第8話 佐川のくせに

「ごちそうさまでした。うん、美味しかったよ。ありがとうね、佐川」


「はいはい。どういたしまして。遠藤に助けてもらったのは確かだからな。こっちこそありがとうだ」


 200グラムのハンバーグステーキを平らげてお腹が満足気な歓喜を上げている。食後のコーヒーも香り豊かで美味しい。


「そういえば、あの日合コンだって言っていたよな。悪かったな、時間は間に合ったか?」


「大遅刻に決まっているでしょ? わたしが行った時点でほぼ場は出来上がっていたし、わたしの入る隙なんてなかったんだからね」


「それは申し訳ない。お詫びにどこかで、合コンの場でも設けるようにしようか?」


「佐川が? ううん。いらないよ」


「もしかして信用無いの俺? 意外と所属してるフットサルチームの関係者からフリーで良さげなメンズ集められるけど⁉」


「そうじゃなくてね。最近ちょっと良い出会いがあったからそっちに重点を置きたいから、そーいうの今はいらないって感じなんだよね」


 合コンで出会いを見つけたなんて言ったら、ハンバーグステーキが奢りでなくなるかもしれない。平日のランチに2700円(税別)はわたしのお財布にもなかなか厳しいものがある。悪いな、佐川。


「そうなんだ……。じゃあ、俺はフラれたってわけだね」


「いや、あんたのことは3年前にお断りした通りなんですけど⁉」


 この佐川という男は見た目も悪いタイプじゃない。仕事だって3年目にしちゃそこそこ出来るやつなのだ。ただ、女に対してちょっと軽いと言うかチャラいと言うか……。で、3年前の新入社員研修の後もわたしのことをナンパしてきたんだよね。もちろん一発お断りだったんだけど。


「あーあぁ。遠藤ちゃんも誰かのものになっちゃうのかぁー」


「ごちゃごちゃと煩いわね。次はインシデントをアクシデントにしてあげようか?」


「ごめん、ごめん。ちょっとしたジョークだよ。怒らないでよー」


 せっかくの美味しいハンバーグでいい気分だったのが台無しだよ。まったく、こういうところもこいつが女にすぐにフラれる原因なんだろうな。


 ピコンッ♪


 スマホに通知。


 さっき食前に『ハンバーグステーキ! 他人の奢りで豪華なランチで―す』って誠さんにメッセージ送ったんだよね。それの返信かな?


『おお! 美味しそうなハンバーグだね。お腹いっぱいたんと召し上がれ! ハンバーグが好きなのかな。乃愛ちゃんが良ければ今度僕に作らせてくれないかな? 因みに僕のランチはコンビニのサンドイッチです(泣)』


 やっぱり誠さんからだった。

 なんと、ハンバーグを彼が作ってくれるという思ってもみなかった提案に『食べたいです! 是非ともお願いします!』と秒で書き込んでいた。


「なにニヤニヤしてんだよ。それ、例のカレシからか?」


「カレシじゃない、よ。煩い。佐川のくせに黙れ」


「なんか遠藤が酷い……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る