第7話 高級ランチはいただく

「まあ、ここまでやれば誠さんをわたしんち呼んでも問題はないわね」

 既に誠さんを家に呼ぶことだけは決めてかかっているわたしだった。


 こんな風にわたしが掃除に四苦八苦している最中も、誠さんはローストビーフを作ったり、パウンドケーキを焼いたりとなんとも洒落た料理趣味を満喫しているようだった。QOLが違いすぎて若干ビビるけど、こういうのもラインでのやり取りができるのでこれはこれで楽しい。


 日曜日のお昼にはご飯を『食べに来ないか?』なんて誘われたけど、絶賛すっぴん、汗ダクダクで髪もボサボサのまま大掃除を敢行中だったわたしは泣く泣く苦渋の決断でお断りをした。ただ、本当にすごく行きたかったし、もっと誠さんと話をしたかったので、来週末には会う約束だけは取り付けている。ナイス、わたし!

 デートプランは誠さんが考えてくれると言うので、わたしはお呼ばれするだけでいい。こういうところも元カレとは雲泥の差が出るよね。知らないところで引き合いに出される元カレには申し訳ないが、あなたはあなたでそれだけの酷い男だったということでご容赦あれ。



 で、明けて月曜日。

 午前中は先週末のドタバタの影響も感じることなく恙無く過ぎ去った。


「さて、昼だ。佐川、わかってるんだろうな?」


 先週末、この佐川の所為で無駄な残業を強いられ、合コンに遅刻するといった醜態を晒したわけだが、その結果、誠さんという素晴らしき出会いをゲットした。結果オーライなのだけど、そんなことこの佐川は知る由もないので、昼ごはんを奢らすことには変更はない。


「【ラック】の昼定でいいだろ?」


 ラックとは会社の裏手にある雑居ビルに入る洋食屋のことである。サラリーマンの味方、お財布に優しいお味も優しい優良飲食店なのは間違いない。しかし、今日はそれじゃない。

 残業をこのわたしに強いたお詫びを佐川がするのだから、そんなチープ飯では納得がいかない。


「【あらうんど】のハンバーグステーキ、わさび醤油ソースを所望す」

「は? あれ2700円もするじゃんかよ? 昼飯にしちゃ高すぎだろ?」


 あらうんどは国産和牛を使っているちょっとお高めなハンバーグレストランである。一番人気はデミグラスソースらしいが、わたしのオススメはわさび醤油の一択である。


「高いと思うなら、佐川は水でも飲んでおけばいいでしょ? あんた誰のお陰で事案インシデントにならなかったと思っているのよ?」


「……くそ」

「なんですって⁉」


「なんでもないです。あらうんどでいいです。ハンバーグ、行きましょう……」

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