第6話 人の振り見て我が振り直す

 程なく我が家に到着する。


「そこのマンションの5階なの」

「僕の家からも近いね。びっくりしたよ」


 近いと言っても車で15分はかかるのでそれなりには離れているけど、頑張ればいつだってすぐに会える距離だよね。ただ電車の路線は別になるので、わたしが彼の家に向かうとなるとそれなりに良い時間がかかることにはなりそう。今度バス路線も調べてみよう。


「また連絡すね」

「僕も連絡するよ。またね」


「あっ、ちょっと待って」

「なに?」


「大事なこと聞き忘れていた。陣内さんの下の名前ってなに?」

「誠。誠実の誠でマコトね」


 名は体を表すって言うけれど、この人の場合はそのとおりだと思うわ。酔っ払いの裸女がベッドに居るのに手を出さないなんて誠実な人じゃないと無理だよね。というか思い返してみるとわたしなにをやっているんだろう。身持ちが堅いとかどこのどいつのことを言っているのだか。


「うん、誠さん。またね」

「またね。乃愛ちゃん」


 誠さんの車が見えなくなるまで見送る。『乃愛ちゃん』だって。久しぶりに名前をちゃん付けで呼ばれた気がする。うれしはずかし朝帰りの上、女の子っぽっく扱われると久しぶりすぎて全身がむず痒くなってくる。

 く~っやっば! これってばマジで恋する◯秒前じゃん!


 元カレと別れて3年ちょい。まったく出会いのなかったわたしに、ついに来たのか、新しい出会い。


「ちょっとこれは大切に育てたいんですけどー!」


 狙ってもいなかったし、なんなら残業で出遅れて捨てゲームだと思っていたのにとんでもない拾い物をしたって感じ。

 いや、誠さんのことを拾い物っていうのは申し訳ない。どちらかと言うと転がっていたわたしを拾ってくれたのが誠さんの方だもんね。


「よし! 頑張ろう! って、まずは下着替えよう……」



 あの後の土日2日間は部屋の大掃除をして過ごした。ごみ袋5袋分の大ゴミが出たけど、スッキリしたので満足である。誠さんの部屋を見た後に自分の部屋を見たら、とてもじゃないけど誠さんをこの部屋に上げることは出来ないな、と思った次第。

 こんなんじゃ絶対にいい雰囲気なんかにはならない、ゼッタイ。


 誠さんの部屋みたいにオシャレな部屋にするのは、わたしに断然センスが足りないのを自覚しているので早々に諦めているのだけれど、せめてお部屋の清潔さぐらいは保っておきたいもんね。

 玄関ドアを開けたら床に乱雑に落ちているシャツや雑誌の付録なんかをみてそう思ったわけよ。

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