったいどういうものなんですか?」
「俺も詳しくは知らないし、使い方とかは……まあ、後日になるが、説明するにうってつけのいいやつがいるから紹介してやるよ。でだ。どういう能力か、簡潔に言うと、全てあらゆるものを開けたり閉めたりできる能力。単純だろ?」
「は、は? いや、まあ、何となく鍵のイメージと同じで、わかりやすいような、わかりにくいような……。それが、危険なんですか?」
「ああ」
ソーさんは真顔で言った。
「単純故危険ってことさ。ま、あいつらの本当の目的とかは知ったことではないが、少なからず、お前の能力が弊害になるのには間違いない。だから、殺すのだろうな」
「物騒なことは言わないでいただきたいのですが」
「さて、自分の能力のことはわかったな」
「あまりわかっていませんが」
「まあお前は『鍵』の力を持った『SMP』という名の超能力者であり、その能力を目の上のたんこぶのように障害に感じているものがおり、命を狙っているということだ」
釈然とはしない。今は頭の中がパンクしていて、頭を働かせているようなフリ手程度しかできない
――
そんなことを言われても困る。
全然ピンとこないし、それだけではない。命を狙われているなどといわれて心中穏やかでいられるわけがない。
少し前まで普通の女子高校生だったのに、あの事件から急にこのようなことになって。私は受け止めきれないよ。
私はゆっくりと起き上がる。
傷心の私にほしいものは何なのだろうか。私はどのようにこれからしていけばいいのか。私はカーテンを開く。小さな月明かりの優しさに包まれる。目を落とす。いつもと変わらない日常の景色がそこに映る。一つの窓を通して、壁を感じる。数センチの脆いガラスの壁なのに、すごく分厚く、強固なものに感じる。
私をこのような気持ちに押し上げているものはいったい何なのだろうか。
両親の死。死にかけたこと。殺そうとしているものがいること。私が普通の人間ではなかったこと。
「……」
人間じゃ……ない。
多大な衝撃を受けているのはこの一点もあり。
私は普通ではなかった。人間ではなかった。そこらへんに歩く人々と私は違うモノであった。違う、異質、異端、そのモノ。
あまり深くは言えないが、この世には同じ人間でもいろいろな人がいるいわゆる「普通」ではないものがいる。
そういう人たちに対しては、気にも留めないようにはしていたが、どうしても心の奥底のどこかに差別化の意識があった。
それと同じような感情を私は私自身に向けている。
それはいいのか。悪いのか。
私は――
――
「ところで、あの、私のことはわかったのですが、ソーさんも人間じゃないと言っていましたが、ソーさんも「SMP」ということですか?」
「いいや。違う。まあ、これも面倒くさいのだが、成り立ちというのがあってだな。先ほど世界戦争について話したよな。そして今4つの「世界」があると」
「は、はい。確か「天界」「冥界」「魔界」「人間界」ですよね」
「そうだ。今ここが「人間界」と呼ばれている所だが、この「人間界」は「冥界」や「魔界」につながっている。「魔界」に住む魔族と呼ばれるものがいるのだが、その魔族とこの「人間界」に住む人間のハーフが俺たちだ」
「そうなんですか」
「だが、正しく言うと君たちの「SMP」とルーツは同じだよ。先祖が交わりを得て、その子孫が突然変異を起こして、俺たちのようなものが生まれたというわけだ。この俺たちのことを通称「UAC」と呼ぶ」
「「UAC」ですか……。その、「SMP」となにが違うのですか?」
「まあ、そこまで変わりはない。種が違うだけでな。ただ、違うところを他に挙げるというならば、君たち「SMP」が使うものが超能力というのならば、俺たち「UAC」は魔法を使うとでも言っておこうか」
「魔法ですか?」
「ああ。能力は軽々にべらべらしゃべるつもりはないが、例えばあの君を襲った男。見るに至るとどうやら金属を操る程度の能力とみて間違いない。だろうな」
「確かに、何もないところから、鉄棒を出していました」
「そんでもって、うちのロイは空間を操れる」
「く、空間ですか?」
「そうだな。だから、瞬間移動のようなことができる。超能力に近いが、「SMP」よりも幅広い能力が使えるさ」
「ソーさん、あまり喋らないでくださいよ」
ロイと呼ばれた少年が入ってきた。笑いながら注意していた。
「ああ。悪いな。そうだな。せっかくだから、もう一回体験してみるか。玲奈、疲れたろう。家までロイに送らせようか」
――
という形で戻ってきたのだが、色々とすごいことばかりであった。
私は一息つこうかなと思った。
リビングまで降りて水でも一杯飲もうかなと思った。
ドアを開けて下に降りようとしたとき、嫌な臭いがした。
「な……な!」
焼けた嫌な臭い。まさかと思い、駆け下りた。すると、リビングが火に包まれていた。
「どういうこと!?」
私の一日はまだ終わっていなかった。
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